神の居ない教会
この小説は長編のファンタジー小説です。
一部残酷な描写を含むことがありますが大部分は差し障り無く楽しめる物語に仕上げたつもりです。
まだ処女作ゆえ未熟な部分も多々あるかとは思いますが、日々精進を重ねてゆきますので何卒よろしくお願いします。
人は誰もが物語を持っている。
「そんなことない」と思うのはその物語に対して執着できていないからだ。
「物語」には規模がある。
一個人内で完結するものもあれば、世界の流れにも匹敵するものもまたある。
「物語」の中で人は時に「神」であり、「英雄」でもある。
だが、気をつけなければならない。
人は自分の物語を自分で決めることができない。
できるのは「抗う」か「受け入れる」ことのみ。
「抗う」ことが時に人を苦しめ、「受け入れる」ことが時に絶望を招く。
だが、そうと知っても人は「抗う」ことを選ぶのだろう。
その先に「希望」を信じて…「救い」を信じて・・・。
「物語」という名の「迷宮」
「物語」という名の「悪夢」
「物語」という名の「監獄」
その中に「希望」は、「救い」は、あるのだろうか…?
世界はその日を境に姿を変えた。
河の流れも、木の陰さえも…「畏怖」の対象と化した。
「希望」に満ちていたはずの「明日」は「絶望」の色を帯びた。
人々は恐れ、慄き、恐怖という名の賞賛を詠う。
英知と繁栄を極めし「千年帝国」は終わりの始まりから二日で消えた…。
我は願う。
二度と人が同じ過ちを繰り返さんことを。
そしてここに刻もう。
約束の唄を…
著者 ジガード・L・ロンギヌス
「アホくさっ!」
そう言って彼はその本を投げ捨てた。
立派な表紙で彩られた見るからに高価で貴重な書物も彼に言わせればこの一言…。
「アホくさっ!」
情け無用だ。
ロマンも感傷もあったもんじゃない。
彼の放り投げた本が地面に当たる刹那……
「どあっ!何してんの兄貴!?」
小柄な少年がナイスキャッチ。
ぼさぼさな髪、ぼろぼろの靴、擦り切れている上着。
この貧民街では珍しくない服装だが、その少年の目は腐ってなかった。むしろ光っていた。
「この本は現存する書物の中で唯一!あの聖戦について書かれている貴重なものなんすよ!
まさにお宝!裏で捌けばとうぶん喰うには困らない!!だから盗んだんじゃないすか!
それをいくら何でも言うに事欠いて…」
彼は兄貴と慕う青年を見つめた。
軽く尖った髪型、強い意志を感じる目、この辺にしては中々上等な革製の服、装飾品、そして鋭い燐光を放つ鋼の剣を腰に帯びていた。
少年の訴えに対し「兄貴」と呼ばれた青年は言った。
威風堂々と言い放った。
「つまんねえモンは仕方ねえの!気にすんな!」
大器なのか?アホなのか?
少年はため息を吐くしかなかった。
「やれやれ…レックスの兄貴には敵わないや・・」
レックスと呼ばれた青年はまたも自信満々に答える。
「当たり前だ!俺を誰だと思ってやがる?」
二人は顔を見合わせて大声で笑いあった。
そんな彼らを道行く人たちが苦笑混じりながらも比較的温かな目で見守っていた。
彼等は浮いていた。
規律や信仰を重んじるこの名も無き町で…誰もが神に祈る町で…彼等は神に祈らなかった。
この町には…いや、この世界には歴史が無い。
「聖戦」と呼ばれる大きな戦いが世界を呑み込んだ後、そこにあったのは傷つき、朽ちた文明の名残のみ。
だが、その中でも平和な光景は育まれた。
壊れたならば直せばいい。
望むなら作ればいい。
そうやって人は生きてきた…。
しかし、全てが救われる筈も無く、金も地位も無い人間は薄暗い貧民街でひっそりと生きるしか無かった。
毎日「貴族」と呼ばれる人種が出すゴミの中から喰えそうなモノを探り出し貪り喰らう。
毎日自分より弱い奴から金目のものを奪い、その日の糧を得る。
あるいは現実から目を背け「神」という名の偶像に救いを求め、祈る。
そんなことはご免だった。
俺は無責任な神になんか一言も祈るものか。
俺は強く生きてやる。
そうしてレックスは今日もまた子分達と駆ける。
「獲物」を求めて。
レックスと数人の子分達は路地裏にある一軒の店の扉を開くと中に入っていった。
店主らしき男を見るなりレックスは言った。
「よお糞野郎。
今日も今日とて裏取引に精を出してんな。
そんなんだから奥さんに逃げられんだぜ」
「よお糞餓鬼。
今日も今日とて貴族から何やら頂いたらしいな。
買い取ってやってるのにその口は何だ?親の顔が見てみたいモンだな」
「生憎そんなの俺も知らん。
むしろ教えて欲しいもんだぜ。
第一、俺はアンタに欠陥品は掴ませた覚えないし文句言われる筋合いはないね」
「喰えねえ野郎だな餓鬼大将」
「喰われてたまるか鬼大将」
いつもの口喧嘩である。
二人は仲が悪いわけではないが、会うと必ずこうした口論を繰り広げる。
ちなみに店主はかなりの大柄で強面、さらに街の盗賊狩りにも毎回借り出される程の猛者であり、そんな男に対してここまでの口が利けるのはレックスと彼の奥さん(逃げられてはいない)、あとは一部の権力者ぐらいである。
見守る子分達はさぞ生きた心地がしないだろう。
「で、今日の獲物は?
