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背く者・中編

ここはかつての巣…

ここはかつての箱庭…


ここは…もう閉ざされた聖域…


振り返らないと決めた。


もうここは自分の居るべき場所ではないと決めた。


でも…何故だろうか?


心が…軋む。




朝日を迎え、新しい一日が始まった街…。

本来なら住民は活力に満ち溢れ、新たな明日のために活動を始める筈だった。

だが、今目の前に広がる光景は…とてもそこが同じ街だとは思えないものだった。

漁船は帆を畳んだまま…海面に揺らぐのみ。

市場には数日前から放置されていたのであろう魚介類が腐臭を放ち、そこにハエが集ってる。

住民は皆が怯え、閉じ篭もり、時が解決してくれるのを震えて待つのみ…。


その姿はとても無様で…そして哀れだった。


(…ち…う…)


「酷いものだな…」


レックス達の小隊は敵勢力の本拠地を探っていた。

ブリキ達は人目に付くと厄介なので(聖狼ケルビムも同党の理由で)街から数キロ離れた場所で待機させている。


万が一、任務が失敗したら照明弾を打ってブリキ達を街の側まで呼び戻し、自力で脱出した隊員達だけを乗せて本部に帰還させる…残酷かもしれないが組織の目的のために弱者を庇う余地は無いのだ。


だが、レックスが嫌悪したのは組織の取り決めではない。

街の様子が余りにも醜悪だったからだ。



外を出歩く人間は自分達以外ほとんど見受けられない。

時折、家の二階の窓をうっすらと開けこちらを覗きこむ視線…猜疑心と恐怖に満ちている。

そして……この街に起きたことを何よりも鮮明に物語っていたのは…


(ち……こ…は…)


「これは……」



街の広場…元は美しい噴水と咲き乱れる花の共演によって住民達の心を潤していたであろう場所。

だが…


花は踏みしだかれ…その上に注がれるのは真っ赤な水…。

噴水を覆う池には…無残な亡骸が浮かんでいた。


見せしめだった。

ここに足を踏み入れた者全員に対しての見せしめ。


「外道が…!」


レックスの声に皆が頷いた。

こんな美しい街を汚し、蹂躙する存在を許すことは出来ない。


「あんたら…領主殿の援軍かい?」


ふと気付くと猫背で杖を突いている老人が居た。

身にまとう鮮やかな刺繍の施されたローブから上流階級の人間なのだろうが…


「悪いこたぁ言わん。帰りな…」

「何でだよ!?こんな光景見て素通りできる訳…!」


「無理なんだよ…」


老人はかすかに震えながら言葉を続けた。


「ここはもうこの世じゃねえ…死人が闊歩するあの世になっちまったのさ…」

「死人が歩く…馬鹿な!?」


いったいどうゆう意味なのか?

レックスは老人に更なる情報提供を求めたが…


「死人だけじゃねえ…もっと恐ろしいもんまで…ここに居るんだ…」


次第に老人の震えが激しくなる。


「弄ばされて喰らわれる前に帰りな…あんたらは若い。

 奴らに目を付けられたらもうお終いだ……人間らしい死に方出来んぞ…」


眼前の噴水に捨てられた男の屍にそっと手を伸ばす老人。


「こいつはな…一人で連中に楯ついた男の末路よ。

 曲がったことが嫌いで…人一倍正義感が強くて…皆に…好かれとったのに…」


老人はそのまま泣き崩れ、何度も男の名前を叫んでいた。



一体…この街ではどれ程の数の人間が殺され…そしてどれ程の数の人間がこのように泣いたのだろうか?

レックス達は黙ってその場を後にした。


保護することも考えたが…今は二人だけにしてやりたかった…。





(違う…!)


(違う…こうじゃない…)


(ここはこんな場所じゃない…!)




