16 学園の日常(1)
すいません少し間が空いてしまいました。
未だ朝日が昇っていない薄暗い部屋でススムは既に起床して装いを寝間着から学生服へと着替える。日が出ていないので寮の周りは小鳥の音さえまだ聞こえない。
着替え終わるとすぐに寮、学園の敷地から走って出てゆく。
早朝の荷物の運び入れの仕事のために商業区にある店舗、それのさらに奥にある倉庫までの道のりをただひたすらに走るのではなく早朝のランニングも兼ねているので時間の許す限り遠回りして向かっている。
王都を囲む防壁の向こうがうっすらと明るくなる中、誰も居ない貴族街をひたすら走っていく。その速さは10歳の子供とは思えないほどの速さで、もし今の彼の姿を誰かが見たらきっとレベルの強化かスキルによる加護が働いているのだろうと思うはずである。
壁から朝日がうっすらと見え始め王都の町を明るく照らし出すころにススムは目的の場所に到着した。
「おはよございます!」
「おぉ! いつも早いなススム! 今日も頼むぜ」
「任せてください!」
この倉庫はススムがよく夜の仕事を手伝っている飲食店や雑貨屋などが共同で使用している倉庫で荷物の出し入れと運搬は人の居ない早朝に行われる。
この仕事は報酬が良いのでススムはここ何年かははぼ毎日手伝っている。
「こっちの箱がうちの店に入荷した材料。これは入れちまってくれ。んで、これが雑貨屋の―――」
今日の分の仕事が伝えられた。
「わかりました。それじゃやっちゃいますよ!」
ススムは学生服の裾を捲り上げ仕事に取り掛かる。
先に倉庫から取り出す分の箱を出し終えて、入れる物を運び込んでいる時、監督役で共に運び入れをしている人からだった。
「ススム、お前よくこんな箱が持てるな。これ重いだろう?」
「そうですね……確かに重いですけど持てなくはありませんよ」
「そうかよ、いったいどんな鍛え方をしてるんだか……」
「ハハハ……普通にですよ……?」
そう言いながら自分の胸まである箱をススムは持ち上げている。
ススムはもう10歳だが既に成人男性ほどの筋力を手に入れていた。独自で見つけ出した強化方法、自身の増加した筋肉繊維を圧縮し蓄える事を続けここまできていた。
だがこの強化方法はただ魔物の肉を食べいればいいわけではない。
一度、飢餓状態にしたネズミに魔物の肉を与えてみた。最初は本能で食す事を拒んでいたが空腹に耐えられずネズミは肉を喰らった。結果……ネズミは死亡したのだ。
死亡したネズミの体を調べてみると筋肉は他の部位よりも黒く肉が圧縮されたように変化していてそれは自らの肉体に起こった変化と同じだったが、ネズミには他にも変化した部位があった。
肺と腸が圧縮され小さくなっていたのだ。
おそらく魔物の肉を魔物以外が食べるとまず筋肉が圧縮されるが十分な量の筋肉が無かった場合、その圧縮のエネルギーは内臓へと向かってしまうのだと思われる。だから飢餓状態のネズミは内臓の圧縮によって肺が潰れ、腸がちぎれ死に至ったのだ。
(今思えば先に実験を行ってから食えばよかった……。なんて危険でバカな事をしたんだ)
〇
早朝の仕事が終わりその足ですぐに学園へと戻る。貴族街を駆け足で進んでいると周りにちらほらと制服を着た生徒が見え始めた。中等部や高等部の人もいる中をススムは走っていく。さすがに全力で走るとステータスと身体能力が違うことに気づかれかねないので年相応な”走り”で向かう。
真っすぐ学校に向かったため行きよりも早さは無かったが時間はかからなかった。
校舎に入り五年生の教室に入ると既に十人ほど来ていた。。そのうちの一人に近づいていく。
「やぁ、ライト。相変わらず早いな」
「おはようススム君」
そこにいるのはこの学園で唯一、エリナやリナリー意外に仲良くなった友人のライトだった。彼は自分の机に参考書を開いて自習をしていた。
「早いって……僕が部屋を出るときいっつも寮に居ないのに何で教室には僕より遅く来るの?」
「えっと……いろいろあるんだよ」
「いろいろねぇ……」
ライトはススムが早朝から仕事に出かけているとは知らないのでこういった疑問も仕方ない。
「にしてもライトは勉強熱心だな。この前の成績も二位だったじゃないか! この調子でいけば中等部は特待生でいけるんじゃないか?」
「それを一位の人にはいわれたくないよ……。君だって特待生を狙えるだろうに」
「いやぁ……僕は、多分無理かな?」
「何で?」
どう考えても中等部に進学させてもらえるとは思えないからだ。
ススムを退学させるつもりでフォード家からの援助を止めのだ、その理不尽な措置に反抗するように自分でお金を稼いでるわけで……そんな反抗的かつ今すぐにでも退学にさせたい生徒を特待生どころかまともに進級させてくれるはずがない。
学園側が正々堂々と退学にさせる方法は成績、授業料、そして進級試験ぐらいだから多分進級試験は無理難題を出され且つまともに採点してもらえないと思う。
「いろいろあるんだよ……」
「それも色々なんだ」
「無能な平民が随分と調子に乗ってるみたいだな!」
嘲笑うかのような大きな声が教室中に響き渡った。その発生源はいつも同じ人。
「どうも……グレイ・レイガスト様……」
ススムはやって来た同い年の少年に頭を下げる。レイガスト家の三男だったか次男だったか……長男ではない筈、彼の家は昔はフォード家と肩を並べるほどに名が通っていたそうだが今では過去程の栄光もなく所謂没落中の貴族。
だが、どんなに没落しようが貴族は貴族。その名のカリスマはグレイの後ろについている取り巻きが証明している。