生憎安い小物はいらねえがな」
「聞いて驚け大物だぜ」
そう言ってレックスは布に包んでいた本を店主に渡す。
「これは・・・!
あのジガード戦記じゃねえか!
いったい何処から・・・」
「ジガード戦記」とは聖戦を終結に導いたと謂われる英雄・ジガードが世に残したとされる現存する最古の書物にして聖戦の謎を探る唯一の手掛かりでもある貴重な書物だ。
裏に流せば山積みの金貨に姿を変えることは明白。
(この本は複製品を合わせても世界に30冊も無いと言われている。正にお宝だ)
店主は以前この街に来た大商人が自慢げに見せびらかして行った貴重な書物と全く同じ代物に再会できたことに感銘さえ覚えていた。
(兄貴がアホみたいとか言って投げ捨てたと知ったらどんな顔をするだろうか・・・?)
興味は尽きないがとても恐ろしくて訊けはしまい。
この疑問は世に出る事無く子分たちの胸の中に封印された。
「ほらほら見入ってねえで買ってくれよ。
俺が偽物掴ます訳無いってのは知ってるだろ?」
「わかったわかった。そう急かすなよ大将」
店主は店の金庫から大きめの皮袋を取り出した。
中を見ると金貨がぎっしり詰まってる。
「金貨40枚だ」
そう言ってレックスに投げ渡す。
レックスは思いのほかの報酬に大喜びしながら店主に言った。
「さっすが大将!いい目してるぜ!
これからもよろしく頼むかんな!」
レックスは満足そうに笑うと子分達を連れて出て行った。
その背中を店主は微笑ましく見送る。
彼はレックスのことを口には出さないが高く買っていた。
レックスのやっていることは窃盗や侵入…犯罪行為だ。時には人も殺す。
だが、他にどんな生き方が有る?
彼等は孤児だ…親も身寄りもない…財産も無い。
奪い、盗み、騙し、殺す…そうでなければ自分が生きていけない。
これは誰のせいだ?
誰のせいでもあり、そうでないとも言える…何故なら世界が「そうだった」からだ。
所詮人間の意志や思想などそれらの前では無力…ならば適応していくしかない。
その点レックスは強かった。
大抵の人間は街の教会に施しを受けに並び、たった一杯のスープと坊主からのありがたい説教をたっぷり貰ってその日を過ごすか、死体をそこらにさらしてくたばるかのどっちか。
しかし彼はこの矛盾の上に成り立つ世界で、その理を逆手にとって抜け目なく生きてる。
レックスのことを考えていると自然に頬が緩む。
自分に息子が居たら…ああなって欲しいとでも思っているのだろうか?
全く、自分もロクな人種では無いな。
「まったく恐れ入るよ」
そう言って軽く笑うと買い取ったお宝を隠し金庫に丁寧に隠した。
(今度、あの悪餓鬼どもでも夕飯に誘ってやるか?)
店主は口元に笑みを浮かべながら棚の整備を始めた・・・。
レックス達は町外れの廃屋に集まっていた。
ここは彼等の溜り場なのだ。
「んじゃ、獲物を分けてやるよ。
今回は大漁だったからな、一人金貨三枚やろう!」
「やったあ!さっすが兄貴!気前いいや!」
分け前をもらった子分達は大はしゃぎした
レックスの子分は四人。
皆年齢は12,13の少年ばかりだ。
彼等の年齢ではこの町でどんなに立派な職につけても、日銭はせいぜい銅貨二枚が限度だ。
そんな彼等からみて金貨三枚は夢のような大金だ。
銅貨二枚ではその日のパンを買っただけで消えてしまうが、金貨三枚もあれば当分の間飢えに苦しむことは無い。
そんな彼等に殺気の篭った視線が向けられる。
「誰だよ…俺様に不躾な態度とりやがる命知らずはよ?」
レックスは立ち上がり、壁に立掛けていた剣を取る。
子分達は不穏な空気を感じると、レックスの後ろに隠れた。
すると、人相の悪い男が三人程現れた。
皆ナイフを構えている。
どうやら自分達の後を追ってきたらしい。この街ではよくあることだ。
「お前ら金貨なんか持ってんのかよ?
