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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
2章 成長期

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18/63

18 亀裂

  誰も居ない学園の廊下を一人で歩くススムがいた。今は午前と午後の授業の間、生徒は昼食をするための時間である。いつもならこの時間、人気のないベンチに向かう人影は三人のはずだが今日に限っては一人だった。


  いつもは賑やかな会話が聞こえてくるその場所は今は聞こえてくることはない。


  ススムは特にすることも無く毎日の主観でなんとなくここにきてしまったのだ。いつも自分が座るベンチに腰を下ろす。一人で占拠するにはいささか大きいベンチは少し寂しい気持ちにさせるものだ。ぐうう~~~、、っとお腹の音が鳴り響く。


  「腹減ったな……」


  なぜススムが今こうしているかというとエリナとリナリーはパーティを組む事になる人と面会をしているそうで、簡単に言えば初対面兼食事会である。今後共に過ごしていく仲間と親睦を深めるため学園主催で行っているだとか。


  ちなみに聞いた話だとその候補の中に王都から離れた町で見つかった『剣聖』を持っている貴族の男の子もいるとライトから噂で聞いていた。三大クラスの『勇者』と『剣聖』が組めばきっと無敵のパーティとなるぐらい凄いものが出来上がるだろう。でもそうなってしまえばススムにエリナの傍の場所は無くなる事を意味する。


  見知らぬ誰かがエリナの隣の立つ姿を思い浮かべる。ススムにとって一番大事なことは何がエリナの為になるかであるためその将来の光景はエリナの気持ちに関係なく有益なものである事には違いない。


  でも……少し……少しだけ……寂しく感じた。


  普段はメイドのアリアさんに二人のついでにお弁当を持っていてもらっているがススム一人の為にアリアさんに学園まで来てもらうのは気が引けるので今日だけ学食で済ませると言ってお断りさせていただいたのだ。


  だが少しでもお金を節約させたいためにススムは今日の昼飯を食べるつもりはなかった。


  座りながらふと自分が何もしていない時間が久しぶりである事に気が付いた。神託を受けたあの日から思えばこうやって何もしない時間など無かった気がする。学園、仕事、強化、それらを繰り返していくうちにススムの中で”休む”事は頭から抜けていた。


  「そういえば……しばらくあそこに行ってないな」


  この学園に来たころを思い出した時にある事を思いつきススムはベンチから腰を上げて初等部の校舎の裏、木々の中にある整えられていない道を進んで行く。


  ススムは久しぶりに王立図書館に行くことにした。肉体の強化方法を調べるために毎日のようにここで閉館まで本や資料とにらめっこしたものだ。扉を開き中へ入ると独特の本の匂いがする。ここは前から何も変わっていなかった。入館の手続きをするために司書のおばあさんに向かう。


  「すいません。入館の―――」

  「おや! 黒色の坊やじゃないかい。久しぶりだねぇ」

  「え、覚えていてくださったんですか!?」

  「君は毎日のようにここに来てたからね……しかも黒髪だったし」


  この人と話したのなんて本の持ち出し申請をするために会話をしたぐらいだ。このおばあさんにとってススムは十分印象に残っていたらしい。


  「今日は何の用で?」

  「いえ、特に何かを調べるって訳ではないんです。何かあるかなって程度で……」

  「そうなのかい。だったら―――」


  そう言って司書のおばあさんが一つの本を渡してきた。


  「この『六天の歴』って本はどうだい?」

  「『六天』ですか?」


  聞けばこの本は昔いた6人組の六天と呼ばれるパーティの英雄譚や個人の歴史について書かれているようで皆が子供の頃に聞く黒髪の英雄『アーク』もこの一人だそうだ。


  「随分と昔の本でね……もう誰も持っちゃいないよ。あんたの黒い髪を見て思い出したのさ」

  「アーク……」


  ススムは前からこの英雄について気になっていたのだ。自分の黒い髪が珍しがられたり変な期待を寄せられたりする原因の人物に興味が湧く。


  「この本を貸出しすることはできませんか?」

  「いいよ、これはあたしがこの図書館に置いた本だからあんたにあげるよ」

  「いいんですかそんなことして!?」

  「これ、誰にも借りられないのさ……今じゃもっと栄光に満ちた英雄譚の本が出回ってるからこの本みたく忠実に起こった失敗談なんて載ってたら人気がなくなるんだね……こうやって隅で誇りを被るよりもあんたにあげた方がよさそうだ!」