「おい平民! そろそろ身分をわきまえたか? フォードの二人の隣には貴様は相応しくないのだよ。さっさと平民は平民らしく隅に居ればいいのだ!」
こいつは何かといってはエリナとリナリーがらみで因縁をつけてくる厄介なやつで、二人な優秀な職業且つ優秀な家柄なのもあり二人に取り入ろうとして躍起にやっているが、そこにいつもススムがいるので敵視を向けてくる。
でも彼はそれを抜いてもあの二人が欲しいのだろう。
「そうだ、そうだ。お前のような無能にはこの学園にいる資格もない!」
「俺らの空間にいるんじゃない! 消えろ」
「グレイ様はお優しい人だ。お前のような奴に忠告をしてくださっているのだぞ!」
いったいどこが優しいのだろう……。相変わらず取り巻きがやんややんやと騒ぎ立てる。
隣のライトは俯き机に顔を向けている。これが正しいのだ。理不尽な貴族には関わらないのが平民の唯一の対処法だからだ。
ススムはもう一度グレイの顔を見、そして再び頭を軽く下げる。
「グレイ様ご忠告ありがとうございます」
「ふん、やっとわかったか!」
「ですが――――」
下げていた顔を上げ真っすぐにグレイを見る。その目には何があっても変えない覚悟がある。
「フォード家当主、フレイド様より彼女達の手助けをするように命じられております。私はあの御方達に拒まれることが無い限り傍にいるつもりですので」
その言葉を聞いたグレイの顔が憤怒の如く燃えるように赤くなる。
「お前はまた俺のいう事を聞かないのか、平民! 放課後に……分かってるだろうな!?」
「……」
無言で返したススムの横をグレイたちが通り過ぎて行く。取り巻きが一人一人横で罵詈雑言を吐いていたが中身が高校生のススムにとってそんな言葉は子供の癇癪程度にしか聞こえない……実際に子供の癇癪なのだが。
今日もか……仕事をしなければいけないのに……面倒な。
「ごめんね……ススム君。僕何もできなくて……」
「気にするなライト、お前が悪いんじゃないからさ。普通はこうやって目を付けられてる奴と仲良くしようしないものさ。僕としてはエリナやリナリー様以外とこうやって話す友達がいてとっても嬉しいんだよ。だからもしライトが狙われるようなことがあったら俺を切り捨ててくれていいからな」
「そんな事しないよ!」
「……ありがとうな」
こうやって友達と腹を割った話をすると少し恥ずかしいものがある。
既に室内は先ほどまでの険悪なムードは消え去り日常的な学園の教室風景となっていた。にしても今日は二人が遅い。
そう二人の事を考えた時、教室の扉が開かれフォード家のご令嬢方が無事に登校なされたようだ。
リナリー様は昔みたくぶっきらぼうで豪快な性格が少し収まり段々と大人の魅力を見せ始めていた。体つきは他の女子よりも成長が早く胸はちゃんとそこにあると明かるほどの大きさ、身長も第二次性徴のおかげでススムより少し身長が高くなっている。クラスの面々に向ける顔は淑女と言ってもいいぐらいの美を醸し出していた……が、ススムを見つけた途端腕を組み「ふん!」と鼻息を立てて歩み寄る。
「今日はパンがおいしくて登校がおくれてしまったわ!」
リナリー様はススムに対しては前から態度が変わらない。そろそろ、優しい接し方をしてくれてもいいのではないかと常々ススムは思っている。
そんなリナリーに付いて行くように近づくのが幼馴染のエリナである。
エリナも昔に比べて成長をした。母親のアイシャさんに似てかなりの美形に成長をしている。エリナもリナリー様ほどではないが体つきも成長している。背まで伸ばした赤茶の髪がふわっと揺れるたびに「はぁ~//」という声が男だけでなく女子からも聞こえる。今もクラスの男子の何人かはエリナに首ったけである。
「私はそんなに食べてないよ!? リナリーよりは一個か二個は少ないから!」
「エリナ、あんまり言い訳になってないよ?」
「そうよエリナ! どうせならはっきりと言った方がいいわ!」
「いや、リナリー様はもう少し隠してください」
「ススムだから教えてるのよ!」
どうだ!と言わんばかりに腕を組むリナリー様。クラスにまる聞こえですからね……。
朝から沢山のパンを食べた事をススムに知られたエリナは顔を赤らめそれを手で覆い隠していた。
「あら、ライト君もおはようございます」
「おはようございます。ライト君」
ススムの隣に気が付いたリナリー様は素早く淑女モードになりライトに挨拶をし、エリナもそれに続く。
「おはようございます、リナリー様、エリナ様!」
ライトも初対面の時は足が震えていたが今では日常的な会話をよくする程になっていてクラスではススムの次にこの二人に近いと言っても過言ではない。
「ライトと成績の話をしていたんですよ」
「ススム、今回は三位だったけど今度は一位の座はもらうわよ!」
「フッフッフ、たとえリナリー様でも一位の座は譲りませんよ!」
リナリーとススムの間に火花が散る。
「私、今回そんなに良くなかった……」
「エリナも頑張れ! 目指せ四位」
「勝たせてくれないんだ……ススム君」
そんな三人の様子をライトは笑って傍観するが―――
「ライト君、今度はあなたにも負けませんからね!」
「え……」
いきなり飛んできた宣戦布告に慄くライトであった。
そんな四人の光景をグレイは憎悪の眼差しで見つめ、そしてそれに唯一ススムだけがその視線に気が付いていた。
段々と読んでくださる人が増えてとても嬉しいです。これからも頑張ります!




