10 神託
今回は少し長めです。
今新入生は一つの教室に集められていた。教室には教師は居ない筈なのに生徒同士の会話は全くと言っていいほど無かった。それもそのはず、もうすぐ自分の人生を決定する神託が行われるからだ。
準備が済んだのか教師が全員を別の部屋へと案内を始めた。
俺はせっかく知り合ったのでライトのもとへと歩み寄る。
「やぁ、ライト。一緒に行こうか。」
「あ、ススム君。いいよ、行こう―――」
ライトが俺ではなく後方を見ていたので確認するとそこにはいつの間にかに傍に来ていたエリナとリナリー様が来ていた。
「ススム君、その人は?」
「ススム、誰?」
横に立った二人がライトを睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「えっと、こちらがライト。さっきの入学式で知り合いました。」
俺が紹介するとライトが頭を下げる。どうやらライトは二人が貴族ということに気が付いたようで顔には緊張が見て取れた。
「ライト。こちらの方が現フォード家当主の娘、リナリー・フォード様。」
そう俺が紹介をするとクラスの生徒から「おぉ」という声があちらこちらから聞こえた。フォードの名はそれだけ力があるとゆうことだ。
「そしてこちらが当主様の弟ぎみ、フロスト様の娘、エリナ・フォード様。」
またもや驚きの声が周りから聞こえてきた。エリナは俺に『様』と言われたことに少し不満そうだ。
大貴族を紹介されたライトの顔色が真っ青になってしまった。
「ライトさん。今後ともススムさんとよろしくお願いしますわ。」
そうリナリー様に言われたライトは恐縮で頭が上がらなかったらしい。下を向いたまま少し足が震えている。
「ススム君は平民じゃなかったの!?」
「えっと、フォード家には色々とお世話になって顔見知りだったんだよ……。」
後でライトに責められるように糾弾されてしまった。
挨拶だけ済ませると移動のために移動をした。フォード家……本当に凄い人と知り合いになっているのだと改めて知らされたようだった。
〇
教室を移動するとそこには台の上に水晶の球体が置いてある部屋へと来た。ここで神託を行うのだろうか、神託というからにはもっと大掛かりな儀式だと思っていたのだがどうやらあの水晶の上に手を置くだけで済むみたいだ。中には案内をしてきた教師の他に教科ごとの担任や入学式で見た学園長もいた。
「では一人ずつ神託を始めてください。」
教師に言葉と共に一人の生徒が前に出た。
「このグレイ・レイガスト様がやってやるよ!」
そう名乗り出たグレイ・レイガストという名の貴族が水晶に手をかざす。すると前にフロストさんに見せてもらったステータスと同じものが手の上に浮かび上がる。
その様子を見たススムは転生してから二年と少し。ようやく異世界転生らしい出来事に直面していることに高揚感をおぼえた。
「職業は……『騎士』ですね。ステータスは……」
教師は浮かび上がった文字やステータスを書き留めるとそれをグレイに渡す。
「『騎士』のクラスおめでとうございます、グレイ様。」
教師が頭を下げていた。どうやらレイガスト家の貴族も権力はそれなりにあるらしい。
「では、次の方――――」
そうやって次々と神託が済んでゆく。
するとリナリー様の順番で驚きが起きた。
「凄い……『魔導士』でこれほどのスキルがあるとは……。」
どうやらリナリー様には通常の人の倍以上のスキルや珍しいスキルがあるらしい。後ろからでは薄っすらとしか見えないがスキルの覧に10個以上あるように見えた。
「凄いね……リナリー様って。僕なんか『商人』だったよ。」
「でも、ライトには『計算高速化』とか『贋作看破』のスキルもあるから商人の中でも結構いい部類なんじゃない?」
そうライトと話しているとこちらに帰って来るリナリー様と目が合った。彼女は、どうだ!、と言わんばかりの誇らしげな態度をしている。リナリー様と入れ違うように今度はエリナが前に出た。
台の前まで来るとエリナは不安そうな顔でこちらを見た。それに俺は笑顔で頷き返す。するとエリナも決心したのか水晶の上に手を置いた。すると……。
「”勇者”だとぉ!!」
学園長の大声が部屋中に響き渡った。
勇者、それは魔王のような強大な力を持つような相手にだって勝てるだけの力を持つ事ができるクラス。最も珍しい職業の一つと言われていて、『剣聖』『勇者』『大魔導士』の三つは三大クラスと呼ばれ人々から憧れを持たれるような職業。数百年に一人しか見つからないのでとても珍しいのだ。
まさかエリナが『勇者』に選ばれるとは、これをフロストさんやアイシャさん。村の人達が知ったらどんなに喜ぶだろう!俺も自分の事のように嬉しい。
エリナは俺が喜んでいるのを見て更に機嫌を良くしていた。
(良かったな……エリナ。)
未だエリナが勇者だった事の盛り上がりが冷めないまま俺の番が回って来た。
「黒髪……。」
そうつぶやいた学園長が息をのんだのがわかった。
俺は台座の前に立つ。水晶に手をかざすと周りが光り輝く。すると体内を何かがめぐる感覚があった。不快感はなくその”何か”が体全体に広がると目の前にステータスが広がった。
名前 我道 ススム
レベル 0
職業 ――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
筋力 5
魔力 5
俊敏 5
耐久 5
技能 5
スキル 治療術(レベル1)
レベル上昇不可
意味が分からなかった。レベルが0!? 1ではなくて0?
