12 新たなる苦難
ススムは魔物に関する本を棚から出し読み始めていた。
魔物。
動物と似た肉体を持っているが生態は全く異なり多種多様な種類が存在する。魔物に共通するのが魔石と呼ばれる鉱石を体内に生成しそれは人の生活にとても役に立つ物で冒険者は魔物の魔石を主な収入源としている。
元の世界には居なかった存在はススムに多少の興味を持たせた。
目に付いた魔物関する本や研究資料を棚から引っ張り出して誰も居ない机に並べていく。
ある程度揃えたので机に座って読み始めた。
「なるほど……動物とは似ていても生態が独特なのか。それでこの―――」
そこには山ほど積まれた本や資料をブツブツと独り言を喋りながら読んでいく初等科の少年というある意味で異様な光景があった。
〇
「あの少年をどうする?」
学園にある一室に初老の男性が数人集まっていた。あの少年と呼ばれたススムについての持論がこの部屋で行われている。
「レベル上昇不可。そんなスキル? なんでしょうか、そんな物聞いたこともありませんがこの場合はスキルの希少性よりも学園の評判を気にするべきかと……」
どうする、と初等科の校長に聞かれた教師が答えた。
「そうですね。あのスキルが本当だとすると彼はもうこれ以上成長することはありません。この学園に置いていても時間の無駄でしょう。それに貴族様方からの批判もあります。そんな無能と共に勉学はさせたくないと……」
他の教師もそれに同調するように述べる。
「でも彼の成績は初等科一年の中ではトップクラスです。座学しかない初等科では成績を理由にするのは難しいでしょう。しかも彼はフォード伯爵の推薦で入学したとか。そんな彼を理由もなく退学にさせようものなら伯爵様が黙ってはいないでしょう」
「では、金銭面を理由にしては?」
そう発言した教師に注目が集まる。
「聞いたところによると彼は孤児だそうです。この学校での授業料は親の資金援助のみ許しています。身元がはっきりしない者を入学させるわけにはいきませんからね。今まではフォード伯爵の推薦ということで不問となっていましたがそれを理由にすれば」
「なるほど! 授業料を払えないという理由で退学にすることができると。しかし伯爵に裏から金を渡されていたらどうする」
発言元の教師が答えに詰まってしまった。すると校長が答えを出す。
「彼からの金銭は収入がはっきりとしている物のみ受け取ることにしたらどうだ」
「おぉ、それならば伯爵からの援助も受けることはできない。彼自身が金を用意しない限り持ち金が底をつき次第に退学させる事ができる!」
周りの教師もそれに納得したようで「それなら大丈夫だな」や「これで学園の評判を守れる」といった声が聞こえる。
「ではその旨をフォード伯爵に」
〇
ある日、いつものように昼食を食べ終わりエリナ達と別れる時アリアさんが耳元で小さくエリナ達には聞こえないようにささやいてきた。
「ススムさん。今日夕刻にフォード邸にいらっしゃってください。フレイド様がお呼びになられています」
こうゆう風に二人に聞こえないように伝えるってことはエリナ達には伝えられない内容なのだろう。
「わかりました。後で伺います」
そう小さく答えると何事も無かったようにアリアさんは昼食の後片付けを再開した。
アリアさんに言われとうりに今日は図書館での調べものを切り上げてフォード邸に向かっていた。魔物に関しての調べもので一つ可能性を見つけていたのでそれについてじっくりと調べたかったのだがフレイド様に呼ばれたとあっては行かなければ。
フォード邸につくと初老の執事が案内をしてくれてフロイド様の応接室に通される。
扉が開かれると大きな体のフロイド様が目に入ったがいつもの豪快さのオーラはそこにはなく真剣な趣の顔をした彼がいた。
「よくこんな時間に来てくれたススム君。リナリー達に聞かせるわけにはいかないからね。彼女たちは今この館にはいないよ」
その言葉を聞いてススムはここに呼ばれた原因が自分である事、そしてフレイド様をここまで真剣にさせている事で何を言われるかが予想した。
「失礼します」
フレイド様と向かい合うようにソファに腰掛ける。
重い雰囲気を出し沈黙しているフレイド様に何か話しやすくなるような話題を探し話す。
「リナリー様は魔導士で沢山のスキルをお持ちで驚きましたよ。それにエリナも勇者に選ばれたりして、お二人の傍にいる身としてはとても嬉しい事でした」
「あ、あぁそうだな。私もフォード家当主として鼻が高いよ。町は勇者が現れたという話題でいっぱいさ。会う人会う人にエリナに合わせてくれ、リナリーを一目見たいと言われ続けてるよ。それで――」
