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1 プロローグ

 その日にやるべき事を終えた俺は夕暮れの道を家に向かって歩いてゆく。道には同じように帰路を急ぐ人たちが多く見られ今日も同じ様な日々の一つが終わりへと向かって行くのを表しているようだ。


 「お腹すいたな……」


 高校生にもなるとすぐに腹が減ってしまうので学校からの帰り道は道中にある飲食店から漂う香ばしい香りにはついつい買い食いの誘惑が頭の中に生まれてしまう。いっそのことここで夕飯を買ってしまおうかと思ったが家の冷蔵庫内の現状を思い出す。


 「そういえば胸肉が余ってたな……」


 このまま夕飯をここで買うとあの胸肉のがやばいことになる。それに飯を買うと値段が高くついてしまうのは避けたい、別に買えないわけではないが出費はなるべく抑えたい。


 結局胸肉を処理という名の料理にすることに決めた。俺は帰路を外れいつもとは違う道を進む。少し遠回りになるが大通り沿いにあるスーパーに寄って他の食材を買おう。




 五分ほど歩いてスーパーに着き中へ入ろうとすると幼い少年を間に連れて歩く家族とすれ違うように入店した。少年の向ける無邪気な笑顔に笑みを浮かべてながら会話をする姿には何とも言えない暖かさを感じてしまう。だが、俺にはスーパーに一緒に買い物に来てくれる家族はもういないのだ。あの3人と自分の温度には圧倒的に差がある。


 スーパーの中を歩きながら料理に足りていなかった商品を籠の中に入れる時、先程の親子を見たからか自分の家族だったはずの人ことを思い出してしまう。


 それは高校に入学して間もなかった。


 父の浮気が発覚した。


  その浮気に腹を立てた母はすぐに離婚へと話を進め父を家から追い出した。母は「高校生になったばかりの息子がいるというのに浮気をするなんて信じられない! 」と口癖のように言っていた。


  だが俺はその言葉を聞くたびに苦笑をしていたと思う。


 なぜなら母はもっと前に浮気をしているからだ。


 それを踏まえればあの素早い離婚にも納得がいく。母にとっては父と別れて浮気相手とくっ付くいい口実だったに違いない。


 そういえばいつだったろうか母も偶に胸肉料理を作ってくれていた気がする。レジで会計をしながら俺は家庭が壊れる前のまともだった家庭に少しだけ懐かしさを感じた。


 離婚からの母の行動も早かった。ある程度の金を置いて浮気のお相手の元へ脱兎のごとく行ってしまった。あの素早さには俺への愛の無さがはっきりと現れているように感じて逆にスッキリする。


  残された俺は親戚を頼ったがその希望もあっさりと折られたのだ。あの時の「迷惑です」という顔を見た瞬間に俺の中には一人で生きていく選択肢しかないと悟ってしまった。既に高校生なのもあり一人暮らしをするために名義だけは親戚の元に置かせてもらい俺は学校近くのアパートで暮らし始めたのだ。


 「もう2年か、早いな」


 だが案外一人暮らしも辛くはなかった。


  高校では友達を好きに呼べたし、事情を知った奴らは親身に接してくれたものだ。一番親身に接してくれたのは先生かもしれない。あの人のおかげで俺は学校の特待生制度を使え、私学にも関わらずお金がかからずに済んだ。もちろん先生の期待に応えるためにいっぱい勉強した。常に学年首席を取り続けるのは大変だったがその勉強あって大学受験も問題なく公立に行けそうだ。


  これは俺の高校生活はハッピーエンドを迎えたのではないだろうか?


 「ハッピーエンドね……」


 自分なりの無理やりハッピーエンドに笑ってしまう。


自分勝手な妄想の終焉を迎えた時、スーパーから出たら先ほどの親子が視界に入った。


母親が女性と話をしている。随分と楽しそうに会話がはずんでいるのでおそらくママ友に偶然あったのだろう。先ほどの少年は同い年程の子供と親から持たされた買い物袋を持ちながらじゃれあっている。父親同士はベンチに座って静かに談笑。


 そんな光景を横目に通り過ぎ俺は交差点の信号で止まる。後ろから楽しげな声がきこえてくる。


 親と呼べる家族はもういない、だが俺にもあんな風に暖かい家族が欲しい。


  なら作ればいい、今は忙しくて恋愛している暇はないがいつかは家族と呼べる人を作り一緒に暖かさを手に入れよう。そう俺は心の中で未来の幸せを想像できるだけの余裕が生まれていた。


 その時だった。


 「あっ! 」


 後方から焦りが混じった声が聞こえた。その声は幼さを含んでおり、どちらの口から発せられたのか確かめようと振り返る。が、顔を動かす前に足元を赤い何かが転がっていくのが視界の端に写った。


 (リンゴ?)


 そんな転がって行った物の正体についての思考はすぐに消え去ってしまう。リンゴを追うように俺の横を通っていくものがある。


  その姿が先ほどの少年と分かった瞬間……俺は荷物を捨てていた。


 少年は既に横断歩道に飛び出し、青信号に従って速度を出したトラックが迫る。少年の首根っこを掴み後方へと引っ張ろうとするが人間というのは子供だろうと結構な体重がある。力ずくで少年を後方に引っ張って放ると反作用で俺の体は前へと進む。


 一瞬の出来事だったが全てがスローに見えた。


  声にならないような悲鳴をあげる少年の母、立ち上がろうとしている父親、投げ飛ばされた少年の驚いている表情。その3人を見て俺は思ってしまった。


 (ああ、この家族を守れてよかった)


 そして俺、我道 ススムの視界が暗転する。


忙しいですけどなるべく間が開かないようにしていきたいです。

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