餓鬼にはもったいねえ、俺らがもらってやるよ」
(やはりそうか)
レックスはため息を吐いた。
自分より弱そうな奴に集ることしか考えない、何とも無様な蛆虫共。
「吐き気がするぜ」
「何だって?」
「何度でも言ってやる…吐き気がするぜ手前等。
餓鬼だとか抜かしやがって、そういう自分は何様だ?大の男が餓鬼に集るなんて笑えもしねえよ。
手前等みたいのを負け犬って言うんだ!負け犬は負け犬らしく哀れっぽく鳴いてな!」
レックスは気に食わなかった。
自分より強いものには媚を売り、弱いものは容赦なく脅す…そんな生き方、そんな人間が。
認める訳にはいかなかった。
認めてしまえば今まで自分の信じて来たことが偽りになってしまう。
その決意が、眼前の「敵」に剣を向ける。
「舐めた口利きやがって!」
激昂した男達が斬りかかってくる。
だが子分達は怯えてはいない。彼等の「兄貴」の強さを知っているからだ。
「馬鹿がっ!」
そう罵ると彼は近くにあったボロ箱を蹴り飛ばした。豪快な音とともに中に入っていた鉄屑が飛び散る。
「うわっ!?」
男達の目に砂埃と鉄粉が付着し目潰しの役目を果たす。
その隙が命取りだ。
瞬時にレックスは距離を詰め、一番手前の男に剣を振るった。
「シッ!」
軽く覇気を込め、剣を一閃する。
鋭い低音の音と、それとは別に肉が千切れる音が聞こえ、男の手首をが宙を舞った。
「ぎゃぁぁっ!!腕がっ!腕がぁ!!」
自分の血を見て絶叫する男。
その様が恐怖を周りに伝染させる。それが男達の劣勢に拍車をかける。
「ひいっひぃぃぃ!!!!」
まさか本当に斬られるとは思っていなかったのだろう。
腰を抜かし、怯える男が一人。
「たっ助けてくれぇぇ!!」
恐怖のあまり逃げ出す男が一人。
最早勝負は見えた…いや、最初から勝負にすらなっていなかった。
だがレックスの怒りは収まらない。
レックスは逃げ出した男の背に上着の内側に仕込んでいた投げナイフを投げる。
投擲された刃は空を切り、狙い違わず男の心臓を射抜く。
男は瞬時に絶命する。
仲間の死を見て恐怖のあまり気絶した男は、すぐにその後を追うことになった。
「ああっ…あっあ…あっははは!はははっはは!」
最後の一人になった男は腕を失ったことと、仲間の死を見たことで気が触れ笑い出した…がすぐにその笑い声も消えた。
レックスの剣の切っ先が歪んだ笑みを浮かべた男の顔を砕いたのだ。
「無様なもんだな…下衆の末路なんざ」
剣に付着した血を振って落とし、何の感慨も込めず呟く。
今までにもこんなことは何度もあった。初めは屈辱を味わった。
だがその痛みがレックスを強くした。
「二度と負けない」
そう誓い、何かに憑かれたように剣の修行に打ち込んだ。
我流ながらもその剣の腕前は今やその辺の騎士など軽く凌駕する。
人を斬ることに罪を感じない訳では無い。
だが、殺らなければ自分が殺られる、仲間が傷つく。
無力では何も守れない、無力な自分を守ってくれる者などこの世界には居ない。
その真実を知った彼に躊躇いは無かった。
敵は斬る。
単純だからこそ力強い真理。
この街…いや、この世界で寄る辺無く生きるということはこういう事なのだ。
剣を革製の鞘に戻し、子供たちに笑いかける。
「もう大丈夫だ」
安心して走り寄ってくる子供達をなだめながらふと、思った。
敵さえ居なければ惨忍な殺人者にならずに済む。
治安を納めてくれる勢力が有れば安心して暮らせる。
だが世界はそんな願いも叶えてはくれない。
そのことに気付いたとき彼は祈りを捨てた。
彼にとって神頼みなど生きることを放棄することに相違無かった。
子分達を彼等の家に送り届けた後、レックスは市場に買い物をしに行った。
街の雑踏に紛れている間は…先ほどまでの虚しさを忘れられた。
やがて大量の食料などを買うと帰途に着いた。
街はずれの丘に佇む静かな教会。
そこが彼と彼等の家族の住処だった。
ドアを開けると小さな子供たちが出迎えてくれた。
「兄ちゃんお帰り!」
「お帰りなさい!」
「いい子にしてたよ!」
子分達よりも更に幼い子供達、もちろん本当の兄弟ではない。
ここにいる十人程の子供達は皆孤児なのだ。
親も頼れる者もいない子供達を受け入れたのは、レックスにとってもかけがいの無い一人のシスターだった。
「よしよし、姉さんは何処だ?夕飯の支度、手伝わないとだからな」
「姉さんは二階でお裁縫…」
「寒くなりそうだってセーター編んでくれてるの!」
「ありがとな。今日はご馳走だぞ!腹空かして待っとけ!!」
はしゃぐ兄弟達に笑いかけ、二階に向かった。
レックスは二階に上がると、そこにいた若い女性の姿を見かけた。
短く切り揃えられた栗色の髪、整った端正な美しい顔立ち、優しげな眼差し。
思わずレックスは見惚れた。無理もないだろう。
夕日を背にした彼女の姿は喩えようのない一枚の絵画のようだったのだから。
「私の顔に何か付いてる?」
彼女の声に目が覚める。思わず顔が赤く染まった。
「何でもない!気にすんなレベッカ!」
照れ隠しのために思わず声が上ずる。
彼女は軽く微笑んで冗談めかして言った。
「あらら私に惚れちゃった?あぁ神よ!私の美貌をお許しください!」
「誰が惚れるかっ!ってゆーか!んな事で懺悔すんなぁ!!」
反論するが、顔が赤けりゃ説得力が無い。子分や店主が見たら何と言うだろうか?