ふと仲間たちを見渡すと…一つの違和感に気づいた。

今まで幾度か同じ任務をこなしてきた仲間たちの中で一人、今まではどんな醜悪な光景を見ても眉ひとつ動かさなかった男が、怒りに肩を震わせていた。


フランツだ。


「フランツ…?」


今までならこんなことはなかった。

元々、フランツは冷酷非道な男ではない。ただ目標とする高みに到達するために、他のことを見ないようにしていただけだった。


そのフランツが…初めて怒りを表していた。




「おいフランt…」

「こんなところで足止めを食らう訳にはいかない。何としても奴等を叩き潰す…!」


そう言って、フランツは集団から離れ、付近を捜索しに行こうとした。

すると…


「待て…単独行動は慎めと言った筈だ」


ラッセルのいつになく冷静で鋭い声が刺さった。

普段は温厚なラッセルだが、セイバーとして戦場に赴いた時の彼は別人のように冷たかった。


「足手纏いを連れていては得られるモノも取り逃がします…」


フランツはラッセルの制止を振り払い進もうとしたが…


「思い上がるなフランツ…任務に私情を持ち込む奴こそが足手纏いだ…」


ラッセルの言葉にぴくんと肩を震わせると…


「黙れ!!!」


腰に下げた細剣レイピアを瞬時に抜き放ち、斬りかかった。


「やめr…!」


二人の距離はわずか数十センチ…レックスすら制止の声を上げる前に細剣レイピアの刀身がラッセルの肩口に吸い込まれる…そう思っていた。


だが…


(…絶対グランド重圧プレッシャー……)


ボキン…!


「ぐあぁ…!?」

「な!?」


悶えながら地を這いずり回っていたのは…切りかかったはずのフランツだった。

腕を抱え込み、苦痛に呻いている。



「一体何が…?」


ラッセルは眉一つ動かさずに突っ立っていただけだ。

レックスでさえあの体勢でフランツの一閃を避けることなど不可能だっただろう…なのに…。

呆然とするレックスにカイルが答える。


「ラッセル隊長の能力だ。

 木・火・土・金・水の中の『土』…その最上位に位置する力である『重力』を操るんだ」

「重力だと?」


地上に存在するあらゆる質量体は重力によって地面に引き寄せられる。

これを逆に言えば、重力に縛られていない存在は地上には無いということだ…。

あらゆる存在は重力という力の前に膝まづくことを拒めない。


ラッセルはその重力を扱える。

自らに掛かる重力を減らして俊敏に動くことも出来る。

攻撃の際、一瞬だけ自らの斧に重力を乗せることで一撃の重さを何十倍にも跳ね上げることができる。

そして…先ほどの現象もまた、ラッセルの力によって起きたものだ。


フランツが斬りかかった瞬間、ラッセルは細剣レイピアを握る手に通常の十倍ほどの重力をかけた。

結果、巨大な質量を無理やり支えることを強要され、更には抜き打ちによる速度も相まって、フランツの腕に限界以上の重量が一気にかかったのだ。

骨に亀裂が奔り、筋肉は悲鳴を上げ、神経も裂けんばかりの激痛がフランツを襲う。


「邪魔をするな…!此処は…僕が…!」


右腕の苦痛を噛み殺しながらフランツが吠える。

その眼には凄まじい怒りと、底知れない悲しみが見える…。

だが、それでもラッセルの意思は小揺るぎもしなかった。


「アイリス…治療してやれ。ただし独走しないよう多少の傷は残しておけ」

「はっ…はい…」


ラッセルからの命を受け、アイリスがフランツに術を施す。

以前、ニーナ達との連携でレックスを翻弄した彼女だが、本来の組織での役目は治癒魔法による衛生兵だ。

病を治すことは出来ないが、肉体の傷を癒すことは出来るため彼女が居ると居ないとでは雲泥の差がある。


「ふざけるな…ここは…!」

「…フランツ…」


レックスは今まで…フランツのこんなにも悲痛な表情を見たことが無かった。

それほどまでに…ここはフランツにとって大切な場所なのだろう…かつて自分の居た、もう戻ることの叶わないあの街のように…。





「ラッセル…一つ提案が有るんだが…いいか?」

「何だ?」


今のラッセルに声をかけるのは正直気が進まないが、フランツの思いを無碍にも出来ない。


「別に感情論ではないが…敵勢力の拠点を逸早く見つけることには賛成だ。

 別に全員が一団となって動く必要はないだろう?

