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天上の世界の明日に向けて  作者: 奈宮伊呂波
クリオシタ編
7/50

最終話 世界からの脱却

 クリオシタとフォルティモが監獄の外に出た時にはそこら中で囚人と、看守、衛兵の取っ組み合いが繰り広げられていた。そこら中から怒号やら、悲鳴やらで大騒ぎとなっていた。

 ふいに一人の兵が二人の下へ近寄った。


「そこの二人、そこを動く――」


 言い切る前にクリオシタは兵を壁まで風で飛ばした。ここまで来たらもう能力の制限はない。それにこの大群衆の中だ。誰が能力を使ったなどわからないだろう。


「乱暴だなクリオシタ」


 フォルティモが笑うが、こちらも一生懸命なのだ。また捕まったりしたらたまったものではない。これが大穴まで辿り着く最後の機会なのだ。


「フォル! 掴まって!」


 クリオシタはゴーグルを装着した。二人がわざわざ周りの人々に合わせて、地面を走ってやる義理はない。フォルティモにばれないうちにさっさと大穴へ向かわなければ。フォルティモが手を握ったのを見計らって、風を起こし、宙へ浮いた。


「フォル重い」


 片手でぶら下げるこの持ち方ではクリオシタへの負担が大きいのだ。またもクリオシタは風の力を使いフォルティモの体を大きく持ち上げた。立場が逆な気もするがお姫様抱っこのまま運ぶことにした。


「恥ずかしいわ!」


「集中してるから黙ってて!」


 大騒動の中、順調に飛び続け、騒ぎの先頭の辺りに行ったところで不測の事態が起きた


「――何で空中に岩が!」


 当たれば全身を粉々に壊されそうなほど大きな岩が二人めがけて突っ込んできた。もうあと数秒もすればぶつかる。クリオシタは命の危機にだと言うのに避けることが出来なかった。恐怖で動けなかったのだ。


「キューブを横に投げろ! 今持っているキューブを!」


 ほとんど反射に近かった。クリオシタはフォルティモが来てからも一度もポケットにキューブを入れずに手の中に持ち続けていたのだ。

 飛ぶための集中力を割き、能力を使い、言われたとおりに思い切りキューブを投げると、目に映る光景が一瞬で入れ替わった。テレポートの副作用、いわゆるテレポート酔いがクリオシタを襲うが、これも何度も体験したものだ。すぐに酔いを振り払い、空中に放り出されたキューブを回収し、無事を確認するために左右を見ると、さっきまで二人がいたところで岩が止まっている。


「まさか、能力者!?」


 さしずめ、岩を操る能力か物を動かす能力だろう。だからと言って二人はそいつにかまっている時間はない。大穴は今も開き続けているはずだ。

 クリオシタはさらに南に飛び続けた。もう囮となる囚人たちはいなかった。これからは二人が集中して追われるだろう。

 飛び続けてこれまでで一番大きな建物が目についた。ここに大穴がある、とクリオシタは直感した。


「なあクリオシタ」


 クリオシタが密かに喜んでいるときにフォルティモは口を開いた。


「お前、大穴に向かってるだろ?」


 飛んでいる二人が、大きく傾いた。クリオシタはフォルティモに大穴へ向かっていることは一度も言っていない。なのに、なぜ。


「やっぱり、なんとなくな。クリオシタは諦めてない気がしたんだよ。いいよわかった。しゃあねえな。一人にするのは不安だしな。俺もついてってやるよ!」


「やったあ! さすが、頼りにして――るうわあっ!!」


 喜びもつかの間、クリオシタの足にはロープが巻き付けられていた。クリオシタはほぼ全力で飛んでいた。そのスピードでは本来ロープなどに捕まることはないのだが、ロープを投げた本人が一番驚いていることから、これはたまたまだろう。どういう意図で空中にロープを投げたのかは知らないがこちらはいい迷惑である。


「フォル!」


「ああ!」


 足がちぎれる思いだったが、クリオシタは堕ちる前にキューブを前方に投げ捨てた。その一瞬後に二人はロープから解放され、クリオシタは痛みから解放された。フォルティモのテレポートをうまく使ったのだ。


 建物の中は狭く、飛べるほどの広さはない。二人は地面に降りて、離れないように手を繋ぎながら走った。侵入者だというのに誰も騒ぎ立てない。監獄での出来事がまだここまで届いてないのだろう。二人のことを直接見た兵でさえ、茫然としている。


「あれだよ! たぶんあれ! ほら開いてるじゃん!」


 大穴はまだ開いていた。クリオシタの飛行能力をもってしても端から端まで行くには一分はかかりそうなほど大きな穴だった。見たところまだ三隻の船が残っている。目の前、さらにその奥、そして右方向に一隻ずつだ。

 大穴周辺は、静かで厳粛な雰囲気だったが、クリオシタはそれどころではなかった。

 事態の把握までには至っていないが、クリオシタとフォルティモをこのまま放置することはまずいと考えた兵がどんどんと集まってくる。


「ほらほら、どいたどいたああ!!!」


 それら全ての兵を風でなぎ倒し、道を開けていく。

 後数メートル、というところでさらに多くの兵が集まる。


 ――対応できない!!


 クリオシタの風で吹き飛ばすには、相手が多すぎる。全力をもってしても突破できない数だ。


「風でキューブを、吹き飛ばせ」


 フォルティモは冷静だった。

 支持を出されたクリオシタは、手を強く握られたことを合図に思い切り能力を使いキューブを大穴めがけて吹き飛ばした。

 押し寄せる兵の一人が、クリオシタかフォルティモ、二人のどちらかに触れた瞬間だった。

 大勢の兵の前から、二人の姿が消えた。


「成功!!! 勢いに任せっぱなしだったけどなんとなったよフォル!!!」


「それはいいけど、おい、どうすんだ落ちてるぞお前、風で何とかしろよ!!!」


 クリオシタは絶句した。いや無理もない。これまでどこまで行っても壁があった生活をしていたのだ。初めて見たのだ。どこまでも続く空という物を。初めて目にしたのだ、ソプラ国の外の世界を。


「すごいよフォル! 下に何にもない! どこまで落ちるの私たち! あっははははは!!!」


「笑い事じゃねええ!!! 死ぬ、ほんとに死ぬ! ああもうやっぱりやめとけばよかった!!」


 クリオシタが感動している中、フォルティモは死を覚悟していた。

 もったいないな、とクリオシタは思った。このきれいな、どこまでも続いていくような景色をもっと堪能すべきだよ。

 まあ、それもいいけど、


「やっぱり、挨拶は大事だよね。そう思う? フォル!」


「知らねえよ! 落ちてる! さっきクリオシタが飛んでた時と比べ物にならないほど早く落ちてる!」


「だよねえやっぱ大事だよね! てことで今までありがとうソプラ国! またいつか戻ってくるかもしれないからその時はよろしくね!! そして、こんにちは新しい世界! 今会いに行ってあげるからね!」


 かくして、クリオシタの空からの脱却は無事成功した。


「クリオシタ! 着地失敗したら絶対許さないからな!!!!!」


サブタイトルにありますように、クリオシタの天上でのお話は最後になります。

次のお話まで期間が空いてしまいますが、必ず公開いたしますので少々お待ちください。

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