「はいはいそーですねぇ〜」
「お前納得してないだろっ!いいかっ?俺は絶対に!見惚れてなんか」
「そんなことより!」
「何だよ?打ち切るなよ!」
レックスの反論に構わず彼女は言葉を続ける。
「お帰りっレックス!」
「………おぅ」
心の中で思わず舌打ちする。
そんな心境などお構いなしに彼女は微笑む。
彼女の名はレベッカ。
この教会のたった一人のシスターにして孤児達の母親代わり。
レックスにとっても母代わりの女性…あるいは初恋の相手だろうか。
彼女は明るく、優しく彼等を受け入れ育んだ。
レックスの剣がここまで上達したのも彼女を守りたいと想う気持ちがあったからに違いない。
レックスはいつの間にやら時を忘れて彼女の顔を見つめていた。
レベッカも負意に顔を赤らめながらも、それを隠すように声を張り上げた。
「何ぼ〜っとしてんの?夕飯の仕度手伝ってよね」
「!?おっおう!まかせろって」
「あれ?その袋…」
大慌てで食糧袋を担ぎあげるレックス、そしてその余りにも大量の食料に今気付くレベッカ。
「今日は大漁だったんだ」
彼は自信満々に差し出す。
しかし、彼女は一瞬悲しそうな顔をして…すぐに表情を変えて明るく言った。
「凄いわっ!これならあの子達にお腹一杯食べさせてあげられる!ありがとレックス!」
レックスは一瞬、何か言おうとしたが言葉を止め夕飯の仕度に取り掛かった。
彼女の意志を優先させ、自分の本心を胸の中にしまった。
「誰よりお前に喜んでもらいたかったのに・・」と。
子供達は夕飯を腹一杯食べると、一階の寝室ですやすやと寝息をたてた。
レベッカは後片付けの後も、休まず裁縫を始めた。
そんな彼女にレックスは文句を抑えられなかった。
「いい加減休んだらどうだ」
「……」
彼女は手を止めない。
「聞いてるのか!?」
思わず声が荒くなる。
「どうせ朝から働いてばかりだろう!
飯もロクに食わないでロクに休みもしないで!過労死したいのか!?」
「静かにして、子供達が起きちゃうわ。私にどうして欲しいの?」
叫ばずにいられない。
「もっと自分を大事にしろって言ってるんだ!
何で俺が稼いできた金を使わない!?何で俺が買ってきた食い物は口にしない!?
答えろ!レベッカ!!」
レベッカは静かに答えた。
「あのお金や食べ物は人を傷つけたり、人から盗んで手に入れたものでしょう?」
「なっ?」
彼女の言ってることが理解できない。
「嘘はつかないで…そうでしょう?
そんなもの私は要らない、欲しくない。主はお許しになられないわ」
(何故?)
(そんな理由?)
(神様が許さない?)
「ふざけるなっ!!!」
思わず激昂した。
レベッカはまっすぐにこっちを見ている。
「神が何だって言うんだ!?
あんなもの何もできない連中が勝手に作った偶像だ!
そんなものに何が出来る!?祈って何になる!?祈れば救われるのか!?助けてもらえるのか!?
違う!!神なんざ何の力も無い!!
何故お前がそんなものに気兼ねしなきゃ…」
パンッ!
やけに乾いた音が狭い部屋に響いた。
レベッカがレックスに平手打ちした音だった。
「お黙りなさい無礼者」
彼女の声がやけに低く、冷たく感じた。
「私は神に仕える者です。
主を侮辱する者の助けなど私は要らない!
今すぐこの場所から出て行って!二度と私の前に来ないで!話しかけないで!」
殴られることには慣れている筈なのに…
貧弱な女の張り手なのに…
何故こんなにも痛いのだろうか…?
「悪かったな…とんだお節介だったな!
勝手にしやがれ!せいぜい置物相手に祈ってろ!」
何故こんなにも悔しいのだろうか?
「馬鹿野郎!!!」
そう叫ぶとドアを蹴破って外に飛び出した。行く当ても無く、夜の闇へ溶け込むように…
翌朝子供達は不思議だった。
いつもなら兄と慕う青年が「とっとと起きろぉ!」と大声で起しに来る筈なのに今朝は来ない。
外を見ると太陽は既に高く昇っている。
なのに姉さんが作る朝飯の匂いもしない。
一体どうしたのだろうか?
子供達が二階を見に行くと姉さんが泣いていた。
「姉さん?どうしたの?」
「兄ちゃんは?何処にも居ないよ?」
子供達が尋ねてもレベッカは泣き続けた。
その横に彼女が誰よりも居て欲しいと願う青年の姿はなかった。
とある酒場。
柄の悪い連中が溜まる治安の悪い酒場にレックスは居た。
テーブルには麦酒の空き瓶やつまみの皿が散乱し、その雰囲気に荒くれも、彼に怨みのある連中も黙っていた。
空気を読めず、彼にちょっかいを出した酔っ払いは、一刀のもとに斬り捨てられた。
いつもは騒音と喧嘩と罵声が絶えない酒場は今・・
奇妙な支配者に制圧されていた・・・。
そんな時だった。
この酒場に奇妙な珍客が訪れた。全身をフードで覆ってる奇妙な三人組だった。
彼等は酒場を見渡し、何を思ったかレックスに近づいていった。
店主が止めようとするとその中の一人が言った。
「心配は無用です・・すぐに済みますので・・」
店主は、言葉の奥に感じる力とそして意外にも澄んだ綺麗な声に驚いた。
三人は黙ってレックスの居る席へと近づいて行った。
「同席よろしいですか?」
声から察するに女だろうか。
全身をフードで覆った連中が俺の前に現れた。
「失せろ」
一言だけ言い放つ。
目に映る全てが煩わしく、目に映る全てに殺意が沸く。
世界はこんなにも薄汚く居心地が悪かったのか・・?