 俺とラッセルを筆頭に、全体を半分に分けて、捜索しないか?」

「……まあ良いだろう。分配はどうする?」


ラッセルが賛同してくれたおかげで円滑に話が進められる。

レックスは冷汗を隠しながら進言した。


「今居る戦力はセイバーが二人、戦斧アクスが五人、短剣ダガーが十七人だ。

 俺とラッセルを分けるのは当然として、戦斧アクスを二対三に分けるだろう?

 そして二人の方は短剣を(ダガー)を九人つける…これでどうだ?」

「…ちょうど二分する訳だ」

「あぁ…そして必ず生還するんだ…皆でな」


死ぬ覚悟が出来ているのと、死ぬのとは別だ。

自分に大切なモノがあるように…ここにいる全員にも同じく、守りたいモノがあるのだから。


「俺はまだ指揮官として経験不足だ…だから戦斧アクスを三人連れて行きたいんだが…いいか?」

「あぁ…構わない」

「よし!じゃあ………」


心の中でガッツポーズを取りながら三人の戦斧アクス隊員を指名する。


「カイルとアイリス…そしてフランツ!!!」

「!?」

「………」


レックスの指名に誰より驚いたのは他ならぬフランツだった。


「頼りにしてるぜ三人とも!」

「任せろって」

「が…頑張ります…!」


「待て!どうゆうつもりだ!?」


フランツが今度はレックスに詰め寄る。


「別に?俺はただ最善と思える選択をしたまでのことだ」

「僕に情けをかけるつもりか!?貴様なんかに同情されるのは御免だ!!!」


ちょっとイラッ☆っときたので…


「てい…!」


ぽこっ!


レックスはまだ治療されていなかった右腕を…軽くはたいた。


「ぐあああああああああああああああああ!!!!???」



再び右腕を抱えながら涙目で転げまわるフランツを余所に話を進めるレックス。


「あちゃ〜そうとう酷い傷だなこりゃ。

 アイリス、全快に治してやってくれないか?」

「あっ…はい!」

「………………」


アイリス以外の全員が呆然とする中で一人話続けるレックス。


「俺はまだ指揮官として圧倒的に経験不足だからこんな事態も度々起きるだろう?

 でもアイリスが居てくれれば多少は補えるからその点はオッケイだ。

 実戦経験の多いカイルとフランツも居てくれれば任務中のトラブルも平気だろう?

 だからこの三人を指名したんだ。」

「…………まぁいいだろう…」


(((逆らったら〇される…!!!!)))←短剣ダガー隊員の心の声


アイリスの治療が終わり、フランツが復活したころには『何故か』短剣ダガーの隊員が全員ラッセルの指揮下に付いていたがまあ大丈夫だろう。


「さ!早急に捜索を始めようぜ。

 予想外のトラブルで只でさえ任務が遅れてるんだからな」


(((確信犯め………!!!!!)))


「くれぐれも油断はするなよ」

「私が見てないからってサボるんじゃないわよ!?」

「またね〜ノシシ」


「こっちは問題ないさ…な?」

「ああ…」

「まあ……」

(レックス……後でぶっ〇す!!!!)



こうして市内の探索が開始された。

それと時同じくして、敵勢力も行動を開始していたことは誰しもが知り得なかったことだが…







「全く…見え透いた芝居を打つやつだ」


苦笑するラッセルにニーナとエレンも苦笑いする。


「まぁ…アイツらしいと言えばそうなのですが…」

「見てる分には可笑しかったけどねwww」


「!?」←短剣ダガー以下略


短剣ダガーの隊員からしてみれば目玉が飛び出すほどの恐ろしい光景だったのに、可笑しいとはどれ程肝が据わっているのやらこの三人は…


(がちゃり…)


「!」


歪な音を聞いて即座に笑いを止め、斧槍ハルバートを構えるラッセル。

それに遅れてニーナや他の隊員たちも自分の周りを取り囲んでいる存在に気づいた。


(がちゃり…!)


数はおよそ三十……


(がちゃり…!!)


重厚な鎧を着込んだ騎士…否、


(がちゃり…!!!)