それに職業欄には何も書かれていない。能力値は全部5
そして一番不可解な物がスキルにあった。
『レベル上昇不可』とはいったい何の事なんだ……。
一番早く理解をしたであろう学園長が自ら俺のステータスを紙に書いて手渡しされた。
「君には……残念な事だろうけども伝えなければならない。君は――」
直感的にそこから先の言葉は聞きたくはないと思ってしまった。俺も頭ではもしかしたらと考えがあるのだ。しかし……それは……。
「今後、いや。一生レベルが上がることはないだろう。」
〇
夕日が沈んで既に街並みは暗くなり始めていた。既に夕日の反対側は暗くなり始めていた。学園のはずれにあるベンチにはこの時間は誰も来ることはないみたいで周りには誰も居ない。
俺は手に持った紙に書かれた”現実”を直視することができない。
あの後、新入生は解散となり俺はエリナともリナリー様ともライトとも会うことはなくただ学園を徘徊するようにこのベンチまで来た。
エリナはきっと心配しているだろうか……。
リナリー様にご迷惑をかけてしまっただろうか……。
ライトは寮の隣部屋だから待っているかもしれない。
あぁ、でもこの人達がいる世界に俺は存在していいのだろうか……。そんな暗い考えが頭の中を駆け巡っている時。
「ススム君!!」
目の前にエリナがいた。学園中を探し回ったのか肩を上下に揺らして息が荒かった。
「探したんだよぉ……急にいなくなっちゃって……怖かったんだから……」
「ごめん……。」
エリナと顔を合わせることができない。彼女の”勇者”クラスは素晴らしい才能だ。それに比べて俺はレベル上昇不可。職業欄には何も書かれてはいなかった。この差は文字道理天と地の差、である。
「ススム君……。私、ススム君と……一緒にいるよ? レベルが関係ないお仕事に就こうよ。私もそうすればススム君だって―――」
「それは駄目だ!]
咄嗟に出た声は大きく、エリナは少し怯えた表情をしている。エリナの前でここまで感情的になったのは初めてだった。でもそれは駄目だ。それだけは駄目だ。
「ごめんね……エリナ心配をかけて……。もう大丈夫だよ」
エリナには心配をかけてはいけない。
ならこの感情を押し殺せ、たとえ俺の心が壊れてしまってもエリナを俺の道連れみしては絶対にいけないんだ……。落ち着け、いつものように笑えばいいんだ。
「エリナは”勇者”なんだからレベルを上げて沢山の人を救うことができるんだよ!俺はレベルが上がらないけどサポートだってできるしさ。」
嘘だ。サポートをする人には運搬系スキルが必須だ。
「職業欄に何もないって事は逆に言えば何にでもなれるって事さ! 」
嘘だ。職業に合ったスキルがない奴が専門職に勝てるわけがない。
「僕にだって『治療術』ってスキルがあるしさ、回復役にだってなれるかもしれないんだよ!」
嘘だ。治療術は自然治癒を少し早くする程度のものだ。他人に使うと効率は悪くなる。それに効果はスキルの回復術や回復魔法のほうが圧倒的に性能が上だ。
「だからさ、まだまだ希望はあるさ!」
嘘だ。
どうやっても勇者となったエリナの隣にいる事なんてできない。
エリナはこの俺の嘘に気がつくだろうか、気がつかないでくれ。
「う、うん。そうだね!やっぱりススム君は凄いね!」
俺はエリナに初めて嘘をついた。それが罪悪感として心を蝕む。顔はいつもの笑ったススムなのが心との差に吐き気がしてきた。でも汗一つかいてはいけない。エリナに感づかれてしまう……。
「それでねフレイド様には言わないでくれ、それをリナリー様にも伝えてほしいんだ。あの方には心配をかけたくないってね。大丈夫!僕は諦めないからね!」
あぁ……本当に吐きそうだ……。こんな事を言っている自分に反吐が出る。
「……うん、わかったよ。リナリーにも言っておくね。私、勇者としてススム君に負けないように頑張るよ!」
そう言ってエリナは手を振りながら帰って行った。
その光景は本当に彼女が遠い存在になっていくように感じられた。
〇
俺はフラフラと歩きながら寮にある俺の部屋へと戻る。どうやら他の入居者である平民の子たちは居ないようだった。ライトも居ないようで部屋の明かりはついていない。多分王都に来ている親の元へと自分の神託の結果を伝えにでも行っているのだろう。
静かな部屋で一人ベットに腰を下ろした。