しかし、その女は構わず俺の向かいに座った。
それがやけに気に喰わなかった。
思考は一瞬、次の瞬間には逆手に握った剣が女の首目掛けて飛ぶ。
だが…
ガキィン!!
金属同士がぶつかり合う音が響く。
見ると女の後ろに控えていた背の高い男らしき人物が自分の騎士剣で俺の斬撃を止めていた。
そのことに僅かながら驚く。
多少酔ってはいるが俺の剣だ。
並みの腕では止めるどころか反応できない筈…それをいとも容易く止めるとは。
この男は強い。
斬り合えばまず勝ち目は無い。
まして連れに剣を向けたのだ…こりゃ斬られても当然だ。
だが男は剣を納め、何も無かったかの様に女の後ろに立った。
(・・・何なんだ?俺に何の用だ?)
「良かった。話を聞いてくれる気になったんですね」
「!?」
この女…まるで俺の考えを詠んだみたいに!?
連れの男の腕前と言い、この風貌と言い…普通じゃない。
「あっ警戒しないで下さい。私達怪しい人じゃないですから」
…………………………何処が?
どう見ても怪しい、怪しすぎるくらいだ。怪しさに足がついて歩いてるようなもんではないか。
怪しむなって方がおかしいではないか。
「ならその布切れは何だ?」
怪しくないと言い張るなら取ってみせろ。取れるものなら取ってみろ!さぁ!
「あっ分かりました取りますね」
「意味無かったのか!!!!?」
しまった突っ込んじまった。
そこの酔っ払い共!笑うんじゃない!!あんなボケ全開フルスロットルじゃ仕方ないだろ!?
この女は人の気も知らないで呑気に面出しやがって……!?
思わず息を呑んだ。
淡い薄紫の髪、吸い込まれそうな美しい瞳、若さに満ちた端正な顔立ち。
決して派手ではなく、それでも可憐な服に包まれた女としての魅力に満ちた体。
それらが完璧に噛み合いまさに「絶世の美少女」に仕上げている。
「綺麗だ……」
自分で本心をさらっと言ってしまい、気づくと顔が凄まじく熱かった。
大丈夫だ…きっとこの女は聞き逃したか聞き流した筈だ!
そうに違いない!ていうかそうでないと嫌だ!つまりそうであって!!!
しかし、先も述べたとおりこの世界は無慈悲で…
「そんな綺麗だなんて…ありがとうございます……」
顔を赤らめてちょっと俯きながら喋るソフィール。
聞かれた!!!
最悪!最低!!信じられない!!!信じたくない!!!元凶が居るなら切り殺してやりたい!!!
「だああああぁぁぁぁ!!!もう黙ってくれアンタ!!!話進まなねえんだよっ!!!
俺に何の用だ!?さっさと話せ!!!」
さっさと会話を推し進めるに限る。
さっさとこの居心地の悪い世界から逃げ出したい!!!
赤面してた女もハッと気付くと話し出した。
「そっそうですね…すみません」
俺のペースは狂いっぱなしだ。全くなんて恐ろしい女なんだ…!?
「あっ申し送れました。
私はソフィール・L・ロンギヌス。連れが右からシリウス、ラッセルです。
以後お見知りおきを…」
「話進めろ頼むから!!!!!!!!!!」
埒が明かないのでその先はラッセルという男が話すことになった。
紫の髪に、凛々しい眼差し、立派な鎧に身を包み、背には長大な斧槍を背負っている。
今度剣を交えてもいいかもしれないと思った。
ちなみにさっき俺の剣を止めたのがシリウスという男だ。
長い黒髪に鋭い目、美しい装飾を施した鎧、二本の騎士剣を帯剣している。
だがもっとも印象的なのは圧倒的なまでの殺気だ。
俺の所業を考えれば無理もない、済まないことをした。
よほど重要な話らしく二階を貸切にして話が始まる。
さてようやく本題だ。眼前の騎士が俺の目を見つめながら言った言葉は…
「単刀直入に言う。君が欲しいんだ」
「何ですって!!!!!!!!!!?」
思わず3メートル程後ずさり、剣を構える。
この間、ジャスト一秒。
身の危険に直面した人体はここまでの力を発揮するのかと少し感心。大いに絶望。
「断る!絶対に!!何が有っても!!!たとえ世界が滅びてもォォォォ!!!!!」
「ごっ誤解です!変な意味じゃなくて」
「どんな意味だよ!?」
全身を悪寒が包む…誰か俺を助けてくれ!!!
女は落ち着いてと言ってるが無理だろぅこれは!
