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天上の世界の明日に向けて  作者: 奈宮伊呂波
オネスタ編
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第三十八話 決戦までの経緯 その1

 ステラはシュタインと衝突する数時間前、トライストの街に到着していた。クリオシタの母親と友達を探すためだ。

 街の外観は一言でいえば「緑」だった。ステラの住むカントネは道は整備されていて、建物は石造りが主で木造の建物は少ない。

 ところがトライストは木造の建物が目立つ。石造りはどこにも見当たらない。木造と言っても、きちんと設計のされた建築と言うよりもありあわせで作った簡易住宅と言った方が適切だ。

そんな緑の街の中にいたステラはまるで森の中にいるような錯覚さえ覚えた。

 歩くたびに鼻腔を花の香りがくすぐり、風で木々のさざめきが聞こえる。最も、街の住民の生み出す喧噪が大きすぎて能力を使って集中しないと情緒などあったものではなかった。


「あの、ここの騎士団の本部はどこにありますか?」


 行き交う人から一人、穏やかそうな風貌をしている男を捕まえステラは尋ねた。この街に来たことはあるが、その時のステラは騎士団に用はなかった。その時は商売のため、狩った獲物を売って金に換えるためだったのでろくに街の中も見回らずに帰ってしまった。


「騎士? そんなとこに行って何するんだ?」


 男は首を傾げた。

 騎士団は通常、街の見回りや治安の維持を務めている。一般人が直接出向くことはあまりない。


「人を探してるんです」


「へえ。騎士団なら中央辺りにあるよ」


 男は何か言いたげだったがすんなり道を教えてくれた。


「ありがとうございます」


 ステラはお礼を言い、すぐに騎士団の本部に向かった。

 空を飛んでは注目されるので当然歩いてだ。そうすると今度は人にぶつからないように走るのが難しくなる。自然と歩く速度まで落ちて時間がかかる。

 三十分ぐらい歩いたところで大きな建物が目に入った。騎士団の本部だ。この街の騎士団はカントネの騎士団よりも大きいらしい。建物も倍はあるだろう。

 正面の入り口から中に入り、いくつかあった受付の一つにステラは立った。


「いらっしゃいませ。本日はどのような御用で?」


 取り合ってくれたのは女性の受付だった。ステラから見るとお姉さんぐらいの年齢だろう。事務的な笑顔に事務的な文言。それを受けてステラは答える。


「クリオシタを探している人を探しています」


「……」


 お姉さんは黙る。

 自分で言っていてステラも「あれ?」何言ってんだろ俺。となるぐらいには自分でも意味が分からなかった。

 当然向こうがステラの聞きたいことなどを察せるはずがない。


「えっと、ちゃんと説明します」


「はい」


「僕の家でですね、クリオシタって言う迷子の女の子を保護してるんですよ」


「はい」


「クリオシタ曰く、この街に彼女の母親と友達がいるらしいのでその二人に会いに来ました」


「はい。事情は分かりました。少々お待ちください」


 わかってくれたようでステラは小さく息を吐く。

 何やら受付の奥の方に行ったお姉さんを暫く待っていると隣の受付から女の人の声が聞こえた。


「だから! なぜここの人は動いてくれないんですか!?」


「そう言われましても、こちらも人手が足りているわけでもなく、不確定な事案に割ける人員はないと言うのが上の判断でして……」


「だから、私に娘はもう何日も帰ってないんですよ! それでもなお聞いてくれないんですか!?」


「しかしですね、必要な分は派遣しましたし、最初の数日は何人かお貸しできますがみつかるまでずっとと言うわけにもいかないんですよ」


 激しい言い合いは館内を反響し、みなの動きを止めた。

 女の相手をしているのは初老の男性だった。おそらくここの上役なのだろう。

 女はもの凄い形相で初老の男性にかみついている。本当にかみつきそうな勢いだ。

 話に割って入るつもりは毛頭なかったが、女が、


「ではもういいです。クリオシタは自分で探します!!」


 そう言ったのでステラは女に話かかけることにした。