自分の姪と娘の自慢話が続いていた。先ほどの雰囲気は消え去りフレイド様は二人の神託後の様子を話してくれた。
やっぱり勇者の話題は大きく、今後強大な力を手にするエリナと顔見知りになっておきたいという人は沢山いるようだ。リナリー様も数多くのスキルを持っているという事で二人は今後王城に招かれるかもしれないらしい。
フレイド様がいつものように戻っていたので本題に入ろう。
「申し訳ありません。そんな二人と比べて見苦しい神託を受けてしまって……」
おそらく今回呼ばれたのはススムのレベル上昇不可についてだろうと思っていた。
エリナには伝えないように言ったがフロイド様が気にならないわけがないのだ。教えてしまった彼女たちには非はない。全部自分が悪いのだとススムは思っていた。
もしかしたら今後エリナ達に合わせてもらえないかもしれない、学園も辞めさせられるかもしれないな。そんな考えが頭をよぎる。
「いや、私としては君が落ち込んでいないか心配だったのだよ」
だが帰って来たのは意外な返事だった。
「エリナやリナリーにも聞いていたが、こう改めて合って落ち込んでいないようでよかったよ。やはり君は強い子だ」
「い、いえ。そんな事は……。ただ今はがむしゃらに頑張っているだけで」
よかった。レベル上昇不可に関しては御咎めは無いらしい。ならどうして――
「伝えにくい話なんだが……実は学園が君への援助を認めないと伝えてきたんだよ」
そこからフレイド様が学園から伝えられた内容を教えてくださった。それはつまり学園に通いたければ自分で金銭面を工面しろ、という話だった。
「私も学園に抗議したのだが、あそこは権力とは切り離されている機関だから……」
無理だったのだろう。確かに学園側の言い分も分かる。
貴族の子を教育し、平民の子も優秀な人材として育成し派出する学園からレベルが上がらな無能を卒業させれば学園の評判に傷が付くのだろう。
「本当にすまない! 私の力が及ばないばかりこんなことになってしまって……」
そういって深々とフレイド様が頭を下げた。はたから見れば王国ナンバー3の大貴族が平民の子供に頭を下げているのだ。そう考えればこれはとんでもない事態である。
「フレイド様! 頭をお上げください」
「だが、このままでは君は学園から追い出されてしまう……」
ススムは考えた、フレイド様からの援助がなくなってしまったら今後の学費を払うことができなくなる。しかも出所が解らないお金は受け取らない。
つまりちゃんとしたお金ならいいのだ。
「フレイド様、この国での一般的な日雇い労働では一日幾らほど稼げますか?」
「そうだな、仕事にもよるが大体銀貨一枚ほどだな……まさか!」
「はい、自分で働いて稼ごうと思っています」
確か初等科一年の年間の授業料は10金貨。一年上がるごとに2金貨づつ増えるから来年までに12金貨稼ぎ出せばいい。幸い初等科は時間だけは十分にある。子供という事を考えて賃金を減らせると考えてもほぼ毎日働けば稼ぐことはできるだろう。それに衣食住に関してお金を使う必要がないので十分にできる可能はあるはずだ。
「この国では労働の年齢制限とかってありますか?」
「いや、無いが……ススム君、君はそれでいいのか? 探せばいい方法もあるかもしれないのに」
フレイド様が言わんとしていることはわかる。6歳の子供が選ぶ道ではない……と。
だがススムにとって普通の子供の日常が無くても学校でエリナとリナリー様と共に勉学し、一緒にお弁当を食べる時間があれば十分なのだ。あの夜からどんな困難が立ちはだかろうとも諦めないと決めている。
「いいんですよ。ただ6歳で仕事を探す。というのも難しい所があるのでできればそこら辺の仕事の斡旋をフレイド様にお願いしたいと思っています」
フレイド様はしばらく俯き考えた後、顔を上げるとそこに先ほどまでの憂いは無かった。
「わかった!子供にここまで言わせてしまったのだ、仕事に関しては私が責任を持とう! それにできる限りの手助けもすると誓おう!」
「ありがとうございます! それとこの事はエリナ達には秘密にお願いします。無理に心配をかけたくないので……」
そのことも了承してくれたフレイド様。たかが平民の子供相手にここまでしてくれる人はなかなかいないだろう。彼にも心配をかけないように頑張らなければ!
この日、齢6歳にしてススムの労働が始まったのだ。
6歳で労働って……。ですが世界ではこのぐらいの子供が働いている国もあります。
ススムめげない!もうこの時点でススムの辞書には「あきらめる」の文字が消えました!