戦いに敗れた騎士のなれの果てだった。











レックス達はラッセルの監視から逃れるために手狭な路地に入った。



「さて、フランツ…」

「何だ…次に右腕を叩いてきたら素っ首叩き落とすぞ!?」


殺気ムンムンのフランツに見せたレックスの表情は、さっきまでは別人のように見えた。


「当てが有るんだろ?案内してくれ」

「!?」



「……何故分ったんだ?」

「この任務の情報を伝えてきたのはお前だからな。

 しかも普段とは様子が可笑しかった……無理に隠そうとしてるのがバレバレだったぜ?」


(確かに……)


カイルは今までのフランツの行動を思い返していた。

何やら上の空でらしくない失態を繰り返し(ブリキとのやり取り参照)、ラッセルを押し切ってでも単独行動をしようとしていた…。


まるで…自分だけの宝物を必死に守ろうとするかのように…


「ここは…お前の街なんだろう?」

「…あぁそうさ。もう二度と戻ることは無いと思っていたんだがな…」


フランツは…自分の過去を話し始めた。







ここの領土を統治する領家・ゲルト家…その次男がフランツだった。

土地柄に恵まれ、近隣からの物資も潤沢に運び込まれ、産業が発展しているこの街の領家の息子…。

フランツは組織に入る前でももう、生活は保障されていた。

平穏無事に、贅沢に…気ままに生きることも出来た。




だが…自分の本当に欲しかったモノは手に入らなかった。





フランツはこの街が好きだった。


自分の部屋から見渡す夕焼け色の海が…

賑やかな市場に生き、笑う住民たちが…


願わくば自分の手でこの街を守りたかった。


だが…自分は所詮次男、跡取りにはなれない。

親も兄さんも…世間体や利益のみを追い求め、フランツの声など聞いてくれなかった。



心を許せたのは…街に住んでいた貧しい家計の同世代の青年だけ。

二人はいつもお互いの夢を語り合った。

フランツはこの街を納める領主になることを夢に見た…。

友もまたこの街を愛していたので領主になることを望んだ。


二人は誓い合った。

二人のうちのどちらかがこの街の領主となり、ともに同じ道を歩もうと…。


だが…互いに違う身分の者同士…どうしても心のどこかで蟠りを感じてしまう。

いくら夢を語っても現実は付いてこない。


奇跡など無い。

救われるものなどほんの一部の人間だけ。

それ以外は皆、夢に思いを馳せながら与えられた立場を全うするしかない。


友もまた救われることなど無く、貧しい一家の一人でしかなかった。


いつしかフランツは…この街を憎むようになった。

どんなに望んでも自分の手は届かないのなら…

どんなに愛おしくとも…この想いに応えてくれないのなら…


いっそ憎んでしまおうと…




そんなある日気まぐれに出た野狩り場で偶然、魔物に襲われた。

当時のフランツは細剣レイピアこそ使えたが、術など無く、勝てる道理など無かった。


そして…別段恐ろしくなど無かった。

自分には命に執着する理由など無かったから…ここで死んでも変わりは無いと思っていた。



だが…そこでシリウスに助けられた。

醜悪な魔物を一太刀で葬る黒髪の剣士……。


美しかった。

今まで見て来たあらゆる物が霞んで見えるほどに、その姿に魅了された。


フランツは地べたに膝まづき、必死にシリウスに頼み込んだ。

どうか貴方の下でお役に立ちたいと。


シリウスは別段興味も無さそうな表情をしたが、何かの役には立つやも知れないと思い、同行することを許可した。


この時からだった。

フランツがシリウスの横に並ぶことを願い、戦いに身を投じたのは…。





「その時から、この街には戻って来ていない。

 別に後悔などしていなかったよ…ここは僕にとって世界中の何処よりも居心地が悪い場所だからな。

 だが……」


「それでも…世界中の何処よりも愛した場所だった…」

「!?」

「違うか…?」



フランツは一度目を伏せ、そして……


「あぁそうさ…いっそ全てを憎めれば楽だってのに…」

「憎み切れない…でも愛しきることも出来ないもどかしさと苦しさ…辛いな」