「あの。ちょっといいですか?」


 受付を去ろうとした女をステラは引き留める。


「何ですか?」


 女は苛立ちながらも聞いてくれた。


「貴方の探しているのは、クリオシタさんで間違いないんですね?」


「ええそうです。私の娘です」


「金髪で五歳ぐらいの女の子ですよね?」


「そうです」


「彼女、今は僕の家にいます」


「え?」


 クリオシタの母親らしき女の顔が歓喜に染まりかけるがすぐに怪訝な表情に変わった。


「誤解しないでくださいよ? 森の中で迷子になってたので、今はうちで一緒に住んでいる女の子が一緒にいます」


 多少女の表情が和らいだ。女の子と言う言葉を聞いていくらか信用を得たようだ。


「話を聞いてもいいですか?」


「もちろんです」


 偶然に任せて出会った二人はそのまま騎士団本部を出て行った。

 次第に人の流れも動き出し、通常通りの業務に戻っていった。


「見つけましたよ。あなたの探している人は……って、あれ?」


 ステラの話していた女の受付係は酷く困惑したらしい。


 本部を出たステラは女が止まっている宿に案内された。森林を感じる長屋と言った感じの宿は自然の中にあっても違和感はないだろう。

 長屋の一室に入ると、中には一人の少年がいた。彼はステラを見るなり、部屋の端の方へ移動し警戒した目でステラをじっと見つめていた。


「あまり歓迎されてないみたいですね」


「あの子も気が立ってるのよ。クリオシタと仲が良くってね、ずっと心配してて疲れてるんだと思う」


「そうですか」


「あたしだって同じ。いくら探してもどこにも見つからないのだから。帰ってきたらげんこつをお見舞いしてやらなきゃ」


「そうですか」


 心の中で南無、とクリオシタの冥福をお祈りしたステラだった。


「それで、あなたはクリオシタの居場所を知っているのよね?」


「ええ、僕の家にいますから」


「なら案内しなさい」


「え?」


「え、じゃなくてすぐに案内しなさい」


「すぐにですか?」


「当たり前でしょ。こっちは心配で夜も眠れないのよ! あの子が危険な喪に合ってるかと考えるともうどうにかなりそうなの!」


 かくして、ステラは予想よりもずっと早くクリオシタを母親会わせられることになった。

 母親と会ったらまず本当に母親かどうか確認するつもりだったが、彼女を疑うのは失礼だと言う者だろう。万が一偽物なら騎士団にまで行かないだろうし、何よりステラが話していて嘘ではないと感じたのだ。


「わかりました。でもここではダメなので、付いて来てください」


「どういう事?」


「移動は僕の能力を使います。その方が絶対に早い。でも他人に見られたいものではないので、少し場所を変えたいんです」


「なら早く行くわよ」


 とにかく早くしてほしいらしい。

 クリオシタの母親と少年の外出準備を終えるとステラは街の外に向かった。準備と言っても、ここに戻らない事はないので金や部屋の鍵など最低限の荷物しかない。

 外に向かって歩いていると、少年の視線を感じた。


「どうした? 少年―――確かフォルだったかな」


 声をかけてみると少年は逃げるようにクリオシタの母親の後ろに隠れてしまった。


「この辺りでいいですかね」


 街の外は森が一面に広がり、その中の目立たないところに着いた。


「じゃあ行きますよ。捕まってください」


 能力を使うとはもちろん空を行くことだ。

 クリオシタの母親を背負い、少年を抱きしめて準備完了だ。二人同時に抱えて飛ぶのはあまりないことだが問題はないだろう。片方は小さな子供で大きな負担にはならないからだ。


 二人の掴み具合を確認するとステラは地を大きく蹴った。

 それを見たものは後のこう話したと言う。「わしゃあ確かに見たんじゃ、巨大な用生産を確かに見たんじゃ」と。


 それから数時間飛ぶ続けると、三人はカントネの森の上に着いた。


「何だあれ……」


 カントネの様子を見たステラが呟いた。

 自分の生まれ育った街が、焼けて、崩れて、戦場と化していたからだ。


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