「まずはこれを見てください!」
そう言って彼女は懐からなにやら美しい水晶を出した。
「これは?」
俺は彼等との距離(3メートル)を保ったまま問う。
「これは魔水晶と呼ばれる特殊な結晶です。今はただの水晶ですが見てください」
そう言って彼女は両手で水晶を握りこむ。
すると水晶が内側から強く輝きだした。不思議な現象だが…
「これは?」
「この水晶はその者の魔力に呼応して輝くんです
魔力が強ければ強いほど輝きも増し、私たちの組織ではこれを使って…」
解説中済まないと思ったが、このまま流されても困るから言う。
「魔力って何だ?」
当たり前に話されても着いて行けんよ会話に。
「あ!説明してませんでしたっけ!?」
気づけよ…そしてまた脱線警報が…!
「魔力とは…そうですね。
分かりやすく言うなら人智を超えた力でしょうか?」
余計わからん。第一、人智を超えてる時点で分かりやすくないだろう!?
困惑していると痺れを切らしたシリウスが言葉を告げる。
「余計な詮索は要らん。貴様には力がある。
俺達はそういった力のある人材を探していただけだ」
おぉ!なんとも軽快に説明してくれたではないか。ソフィールとは大違いだ。
「まあ何となく話はわかった…だが、アンタらに力を貸して俺に利益なんて」
その先を言う前にラッセルが俺に大きな皮袋を投げ渡す。
(恐る恐る)中をみると、中は金貨で満たされていた。
驚く俺を尻目に彼は言葉を続ける。
「俺たちの所属する組織の規模は絶大だ。当然あらゆる力もな…損は無い筈だ」
成る程、悪くは無い話だ。ラッセル達は更に話続ける。
「君は組織の中で力を伸ばして、組織の為に力を振るえばいい。
危険も伴うが俺たちも支援するからよっぽどの事が無い限り死にはしない」
「話は理解できたようだな。なら聞こう…組織に入るか否か…」
話はわかった。
条件としては破格の良談だ。何やら面白い匂いもする。
だが…今は…
「時間をくれ」
今のままでは行けない。
「いつまでだ?」
「明日の昼、同じ場所で、その時まで時間をくれ」
そう言って金貨を返そうとすると
「そいつは手付け金だ。いい返事待ってるぜ旦那」
「ではまた明日、良いお返事を待ってますね」
「せいぜい悩むんだな…」
そう言って彼等は去って行った。
後に残されたのは金貨と葛藤、そして焦りだった。
(レベッカ……)
会わなければならない。
例えこれが最後だとしても話をしなければならない。
そう決めた俺は教会に向かって走り始めた。
だが…その想いは果たされることが無かった。
俺は気付かなかった…俺の力が何のために存在するのかを…。
そして、俺に何が訪れるのかを…。
酒場を出た後、三人は今日の宿を探しながら話していた。
「奴が仲間になると思うか?」
「なってくれるといいな。あいつは中々面白い男だった。
訓練前でも中々いい動きをしてたしな…ありゃ化けるぜ」
「でも、何か思い悩んでいるようでした。
せめて充分な時間を差し上げるべきだったと思ったのだけど」
心配する彼女にシリウスが告げる。
「それは不可能だ。我々とて時間は無い。
いつ何時奴が目覚めるか知れん今、無為に時間を費やしては………!!!」
「お!?」
「あ…!」
その時、彼等は感じた。
奴では無い…だが奴の尖兵がこの地に群がりつつあることを。
「数は?」
「……十六体!方角は北!」
すぐに臨戦態勢を取る。
彼等は皆、強大な力を持つ優秀な戦士だ。
「住民を南に誘導しろラッセル。俺達は北へ行く」
「了解」
「行くぞ!」
三人は二手に別れ、散った。
三人は組織の中でも特に優秀な精鋭だ。
自分たちなら尖兵など物の数ではない。
だが、ソフィールは一抹の不安を拭えなかった。
(嫌な予感がする?何故?)
これが悲劇の半時前のやり取りだった。
もし、彼等がレックスと同じ方角に歩んでいれば悲劇は避けられた。
だが彼等とレックスは真逆の方角に進んでいた…運命が嘲笑っているかのように。
同時刻、レックスは軽く伸びながら帰途を辿っていた。
「さてと、気は重いけど一発怒鳴られてくるか。せめてこの金ぐらい受け取ってもらっ!!?」
突然、胸が激しく痛んだ。
思わず地面に膝まづくレックス。
今までに無い感覚が体内を巡りだす。
「何だ?この痛み…!?」
頭がガンガンする…まるで割れそうなくらいだ。
意識すらままらなないのに次々と情報が飛び込んでくるようだ。
それがさらに混乱に拍車をかける。
「声?いや鳴声!?獣?いや違う一体っ!!!!?」
遠くで誰かの悲鳴が響いた。
「なっ!?」
悲鳴はどんどん近づいてくる。
「うわぁ!来るな!来るなぁ!!!助がぁっ!」
風上から鼻に衝く臭い…これは血の臭い!!?
悲鳴がすぐそばまで近づいてくる。
とっさに剣を構えるレックス………来る!
次の瞬間、目に入ったのは…首や腕がもげた血まみれの人体と、人肉を貪る『化け物』だった。
一体何が…起きている?
