最終話 その後
ソプラ国の中央に位置するチェントル。その街は白色の石でできた建物が多く、誰もが最初に美しいという印象を抱くだろう。
人口五十万人を超える街の規模はカントネとは比較にならないものだ。人間が全力で走れば端から端まで大体一時間半ぐらいで行けるという者もいるが実践に至った人間はいない。
昼夜問わず賑やかな街の、その真ん中ではソプラ国の王や王の家族が住む宮殿がある。そこでは有力な貴族や知識人などが集まり日々、政を行っている。
法律などの決め事も存在するが、カントネなどの辺境の街までは届かないこともある。それは一重にチェントルと連絡を取る貴族がいないせいでもあるが、その人員もいないため解決には至っていない。
「結論は出た」
今日も大広間で数十人という大人数での議論が終え、司会役となった貴族が静寂を作る。
貴族や知識人が王座の方向に席を向け、その間に判決を言い渡されるのを待っているのは跪いている騎士団だった。
呼び出されたのは数十人の重役だ。老齢の騎士団長を筆頭に各町を護衛する騎士団支部団長。その中にはチェントルの一端を護衛するデュールや暫定的なカントネのトップとなったカヴァールの姿もある。
彼らに向かって貴族は言った。
「民営の騎士団は全て解体し、これからは我々貴族の元で運営するとする」
拍手が巻き起こる。騎士団長が顔を上げ口を開こうとするが何も言わずに終わった。その顔は酷く、哀れな程に歪んでいた。
カントネの一件を受け、市民は不安に怯えた。騎士団は二度とこのようなことはないようにと声明を上げたが、蔓延った不安は拭いきれない。
そして貴族は判断した。
市民の安全を担う者は騎士団では限界があったのだと。
「新たな国守団体は騎士団より親衛隊と名を変え、その長官をデュールに任命する」
デュールはいつかこうなった時のために努力を惜しまなかった。騎士団の中ではいいように思われなかった。裏切り者と謗られることも少なからずあった。だが今、彼に何か言える者は一人もいやしない。
「ありがたく存じます。このデュール、そのご期待に応えられるよう絶え間ない努力を約束致します」
騎士団の解体と言っても、元々騎士だった人たちもそのまま衛兵の別の役職に就くことが多い。もっとも、それがチェントルの近くになるとは限らないが。
◆ ◆ ◆
親衛隊に関する細かな事項は後日に行われることになり、元騎士団長などには出てもらい、議論は次の事に移った。
「この三人の処分について何か意見のあるものは?」
誰もが口を噤んだ。
この三人、というのはクリオシタ、フォルティモ、クリオシタの母親のことだ。彼らは今意識がない状態にある。睡眠薬のようなものを仕込まれているのだ。
黙りを決め込む連中を前に、王が口を開いた。
「私の意見を言おう。他の辺境地の連中は全て殺されてしまったようだ。あの凄惨な事件を国民に広く知られる訳にはいかない。しかし、もう既に噂は広まっている」
彼らは市民が不安に押し潰され、自分達に牙が向くことを恐れている。
「そこで一つ提案なのだが、現在進んでいる記憶操作の研究に被検体として協力してもらうのはどうだろうか?」
空気が鎮まった。
それから数秒後に誰かが小さく手を打ちが生まれ、やがてそれは大拍手へと変わった。
逆らうものはいなかった。
「で、では連れて行け」
王の従者が三人を連れていき、カントネの件の話し合いは完全に終了した。
「では、本日の会議を終了と致す。皆様、お集まりご苦労に存じます」
緊張の糸が解け、貴族達は席を立つ。そこらで喧騒が生まれ、それは次々に大広間の外へと移る。
最後に残った司会役の貴族が礼を捧げ、残ったのは王一人となった。
彼は王座を大儀そうに立ち上がり、城下町の見える窓まで歩き寄った。
「ふむ。今日も空は私好みの青色をしているな」
窓の外は一面の灰色だった。
◆ ◆ ◆
古ぼけた教会にシュタインはいた。隣にはバーギアが並び、他の仲間は円を描くようにして並んでいる。二人はその真ん中に立つ。
「なるほどね。面白いことになってるみたいだ。そう思わないか?」
シュタインは能力を使って宮殿の様子を見ていた。
彼が見下した先にいるのはジュスティスだった。
「さあね。俺が知るもんかよ」
彼は暴れないように石の鎖で繋がれ、膝をついていた。
「そう言わないでくれ。カントネを襲った首謀者だろう?」
シュタインはソルレアの持っていた石を持っていた。それはソプラ国に持ち込むことは許されていない「外」から手に入れた物だった。
「勝手にしろ。だがそんなことをしてのうのうと生きられると思うなよ。いつか必ず後悔させてやる」
彼らはジュスティスの言を嘲笑う。
ジュスティスは街の中で残ってる者がいないか探している途中、連中捕まったのだ。その時、ジュスティスは持つことの許されないソルレアの石を持ち、それを利用して、彼らはジュスティスに自分達の犯した罪を被ってもらおうと考えているのだ。
あれだけの事件を起こした犯人と、その証拠を提示すればトップであるシュタインやバーギアは貴族達からそれ相応の待遇を受けるだろう。
「これから、楽しくなるだろうね」
シュタインはジュスティス、そして寝ているカリーナを順に見やって、純粋にこれからの未来を期待して口角を歪ませた。
お楽しみいただけたでしょうか?ここまで長くなるとは思っていませんでしたがここでオネスタ編は最終話になります。
さっそく次の章の投稿といきたいですが、私の力不足のため全く出来ていません。構想は考えていますので少しお待ちいただくことになります。
次の話はクリオシタが主役の話です。
お忘れかもしれませんがオネスタ編はあくまで過去の話になります。
では、またお会いしましょう。