2 天海朝子の独白
あなたは裏野ドリームランドについての噂話を知ってる?
知らないの?
そうね、そんなに知名度があるわけではないし、しょせんはオカルトだしね。
あなたが知らなくても、仕方のないことだと思うわ。
この学校の裏に山があるでしょう?
その山の頂上に裏野ドリームランドという遊園地があるのよ。
もう廃園になっているのだけれど。
え?
そんな話は聞いたことない?
そうでしょうね。
本当は過去に一度だって、あんなところに遊園地ができたことなんてなかったのだから。
何を言っているのか分からないって顔ね。
いいわ、教えてあげる。
裏野ドリームランドについての話よ。
あの裏山には廃園になった遊園地がある、というオカルト話があるのよ。
新月の夜、深夜二時。
山の頂上に、裏野ドリームランドという名の遊園地が出現するの。
馬鹿馬鹿しい話であることは承知しているわ。
だから本気にしなくていい。
あなたはただ聞いていてさえすればいいの。
話を続けるわ。
私はその話を偶然、聞いてしまったの。
どこで聞いたのかも、誰に聞いたのかも思い出せないのだけれど。
でも確かに私は聞いたのよ。
私はその噂を鵜呑みにした。
当時は中学生だったからね。
私はすぐに裏山に行ってみたわ。
一人では怖かったから、弟と一緒に行ったの。
まだ小学校低学年だった弟は、とても好奇心の強い子だった。
私の後を、まるで従順な犬のように付いてきたわ。
可愛いでしょう?
名前は祐樹って言うの。
本当に、可愛い弟だった。
話を続けるわね。
噂を鵜呑みにしたといっても、当然、心の底から信じていたわけではなかった。
どちらかというと、深夜に外に出てみたいなんて、そんな冒険心の方が強かった。
裏山の頂上についてもどうせ何もない。
私たちはがっかりした感じで、それでもちょっとほっとして家に帰るものだと。
そんな風に考えていたわ。
でもそれはとんでもない思い違いだった。
深夜二時、裏山の頂上にいた私たちの目の前には、怪しげに輝く遊園地が現れた。
それは間違いなく、裏野ドリームランドだった。
いつの間に現れたのか、分からなかった。
さっきまでは間違いなくそんなものは無かったのに、まるでそこにずっとあったかのように、遊園地は存在していた。
私は迷ったわ。
単なるうわさだと思っていた遊園地が、実際に目の前にあるのだもの。
中に入ってみたかった。
でも、ここに入ってはいけない。
入ったら、私は絶対に後悔することになる。
私は直感していたわ。
その時に私は自分の直感を信じて、引き返していれば良かったのよ。
そうすれば、私は今夜死ぬこともなければ、後悔もせずにすんだのに。
私は自分の好奇心に勝てなかった。
怖気づいている祐樹の手を引き、半ば強引に裏野ドリームランドに入ったの。
そこで私と祐樹を待っていたのは、本当の悪夢だった。
遊園地の中は、意外と普通だったわ。
ジェットコースターに観覧車、それにメリーゴーランド。
でもどれも動いてなかったわ。
そもそもお客なんて、私たち以外に一人もいなかったし。
そんな中で、私の目を引いたアトラクションが一つだけあった。
ドリームキャッスル。
夢のお城なんて、ちょっと素敵じゃない?
私は吸い寄せられるように、そのお城へ向かったの。