レックスもそうだった。

レベッカとの思い出を紡いだ街でもあり、そして自らの手で殺してしまった罪の象徴でもある故郷の街。


全てを憎めれば、全てを忘れてしまえば楽なのに…


でも…その場所が有ったからこそレベッカと会えた。

その場所があったからこそ…幸せだったのだ…。


「行こうぜ。例え苦く、辛い場所とはいえど…思い出は美しく遺しておきたいじゃないか」


もしかしたら…レックスはフランツと自分を重ね合わせて見ていたのかも知れない。

自分は取り返しのつかないことをしてしまった…もう故郷には戻れない。


でもフランツなら…自分とは違う選択ができるかもしれないと…


罪滅ぼしではない。

ただ…そうあって欲しかった。


「あぁ…まずはこっちの…!」


迫りくる殺気に気づき、フランツは一歩飛び退いた。直前まで彼の居た空間を鈍色の刀身が通る。

四人が顔を見上げると、そこには全身に甲冑を着込んだ騎士達が仁王立ちしていた。

この街を守る自警団だろうか?だが…それにしてはこの殺気は尋常ではない。


「何だ?いきなり斬りかかって来るなんてそれでも騎士かよ!?」

「………」


騎士たちは何も応えない。

替わりに再び剣を構え、斬りかかって来た。

表の世界の騎士とはいえ、熟練した動きと容赦のない太刀筋は敵対する存在に恐怖を与えるものがあった。


だが……今回は相手が悪かった。



フランツは刀身を空に掲げ、精神を集中させた。

次第に天候が荒れ、雷雲を呼び寄せる…そして落雷が細剣レイピアに向かって落ちた。


今までのフランツは落雷を全身に受け、肉体を強化する代わりに理性を失ってしまうという欠点があった。

だが、落雷を細剣レイピアにのみ落とせば理性を失わずに済む。隙も無くなる。


「喰らえ…!!!」


一閃と共に雷光を開放する。

雷は放射状に広がり、鉄の甲冑を着込んだ騎士たちの身を焼き焦がす。

『雷帝』の二つ名は伊達では無い。



だが…騎士達はまだ倒れて居ない。


「!?」


フランツは眼をむいて驚いた。

どんな屈強な人間であろうと雷を耐えることなど出来ない筈…!


驚愕して手が止まったフランツに斬りかかる騎士達…そこへ


「破ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ぐしゃあぁぁ・・・!


カイルの振るった戦斧が騎士の腕を斬り飛ばした。

甲冑を物ともしない強烈な一撃。

だが…それでも騎士達の動きは止まらない。


「な!?」

「馬鹿な!?」


仲間の損傷を目にしても全く揺るがない進撃。

しかも、腕を斬り飛ばされた騎士も苦痛を感じていないかのように立ちあがってくる。


「このままじゃ囲まれます!」


まさに袋の鼠…このままでは殲滅されるのも時間の問題だ…だが


「三人とも下がれぇ!!!」

「!」


振り返るとレックスが腰を落とし大剣を大きく振りかぶっている。

その刀身には強大な魔力と、それによって呼び出された風が渦を巻いている。


「無理だ!あいつらには攻撃が効かないんだぞ!?」


フランツの叫びに対してのレックスの返答は…


「衝羽……二連!!!」


渾身の力を込めて放たれた衝撃破は…路地に面している民家の壁を鋭利に切り裂いた。


「!?」


壁がズレ落ち、そのまま落下する。

その先には・・・…!


ズシャァァン…!!!


不死身の騎士とはいえど、圧倒的な質量の前には膝まづくことを避けられない。

レックス達に襲いかかった騎士達約十名は一瞬で埋没した。


「か〜マジかよ?」


まさか敵もこんな形で倒されるとは思ってもいなかっただろう。

しかし思いついたからといって即座に行動に移す人間もそうそう居ない。

即断即決。

敵のからくりが分からないならそれをもねじ伏せる策を打つ。

レックスの戦闘力、判断力は間違いなく組織でも指折りだろう。


「お前が敵でなくて良かったよ…。

 命がいくら在ろうが…いや、不死身だろうがこれだものな」


フランツが苦笑し、カイルとアイリスもくすくすと笑い始める。


レックスも口元を緩めながら三人に近付くと…


がしゃ…!


