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赤い森  作者: 鈴代なずな
六章
43/46

6-8

「相手も俺と同じ、人間だった。当たり前だけどな。たった一つの考えと、たった一つの行動しかしない奴なんてのもいない。当たり前だ。だから……俺にとって都合のいい面も、都合の悪い面もあるんだろうさ」

 それは否定できるものではないだろうと、リヴィッドは語った。ただその後に、犯罪まで許すかは別だけどな、と付け足して苦笑したが。

「自分のことだって、よくわかんねえ、何やってんだって時があるんだ。ンな自分にとって都合が悪いからって、殺そうなんて考えられるもんじゃねえ。そう思ったんだよ」

「…………」

 サヤはそれを聞いていた。真っ直ぐに目の前の少年を見つめて、じっと、瞬きすら忘れたように聞き入って……

 不意にその瞳から、ぼろぼろと涙が零れ始めた。

「は!? お、おいサヤ、なんだよ!?」

「え、あ……?」

 リヴィッドが慌て始めたことでようやく気付いたように、少女は自分の目元を覆った。

 しかし一度拭っても止まることなく、少女の細い指の隙間から次々と流れ落ちていく。

「な、なんだよ? どうしたってんだ」

「わかん、ない……」

「意味わかんなかったか? まあ俺も言ってて、よくわかんねえなと思ったけど……」

 へこたれるように表情を萎ませると――しかしサヤは涙を振り払うように、ぶんぶんと首を大きく横に振った。もちろん、それでも涙は滴り続けたが。

「リヴィ、ッドの言ってる、こと……わかった。でも……悲しい話、じゃないの、に……急に……すごく、悲しくな、ったの……」

 たどたどしい掠れた声が、涙に咽ぶことでいっそう頼りなくなる。けれどそれでも彼女は、懸命にその感情を口にしていた。

「今、までより……胸が苦しく、て、悲しくて……寂、しくて……心、細くて、たまらなくて……不、安で……涙、勝手、に、出てきちゃ、って……」

「……そっか」

 リヴィッドは、その理由がなんとなく理解できるような気がした。その凄絶な感情は、きっと彼女には必要なのだ、と。今までなかったことの方が、おかしいのだ。

 サヤは何度も自分の目元を拭い、必死に涙を堪え、止めようとしていたが、その上から次々に流れていく。それでもきっと、足りないくらいなのだろうが。

 そうやって泣き続ける少女に何も語らず、多く慰めることもなかったのは、そうすることに意味がないのを、漠然とだが理解していたためだ。ただ、せめて側を離れずにいた。

 やがて……泣き疲れたのではないかと思えるほどの時間だろうか。

 少女の目からはようやく涙が止まり、ぐしぐしと目元を擦るのに意味ができた。荒い呼吸を落ち着けさせながら彼女はまた、たどたどしく、けれど先ほどよりもずっと頼もしい声で言ってくる。

「ごめん、ね……リヴィッド。ありがとう……」

 顔を上げてくる。真っ赤になった瞳は、けれど周囲の凄惨な色とは全く違う、純真な少女らしい輝きに思えた。

「剣……作る。悲、しくて、悲しい、けど……悲しいから、剣を、作らなくちゃいけない。そう、思うから……」

「ああ。俺も手伝うぞ」

「うん……ありがとう」

 彼女はまだ潤んでいる瞳を微笑ませてきた。しかしそうしてから、「でも……」と続けた。

「もっと……聞きたい。どん、な人がいたのか……いい人、のことも、よく、ない人のこと、も」

「俺の会った限りでよければな」

 それは乏しいかもしれないが、彼女にしてみれば大きな意味を持つに違いなかった。

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