  そうしてススムは思いがけず一冊の本『六天の歴』を貰った。


  ススムは木々の道を歩きながらざっとその本の内容に目を通す。そこにはアークの事だけではなく他の五人の事も書かれていた。ハイエルフ、獣人種、妖精族……。六天のほとんどが人間以外の種族で構成されていたようだ。ススムはまた一つページを開き読み進めていった。


                    〇

                     

   午後の授業が終わりススムとエリナとリナリーは校門の近くまで歩いていた。今日は二人と喋る時間があまりなかったのでススムにとっては日々の忙しい時間の息抜きに近かった。


  「それであの露店の串焼きはおいしかったよね!」

  「……」

  「そうね! また露店が出るとき行ってみましょ、エリナ!?」

  「……うん」

  「「……」」


  先ほどからエリナの返事が弱々しくススムとリナリーは何とか場を盛り上げようとするがエリナの耳には入らないようだ。エリナの沈黙に沈黙にこちらの口も止まってしまいいつの間にか校門に着いてしまっていた。


  「ススム君……」

 

  思いつめたようにエリナがススムの顔を見つめた。


  「何?」

  「私今日、パーティを組むように言われたの」

  「う、うん」

  「そこにはね、リナリーも一緒にパーティになる事が決まったの……」

  「そうなんだ! よかったじゃないか!」


  エリナもリナリー様も互いに近くにいた方がいい。すっかり親友になった二人はきっと信頼できる良いパーティを組める。それにリナリー様だって多彩なスキルを持っているのだ、剣聖や勇者にだって遅れをとらないはず。

 

  そう思ってリナリー様の方を見ると先ほどまでの明るく振る舞っていた彼女ではなく事態の重みを知っている人の顔をしていた。


  「でも、ススム君をパーティに入れたいって言ったら……ダメだって……」

 

  エリナ達はススムをパーティに入れてもらえるようにお願いをしていた。だがその願いを学園側が認めるはずがなかった。学園側としては王都中の人が注目をしている勇者のパーティにススムのような無能を入れるわけにはいかないのだ。


  誰しもが納得できる理由、でもエリナは納得がいかなかったのだ。リナリーは理解はできたが内心ススムには一緒にいてほしい気持ちは大きい。


  そんな二人は何度も抗議をした。でも聞き入れられることは無かったのだ。


  「ススム君やみんなが私が勇者になる事を応援してくれてるのは嬉しい……。でもそこにススム君が居なかったら私何の意味も無いの!」


  温厚なエリナが大きく叫びながらススムに訴えていた。その瞳からはボロボロと涙がこぼれ落ちる。


  「ススム君、一緒にいてよ……なんで寮に住んじゃうの!? なんで学校の後一緒に居られないの!? 私、君が居なかったら勇者になる意味なんてないよ!」


  それは今まで積もっていたエリナのススムへの感情だった。


  「傍にいてよ……一人にしないでよ……」


  私が見つけた王子様、いつも傍にいてくれて守ってくれる黒髪の少年。エリナにとってススムはそこにいてあたり前だった。でも大きくなるにつれて共にいる時間が減っていった。それは周りから見ればススムからの卒業、でもエリナにとってそれは恐怖だった。


  リナリーが居てくれたおかげでお屋敷では寂しくなかった。学校に行けばススムにちゃんと会える。そこまでは耐えれた。でもこれから先、勇者となる鍛錬には彼は居ない、パーティにも彼は居ない。もっともっとあえなくなってしまう、そう考えると怖くなってしまったのだ。


  エリナはススムに依存してしまっていた。ずっと一緒にいてほしい、傍にいてほしい。そんなエリナの依存にススムはこの時初めて気が付いたのだ。


  その恐怖はエリナの奥底にあった言ってはいけない言葉を引きずり出す。



  「なんで……なんで……」


  エリナが言わんとしている事に気が付いたリナリーが止めようとするがエリナの口の方が早かった。




  「ススム君はそんな神託ステータスだったの……」




  バチン 


  その言葉を言った時、エリナの頬はリナリーによって叩かれていた。


  「エリナ、あなた何てことをいうの!」


  今までにないほどにリナリーは怒っていた。最優のクラス持ちのエリナがススムのステータスについて責めることなどあってはならない事だった。


  リナリーによる平手によって自分が何を口走ってしまったのかをエリナは理解し始めた。


  「えっと……その、ご、ごめんね? こんな事言うつもりじゃ―――」


  二人はススムの反応をうかがった。それは信頼を置くエリナからの落胆に対して激怒するわけでもなく、エリナの気持ちを聞いて悲しむわけでもなかった。


  ススムはいつものように、笑いかけるように微笑んでいた。



  「大丈夫だよ。僕も”頑張る”からさ」


  