それは肉をもった悪夢だった。
狂気に触れた目、血に飢えた牙。
褐色の肌、身の丈は人よりも一回り小さいが全身を屈強な筋肉が覆う。
その手に握られた手斧は血の色に染まっている。まるで物語に出る小鬼のようだった。
だが、今レックスに対峙する「モノ」は…そんな甘っちょろいモノでは無かった。
「それ」は住民の体を斧で裂くと、実に旨そうに肉を喰らい、血を啜った。
目の前で繰り広げられ人外の食事がレックスの体を恐怖に陥れる。
(何だ・・・これは現実なのか・・・?)
足が震え、瞳孔が開き、全身に「恐怖」という名の麻酔が回っていく。
「動け…!」
必死に動こうとするが体が言うことを聞かない。
獲物を平らげた化け物がレックスに次の狙いを定めた。
「喰われる…!殺される…!!動けよ!動けよ!!!」
だが最早、全身に恐怖が回り指一本動かせない。
諦めかけ、眼前の化け物を見たとき…
「!?」
一つの重要な事実に気付いた。
「奴ら」は北の方角から来た。「北」には何があった?
「教会」だ。
「家族」の居る俺達の「家」だ!
幼い兄弟達が居る場所…守りたい人が居る場所!!
恐怖に支配された肉体が目を覚まし、「化け物」を睨む。
突如生き返ったかのように跳躍する獲物に驚き化け物、それに対して烈火のごとく怒り、剣を握るレックス。
「どけぇぇぇっ!!」
今までのどんな攻撃よりも強い一撃。
一太刀で「化け物」は紅い肉隗と化した。
それはとても人間の力とは思えなかった
レックスは走った。
時折現れる化け物など恐れるに足らない。
行く手を阻むなら斬る。いつもと何一つ変わりはしない。
ただ速く…より速く…!
(間に合え、間に合ってくれ!!!)
それだけを想い、ひたすら駆け抜ける。
(あの角を曲がれば…!)
もう少しで…
(見えたっ!)
視界に広がるは教会。彼が最も見たかった景色。だが、そこには……
「何なんだアレは?」
真の悪夢の扉が待っていた。
「でけぇ…なんだこいつ?」
思わず息を呑んだ。
二階建ての教会に匹敵する巨躯をもつ化け物。
沼のような色の肌、口元から生える巨大な牙、丸太のような強靭な腕。
さっきのゴブリンなんてコレに比べりゃカワイイものだ。
それはその巨大な腕を一振りした。
たった一振り。
それだけで石造りの教会の壁の一部が崩れ落ちた。
視界に入ったのは…
「レベッカ!!?」
自分の最も大切な女性だった。
震える子供達を庇い、落石を受けたのだろう。
彼女の頭からは血が滲み出ている。
化け物は動けないレベッカに汚らわしい腕を伸ばし…次の瞬間
(ブシャアァァ!!!)
その巨大な眼球にレックスの投擲したナイフが突き刺さった。
「うおおぉぉぉっ!!!」
レックスは雄叫びを上げるとあまりにも大きな敵に突撃した。
目を潰され怒る化け物にも怯まず、突っ込む。
恐怖が無いわけではない。
怒りが、そして殺意が全てを呑み込んでいく。
奴の腕を掻い潜り、その膨れた腹に鋼を突き立てる。
激痛と怒りに吼える化け物に躊躇なく飛び掛る。
剣を引き抜くと即座に腕を回避したと同時に今度は化け物のアキレス腱を引き裂く!
死角に廻られた化け物は堪らず膝を尽く。
衝撃に地面が揺れあがるが彼は意にも貸さない。
好機と見ると、今度は背中を駆け上がる。
返り血を全身に浴びながらも戦いに没頭する姿は…まさに殺人鬼そのものだった。
そして頭頂に上がると剣先を後頭部に向け叫んだ。
「ガアアァァァ!!!!」
咆哮一閃。鋼が頭蓋骨を砕き、その先の脳に突き刺さる。
化け物は一際大きな咆哮をあげるが、今のレックスにとってそれは勝利の福音に相違ない。
むしろ凶暴な笑みを浮かべながら、とどめを刺すべく剣を捻った。
脳漿が激しく飛び散り、やがて化け物は鼓動を止めた。
「はぁはぁ…!」
全身で息をするレックス。
体は何処もかしくも悲鳴を上げる。
だが勝ったのだ。
口元が誇らしく歪む。
(やったんだ…守ったんだ…)
家族の無事を確認しようと、レックスは教会の扉を開けた。
幼い兄弟達が泣きついてきた。
「兄ちゃ〜ん!!」
「怖かったよぉ〜!!!」
皆震えているが無理も無い。
幼い彼等には今日の悪夢はさぞ辛いだろう。この先、ずっとトラウマになるかもしれない。
だが、生き抜いた。この悪夢を…。
ふと顔を上げるとレベッカが戸惑いながらも近づいてきた。
「何故助けてくれたの?あんな酷いことを言ったのに…」
「レベッカ…?」
「あなたは悪くなかったのに…私達を守ってくれてたのに…!それなのに私は…私は…!!」
声が震えている。
レックスは迷わず言った。
「家族だから…な。
嫌われたって見放されたって構わない。
俺のかけがいのない家族だから…俺は守るよお前達をさ…」
レベッカの瞳に涙が溢れた。
レックスはそんな彼女の涙を拭おうと手を伸ばす。
その時、悲劇が形を成した。
ガシャアァン!!!