手に握られた紙を見ても先ほどから内容など変わらない。そこには変わらず『レベル上昇不可』と書かれているだけだった。
ふと横をみるとベットの上には短剣が一本。フレイド様に貰った大切な家紋入りの剣、確か貰った後急いで神託へと行くためにここに置いておいたのを思い出した。
その時、考えてはいけないことを思いついてしまった。
ススムは剣へと手を伸ばし刀身を鞘から抜き取る。綺麗に研がれた刃を自らの喉へと向けた。
もしかしたら死んでもまた転生できるかもしれない。元いた世界からこっちに転生できたんだから今度だって……。
だが、その剣は喉に突き立てられることはなかった。すぐにススムは剣を鞘に戻し机に置く。
「フッ、アッハハハハハハハハ!!!」
静かな部屋にススムの笑い声が響いた。
「ふざけんな!!!」
先ほど、元いた世界の事を思い出したせいで気が付いたのだ。自分は何一つやりたいことをやらなかったと。
ススムの両親が離婚したのは高校生の時。
だがそれは”ススムが伸ばして”高校生の時だったのだ。
物心付いた時から両親の中は最悪だった。
家ではケンカをして互いがいないと不満ばかり言う。そんな中でススムがしていたのは両親のご機嫌取りだった。二人が口喧嘩を始めれば悲しむ息子を演じた。不満を言えば相手の良いところを説明した。時には両親の心がこちらに向くようにわざとケガまでした。そうすれば一時的にでも両親は一緒に行動するから。
小学生の頃からは母の浮気が始まった。
ススムはそれが父にばれないように一生懸命隠し、母の浮気に気が付いていないふりをしながら父に対してのアプローチなどを提案して何とか『家族』という形を保とうとしていた。調べられるものはなんでも調べた、ネット、本、体験談。全部調べてできることは何でもやった。
中学生になると父が浮気を始めた。
両親は家にいない日が多くなっていたがススムはこの我道家に何か離れられない理由を作ろうと考えた。自分がそれになればいいのだと。勉強では常に一位を取り、スポーツでも好成績を出し続けた。いろんな人に「ご両親の教育の賜物ですね」と言わせて少しでも離婚させないようにした。そのためならススムは何でもやった。既にそこには両親の心を元に戻したいという感情は無くなりただ原型が無くなっても『家族』の形があればいいだと。
だが遂に高校生になると両親は離婚してしまった。
自分のために生きるという実感が湧かずに学校か大学へ行くためのバイトの日々。そんな毎日に慣れ、自分の事を考える余裕ができた時の事故だった。
そう。ススムは一度も自分の為に行動していなかった。ただ心が離れていく両親の為にと.......。
でも転生した世界ではエリナに出会って俺が知らなかった”温かさ”を教えてくれた。幸せな日々だった。マーサさん、フロストさん、アイシャさん。最近会ったばかりだけどフレイド様、リナリー様。この人達のおかげでススムは生まれて初めて自分の為の『幸せ』を感じることができたのだ。ようやくここからだった。
でも、神託という名前なのだから”神”が言ったのだ。
「お前の幸せはここまでだ」と。
レベルが上がらない俺をみんなはたぶん許してくれ受け入れてくれる。
みんなそういう人だから。
でも俺はその中でゆっくりと腐っていくだろう。
誰かに頼るだけの人生なんか生きたまま死んでいるのと同じに思える。
これが俺の神託。俺は成長も許されずただただ他人に守られてて死んで行く。
『ふざけるな!!!』
何がステータスだ、スキルだ、能力値だ。そんなもので人の価値が決まってたまるか!
『ふざけるな!ふざけるな!!』
俺はまだ自分の為に生きていない。自分じゃない誰かに己の限界を決められてたまるか!
『こんな事で諦めてたまるか!』
強くなってやる。何が何でも強くなって他人に、他者に左右されない俺が選んだ未来を掴んでやる……!
「強くなってやる……。」
そうつぶやいたススムの瞳には狂気にも似た闘志の炎が燃え上がっていた。何も変わらない。あの時と同じだ。何でもやってやる……。
ススムはこの日、心に決めたのだ……。”幸せ”を見つけ、それを守るだけの”力”を手に入れてみせる……と。
さぁ、ようやく異世界らしいことが始まりました。
レベルが上がらないススムはどうするのでしょうか?
ちなみにススム君は既に一部の感情が壊れています。なのでたまに普通考えない行動をするので。
誤字脱字は見つけ次第修正していきます。