  いつもと変わらない微笑みを向ける。


  「では、お二人ともまた明日」


  そうニッコリと言うとススムは学園の中へと戻っていったのだ。


  二人はその場から動くことができなかった。ススムはいつものように「頑張る」と言ったのだ、まるで宿題や勉強、テストなどを頑張る時と同じように。その時のススムの笑顔が頭から離れなかった。その嬉しそうな顔はまるで”聞きたかった頼み事を聞けた”かのようにも感じられた。


  いったい何分ぐらいそうやっていたのだろうか、先に動き出したのはリナリーの方だった。


  「―――っ! 私、ススムが心配だから探しに行くわ」

  「わ、私も!」

  「いえ、あなたは家に帰って頭を冷やしなさい。ススムにはちゃんと誤解だって伝えておくから」

  「う、うん」


  しぶしぶ了承したエリナはまだ涙でぬれた瞳を脱ぐいながら帰り道を進んで行った。


                     〇


  ススムは一人学園中を歩き寮へと向かう。その表情は先ほどまでと同じ笑みだった。


  エリナの要求はつまり、私の隣に立てるほど強くなって欲しいという事だった。それは前からススムはそのつもりであったしエリナもそれを望んでいるとわかったのだ。なら”頑張らなきゃ”いけない。


  寮に入ろうとすると二人ほど見たくない顔が見えた。


  「よぉ、平民。グレイ様がいつもの場所でまってるぜ」

  「ほら、さっさと行け!」


  顔を見たくない取り巻きの誰かさんそして呼ぶ出されのがいつもの場所。相手がグレイだったらおそらくあれだろう。


  ススムは連行されるように指定の場所へと向かった。


  そこのはいつものように取り巻き達とグレイ本人が待っていた。でも少しいつもと様子が違う……。周りの取り巻きはこんなに十人も超えるほどいただろうか?見ると下の学年の生徒も混じっている。貴族ではない平民の生徒もいるようだ。


  「やっと来たみたいだな……クソ平民。喜べよ平民、これが最後のリンチにしてやるからよ」


  最後、そうグレイは言った。だからこうまでして人数を集めて最後のリンチをしようって訳なのだ。いくら肉体を鍛えていると言ってもこの人数だと打ち身や傷程度で済まないかもしれない……骨折だけは避けたいとススムは思う。


  まず最初に動いたのはいつものメンツであった。四人ほどが囲み初級魔法を展開させる。その四つの魔法はススムの体を穿った。その威力にススムは驚く。


  やはり、こいつらもパーティを組んでレベルアップを始めたのだろう。日を超すごとに威力が上がっているのだ。幾らかマシになった程度ではススムの体は耐えることができる、ただこう数を撃ち込まれては体がもたない。


  「ほら! お前らもやっちまえ!」


  グレイの呼びかけで後ろに控えていた平民の生徒や下級生が前に立たされた。彼らは無理やりここに連れてこられたのだろう。そのススムに対しての申し訳なさそうな顔を見れば伝わって来る。


  きっと逆らえば自分達もこの男のようにリンチを受けるかもしれない。その恐怖は人を傷つける動機となったのだ。やらなければ自分がやられる……。


  「ごめん……なさい……」


  小さくボソッと謝罪の言葉が聞える。それを聞いたススムは彼らを恨む気にはならなかった。


  「気にするな」


  そうススムが言った後、十を超える初級魔法が撃ち込まれた。


  そこからのススムの意識は途切れ途切れだった。魔力が切れればグレイと他の近接職が出て来て殴る蹴るの攻撃、スキルとステータスで強化された彼らの拳はススムの体を十分に痛み付けた。そして魔力がまたたまれば後退、その繰り返し。


  それらが何度繰り返されたころだったろうか……。


  「おまえたち! ススムになってことを!」


  一人の女性の怒号が鳴り響いた。そちらを向くと両手に凄まじい魔力を貯めたリナリーが赤い髪をゆらゆらと魔力の波動で揺らしながら立っている。その魔力は風魔法の色へと姿を変えていった。それは取り巻き達が使用している初級魔法『ウィンドバレット』だがその密度と制度が段違いであることはここにいる全員が感じ取れるものだった。


