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天上の世界の明日に向けて  作者: 奈宮伊呂波
オネスタ編
41/50

第三十三話 カリーナの能力

 カリーナが来たからと言って全てが解決したわけではないので安心はできない。

 彼女らの次の行動について先に話したのはカリーナだった。


「オネスタ、今からどうする?」


「カントネから出よう」


 考えてなかったのかよ。と心の中でツッコミを入れてオネスタは言った。


「そりゃそうなるよね」


 違った。カリーナも同じ気持ちのようだ。


「ここにいたって仕方ないもの。……ねえ」


「うん?」


 オネスタには一つ気がかりなことがあった。

 カントネの他の住人たちだ。森を抜けた後、ここに来るまでオネスタは誰にも会っていない。奴らにはもちろん、人っ子一人にすら会っていない。

 なら、カントネの住人はどこへ行ってしまったのだろうか。


「他のみんなはどこかに避難してるの?」


「この辺の人たちは避難したよ」


「この辺のってことは、中央や南の方に住んでた人は……」


「そうだね。ほとんどが逃げ遅れた」


「そっか。そうなんだ」


 言われたことにオネスタは怒りが込み上げてきた。やるせなさと、自分の無力を呪った。その感情をカリーナにぶつけてしまえば少しは気分が楽になったかもしれない。

 そうしなかったのは、カリーナが酷く悲しい表情をしていたからだ。オネスタと違って、カリーナは直接見てきたのだろう。中には彼女の両親のように、逃がしてくれるために立ち向かった人もいただろう。

 カリーナは自分の比にならないほど悔しい思いをしたんだとオネスタは感じた。


「あ、でもね。逃げられた人も確実にいるし。それに今も戦っている人もいる。あの連中も結構倒してたはずだよ」


「うん」


 カリーナは暗い雰囲気に慌ててフォローを入れるがオネスタは元気に応えられなかった。


「えーっと。私、逃げる作戦用意してきたよ!」


 こういう時にカリーナは力を発揮してくれる。自分だって辛いのに、鎮まった空気が嫌いなのか無理にでも明るく振舞って場を前向きに変えてくれる。今だってそうだ。オネスタは彼女のそういうところに憧れ、羨望し、そして純粋に好きだと思っている。

 いい加減に自分も見習わなければならない。


「聞かせて」


「そう来なくちゃ!」


 オネスタが前向きになったのを察しカリーナは調子を上げる。


「って言っても作戦なんて大それたものじゃないんだけど……」


 急に弱気になったカリーナにオネスタは少し怪訝な目を向ける。さっきの勢いはどこに行ったのだ。


「どんな作戦?」


 オネスタが促すとカリーナは話し始めた。


「逃げるにしても、最終的にどこに逃げるか明確にしたほうが良いと思うの」


 適当に逃げていても意味はないだろう。


「そうだね」


「あの連中は悪いことをしに来たよね。だからカントネよりももっと人が多いところに行けば、手を出せなくなるんじゃないかな」


 それもそうだろう。しかし、カントネだって相当な人数が住んでいる。そこを昼間から真正面から襲ってきたと言う事は、奴らも相当な数がいると言う事だろう。もっとも、カントネの場合、昼間は外に働きに言っているものも多い。その時間を狙ってと言う事もあるだろうが。

 実際の数はともかく、現にカントネはめちゃくちゃになっている。連中の危険度はかなり高い。半端な街に逃げたところで連中は諦めないだろう。


「だから、私たちはチェントルに向かおう」



 ◆ ◆ ◆



 かくしてオネスタはクリオシタを背中に背負い、カリーナと共に家の外に出ることにした。先ほどから周囲の家を壊して回っている連中は、少し離れた位置で活動している。順番通りにこなせと命令が下っているのかやたらと丁寧だった。


「オネスタ。準備はいい?」


「もうちょっと待って」


「早く早く」


「大丈夫。行こう」


 テーブルの上に書置きを残し、ドアの前に立つカリーナの後ろに並んだ。


「行くよ?」


「了解」


 一度カリーナがオネスタに触った。

なるべく目につかないように、カリーナは勢いよくドアを開いた。

 横にスライドしたドアが隙間の奥に強くぶつかった。通常ならそこで木のぶつかる音が鳴ってしまうがオネスタもカリーナも全く慌てた様子はない。

 それがカリーナの能力だ。彼女が触れた物は一切の音を発しなくなる。能力を使って石を投げれば転がっても音は聞こえない。フライパンで料理をしても油が跳ねる音がしない。また、試したことはないが拳銃を持てば発砲音は一切聞こえないだろう。

 音が消えている時間は一分。その間なら、何をしても音が聞こえることはない。

 オネスタの家に来ることができたのも能力を使って移動したためだ。カリーナの能力を使えば目で捕捉されない限り見つかることはない。

 だから二人は慌てない。


(カリーナが来てくれてよかった)