「!?」


瓦礫の山の端…最も瓦礫が少なかったであろう箇所から騎士が一人だけ這い出て来た。

恐ろしい生命力だが…


グサッ…!


細剣レイピアが額に吸い込まれ…


ガスッ…!!


戦斧が左足を付け根からもぎ取り…


ズシャァ…!!!


大剣が右腕を肩口から叩き斬った。



三人は敵の存在を認識した瞬間に飛び込み、対象を完膚なきまでに斬り刻んだ。

流石の騎士もこれには耐えられなかったようで活動を停止し、地に伏した。


「これでやっとか?」


カイルが戦斧を肩に担いでぼやく。

先程の凄まじい手際とは打って変わってけだるそうな声だ。


「まだ安心できないな…首でも落とすか?」


若干の諦めとため息を混ぜたような口調でフランツが提案する。

口と同様、細剣レイピアを握る右腕は休まず、対象に止めを刺そうとしている。


「これ以上は気が引ける…遺体を調べて後は埋葬してやろう」


レックスはそんな彼らを心強く思いながら、今度こそ亡骸となった騎士の甲冑を剥ぎ取っていた。


またこの不死身の騎士達に遭遇するかもしれない現状ではとにかく敵の情報が欲しい。

甲冑に特別な仕組みが有ったのか?

それとも人間が特別な能力を持っていたのか?


まずは調べる必要があ……


ガシャン…!


レックスの手から放たれた甲冑の一部が、地面に落ち、高い音を立てた。

カイル達が何事かと駆け寄ってくる。


「何だよ大将?遺体を拝むのはこれが初めてか?」


経験の浅い隊員が動揺する最も一般的なパターンは殺された人間の遺体を調べることだ。

ついさっきまで動いていた相手…それも同じ人間の死を直視することはなかなかに難しい。


だが…レックスに限ってそんなことは有り得ない。


「見ろよ…これ…」


レックスに言われたとおり三人が遺体を覗き込むと…


「!?」

「そんな馬鹿な…!?」

「きゃあ!?」


レックスが取り払ったのは兜と胸部の甲冑だ。

本来ならその下には騎士の顔と体幹が見えるはず…だが…


顔は醜くただれ…腐敗臭を放ち、胸部の一部からは肋骨が覗いて見えた。

ふと振り返ってみると切り落とされた腕と足も似たような状態だった。


「俺達…死人と戦ってたのか?」

「………」


フランツは遺体を注意深く見て、一つの不可思議なものを見つけた。


騎士の頭部…ちょうど額のあたりに焼印のような紋章が刻まれているのだ。

ふと思い当る術の知識が浮かんだ。


支配ブランディング烙印ルーラー』…召霊術コール同様、禁呪とされた魔術のうちの一つ。

対象に魔力によって焼印を押すことでそのものを支配する恐ろしい魔術。

加えて死者の方が抵抗力が無い為扱いやすいという理由で墓場を荒らして肉体を調達するという光景が頻繁に起きたためにジガードはこの魔術に関わったものを一人の例外もなく打ち首にしたと聞く。


まさかその禁呪を使う魔術師が残っていたなんて…そう思っていた時…


気づいてしまった。


「……!」


フランツは遺体に顔を寄せてしっかりと凝視した。

見間違うことのないように…自分の思い違いであるようにと…


だが…


「嘘だろ…何で…何でお前が…!」



額に刻まれていたのは……一つの玉座の両脇に細剣レイピアと斧が立てかけられた紋章。

二人の内のどちらかが領主になる…そのための誓いとして友が書き上げた二人だけの紋章…。


(俺達二人は無敵だ!どんなことだって二人ならできる!)


あぁ…そうだったな…


(必ず王になってやる!)


二人の…夢だったからな…


(お前と俺、どっちが王になるか勝負だ!)




いつから…お前は歪んでしまったんだ……レオン…



路地裏に吹く風は…何も応えてはくれなかった…。





投稿遅れて申し訳ありません。

作者は只今一種の精神病を患ってしまいそのせいで更新が遅れてしまいました。

出来る限り更新速度は落とさないつもりでしたがいつもより遅れてしまい申し訳ありません。


未熟な作者をどうかお許しください。

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