  「ウィンドバレット!」


  スキルによる詠唱短縮で一瞬にして打ち出された魔法は一直線にグレイのもとへと飛んで行った。素早い魔法の軌道に対応できなかったグレイは体を動かし避ける事ができない。


  だが、魔法はグレイに当たる事はなかった。グレイの前に飛び出した一つの影が盾となって防がれたのだ。着弾すると圧縮されていた空気が一気に暴発して体を空へと弾き飛ばした。一人の男の子が宙を舞う、その少年はススムだった。


  子供とは思えないほどの魔法で宙にはじかれたススムは体を動かし受け身を取る事なく体は地面に力なく打ち付けられた。


  そんな圧倒的な魔法を見せられた少年たちの中には恐怖が生まれていた。次あれを向けられるのは自分かもしれない、そう思った彼らは―――ー


  「う、うわぁぁぁぁ」

 

  その場から走って逃げて行った。一人また一人と走って逃げていき状況が不利になっていくグレイは「チッ」と舌打ちをして取り巻きを連れて去って行った。


  リナリーはなぜ攻撃していたグレイをかばったのか訳が分からないでいたが力なく倒れるススムが目に入る。


  「ススム!」


  駆けつけてススムの体を抱き起す。自分の魔法でついたのか、それともそれまでの攻撃でついたのか、ススムの体は痣や小さな切り傷、顔からは血がにじみ出ていた。


  「リナリー様……はは、見つかっちゃいましたか……」


  力なくススムがつぶやく。


  リナリー様には心配をかけたくなかったので知られたくは無かったのだがついに見つかってしまった。


  「何であんな奴をかばったの!」


  「ダメです、リナリー様。相手は貴族です。貴族が貴族を傷つける事はフォードの立場が悪くなってしまいますよ……」

  「だって、あいつはススムを……あたしやエリナ、フォードのみんなが大切に思ってるススムをこんなにしたんだよ!? 許せるわけが―――」 

  「リナリー様、僕は平民です。フォード家と付き合いがありますが貴族の家に仕える家系でもありません、家が有名なわけでもありません。ただのススムなんです。あのグレイはただの平民を痛み付けていたにすぎません……僕を庇う事は平民を守るためにレイガストと対立することを意味しています。リナリー様ならこの意味が解りますね?」


  よろよろとススムは立ち上がった。体を動かしながら全身の状態を確かめていく、どうやら骨折まではしてないみたくただ傷跡が痛むだけであった。


  「ススム、いつからこんな事が……?」


  地面に座ったままのリナリーが見上げるようにこちらを見ていた。リナリーはそれなりに頭が切れる人だからこのような”イジメ”が今回だけではないことに気が付いているのだ。でも、それを教える事、事態の原因や内容を教えればリナリーは動いてしまうかもしれない、女の子一人ではどうしようもない事なのでおそらくはフレイド様を頼る事になるだろう。フレイド様、つまりフォードが動きススムを庇うことはフォードの貴族としての立場を危うくしかねない。


  「リナリー様、大丈夫ですよ。この事については僕自身で何とかしますから」

  「なんで……あなたはいつもそう言うの……」


  急に立ち上がったリナリーはススムの胸倉を掴んで校舎の壁に押し付けた。魔法クラスの人とは思えないほどの力で押し付けられススムはなされるがままに壁に押し付けられる。


  「何でいっつもいっつも”大丈夫”って言うの! なんでもかんでも一人でやってあたしたちの事をいつも”大丈夫だ”って言って遠ざける。寮で一人で暮らす時も、神託の後も、心配しても帰って来る言葉は”大丈夫”。なんで私達を頼ってくれないのよ!?」


  リナリーの目からはうっすらと涙がにじんでいた。気高くいつも高貴な人でいるリナリーの泣いている姿は初めてだった。その姿を見られまいとリナリーはススムの胸に顔をうずめた。


  「さっきだってエリナに”大丈夫”って……ちゃんとこの事はエリナにも話して―――」

  「ダメです! それだけはダメです」

  「どうしてよ!? エリナの事も頼れないの!?」


  先程よりもリナリーの掴む力が強くなっている。おそらく何を言ってもこの事を見逃してくれるつもりはないだろう。


  「わかりました……リナリー様には一つ話をしましょうか」

  「話? 何を言いってるのよ、今はそんな事じゃなくて―――」


  「ある、一人の少年の前世です」

 作者、まだまだ主人公には”頑張って”もらうつもりですよ!


 そう簡単に最強になれるわけではありませんし、やっぱり最強になるには最強の”努力”でしょ!

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