 とりあえずの目標はカントネを出ること。脱出する方向は南側。さっきの土を操る少年が北東の森にいるため、北側からは逃げられないだろうと判断した。東も同じ理由で、西はオネスタの家から遠いと言う理由で却下だ。

家を出ると二人はまず曲がり角を確かめ、裏道に入った。

 広い道には奴らがいる。それはおそらくこの辺りだけではない。少し遠回りになるが、狭く入り組んだ道を選んだ方が見つかる危険性は低くなる。

 曲がり角を行くときは慎重に確認してから進むようにしていると、何度か危ない場面があった。足音が聞こえていたら間違いなく見つかっていただろう。

 カリーナが前を走り、オネスタが続く。オネスタの足音が復活したらそのたびにカリーナはオネスタに触れ、音を消した。

 万が一見つかった場合の事も考えてある。その時はオネスタが光で目を眩ませ、その間にカリーナが敵に触る。敵が他の仲間に助けを呼ぶまで少しは時間を稼げるだろう。その間に逃げる。


 進めば進むほど街の様子は暗くなっていく。煙が登る頻度も上がり、建物もほとんどが倒壊している。

 街の中央はさっきよりも静かになっている。金属がぶつかり合う音はもうほとんど聞こえない。決着がつきそうなのだろう。騎士団が勝ったのか、それとも負けてしまったのか。

 オネスタは勝っていて欲しいと願った。


 カントネを出るまで半分ほど進んだところでオネスタが足を止めた。声は出ないのでカリーナの肩を叩き止まってもらった。


「ごめん。三十秒だけ休んでいい?」


オネスタはクリオシタを背負っている分余計に体力が減っていく。音を消しているとは言え、それでも警戒は怠ってはいけない。

 長い間集中したので心身ともにオネスタは疲れていた。


「私も少し疲れたかな」


 カリーナも同じように疲労が溜まっていたようだ。

 物陰に隠れ、クリオシタを壁にもたれさせ、二人も壁に背中を預けた。


「ねえオネスタ。無事に出られたらまず何したい?」


 唐突にカリーナがそんなことを言った。


「何? 急に」


 場にそぐわない気楽な質問にオネスタは思わず笑う。


「私はねー。温かいお風呂に入って、美味しいご飯が食べたいな」


「お金持ってるの?」


「オネスタ、今そんな話してないでしょ」


 オネスタはペシ、と頭を叩かれた。


「後ね」


「まだあるの?」


「あるよ。いっぱいある。まずお金持ちで優しいイケメンと結婚する。豪華なお屋敷に住んで、可愛い子供が三人は欲しいかな。その子達に美味しいご飯を作ってあげて大きくなってもらって、私がおばあちゃんになったら可愛い孫を見せてくれるの」


 うんうんとオネスタは頷く。

 これは夢の話だ。カリーナの夢は意外だったが幸せな家庭がカリーナは欲しいのだろう。

 オネスタにとって、お金持ちということは引っかかるがカリーナがそんな気は無いことをオネスタは知っている。


「それでね、近所にはオネスタとステラが住んでるの」


 それが一番の願いなのだろう。オネスタはカリーナとずっと友達でいたい。それは同じ気持ちだ。


「素敵な夢だと思う」


「夢じゃないよ。未来予知だよ」


「ごめんごめん」


 笑い合って、会話は終わった。

 二人が止まった場所は中央広場に直接つながる大通りの少し手前だ。大通りの幅は大体二十メートルほど。距離自体は大したことはないが、東門から一直線につながっているのでとにかく目立つ。この道を渡ることが大きな山になる。逆に言えばここを超えれば少し気が楽になる。


「行こっか」


 オネスタが言った。


「うん」


 カントネを脱出するまで半分を超えるから警戒するべきは後方になる。今度は二人の場所を交代し、オネスタが前を走り、カリーナが後ろを警戒することにした。クリオシタはオネスタが背負っている。

 カリーナが能力を使い、オネスタは大通りの様子を窺った。見たところ奴らはどこにもいない。行くなら今だろう。

 オネスタが手で合図をして、二人は一気に走り出した。

 一度だけ中央の方で大きな音が鳴ったが気にせずに大通りを横切った。オネスタは生きた心地がしなかったが、無事に渡りきった。


(後、もうちょっとだ!)


 逃げ切れる可能性がぐっと高まり、オネスタは息を吐いた。吐いた息を取り戻そうと吸い込もうとしたが、オネスタは失敗した。背中に衝撃が走ったからだった。

 見つかった、とオネスタは恐慌状態に陥った。自分を突き飛ばすやつなんてどう考えても奴らしかいない。そう思っていたからだ。

 だが、違った。


 オネスタを突き飛ばしたのは、刃で肩を切り裂かれたカリーナだった。


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