次の瞬間、一階の窓ガラスが数枚砕かれ何かが室内に入り込んできた。
(ゴブリンもどきか?)
レックスは闖入者の影に向け、剣を構える。
だが、その影は今までの敵とは一線を凌駕していた。
ゴブリンもどきやデカブツはどちらかと言うと「獣」の様な外見をしていた。
知能も低く、恐れさえ無ければ斬ることができた。
しかしこの影は違った。
紅い…血のような紅い眼が三つ闇に光る。
耳まで裂けた口には禍々しい牙が並び、涎に濡れて歪に光る。
頭部には武器の役を担うのだろうか?角が二本。
そして全身を鎧のような外殻が覆い、長く強靭な手足と爪を持っていた。
何より目を惹くのは蝙蝠のような大きな翼と鞭のような尻尾。
悪魔…そう呼ぶに相応しい外観の二足歩行の何かが五匹。
凄まじい殺気の伴った眼差しをレックス達に向ける。
レックスは震えをその身に隠しながらも必死に考えた。
(……どうする?)
先程までの戦闘でレックスの体も限界だ…撃退はおそらく不可能。
脱出しようにも狭い室内、子供達とレベッカ…逃げることも叶わない。
だが…俺の後ろには…震える子供達居た。
皆がすがる様な眼で俺を見ている。
そして…誰よりも守りたい人が居る!
恐怖も絶望も振り払い、眼前の悪魔に剣を振るう。
例えこの身が引き裂かれようが…俺の後ろに居る奴等には指一本触れさせるものか!
ガキィン!!!
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
眼前の悪魔は何もしていない。俺の剣は届いた筈だ。
なのに何故、奴は傷一つ付いていない?
もう一度剣を叩き込んだ。
だがやはり奴は無傷だ…馬鹿な?
そして、気付いた。
自分の剣の刀身が無いことに。
「!!!!!!?」
体だけでは無かった。
剣も先程までの戦闘で限界だったのだ。
最後の一撃も悪魔の外殻に阻まれ、そして折れていた。
最早、彼に抗う術は無かった。
悪魔が飛び掛ってくる。
咄嗟に、ナイフを投擲するが虚しく弾かれる。
レベッカの悲鳴と子供の泣き声がやけに遠くで聞こえた。
最後に目に映ったのは…自分を嘲笑うかのような…悪魔の笑みだった。
(ここは何処だ・・・?)
体の感覚が無い。
なんとか首を動かし、自分の体を見渡す。
満身創痍だった。四肢は全て腱を切断されている。感覚が無いのは脳内麻薬の作用だろう。
地獄のような激痛は後からくるのだ。
次に周りを見渡す。
教会の一階にある大広間さっきと変わらない場所だ。
だがおかしい。
さっきまで居たものが欠けている。
子供達の泣き声がしない。レベッカの声も聞こえない。
あの悪魔共はどこにいった?
何故、俺を痛めつけるだけで殺さなかった?
感覚が少しづつ戻る。
まず聴覚。何か聞こえる。
酷く不快な音だ…何だ?これは?
何かが裂かれる音…床に大量の液体が飛び散る音…?咀嚼音?
獣の歓喜に湧くうめき声もする。
もうひとつ…女のうめき声らしきものも聞こえる。
レベッカが生きているのだと分かり、ほっと胸を撫で下ろす。
次に嗅覚が戻る。
大量の血の臭いがする。思わず吐きそうになった。
そして視覚が完全に戻る。
部屋で行われていた全てが把握できた。
全ての疑問が明らかになった。
そして悟った。
俺の全てが壊れされたことを。
子供達は無残な肉隗と化し三匹の悪魔たちがそれを貪る。
レベッカは生きてはいた…だがむしろ死んでいたほうが俺は救われた。
見たくなかった…肉体を悪魔に玩ばされる彼女の姿など。
ようやく分かった。
何故奴らが俺を生かしていたのか。
満身創痍の「雄」になど最初から用は無かったのだ。
悪魔が欲したのは柔らかい肉と成熟した「雌」だったのだ。
肉隗と化した子供達。
こんな場所で…こんな最悪な形で逝ってしまったのか?
レベッカ…愛しいレベッカ。
いつか君と結ばれたいと夢見たのは俺の罪なのか?これはその罰なのか?
苦悶とも恍惚とも取れない表情で呻く君に聞いても…答えが返ってくる筈無いと知っているのに。
その声が…その顔が…俺を絶望の淵に追いやる。
俺が今まで必死に守ったものは何だったのだ?
何だってしてきた。自らを傷つけ、その手を血で汚してでも守った。
無駄だったというのか?こんな簡単に奪われるものなのか?
苦しみ、怨まれ、蔑まれてでも…それでも守ったのに…なのに。
その時だった。
頭の中から声が聞こえたのは。
自分とまったく同じ声。
自分とまったく同じ感情が…聞こえて来た。
声にならない声。
荒れ狂う波のような激情の渦。
でも俺にはその全てが分かった。
その感情の意味するものが手を取るようにわかった。
だって全部俺のことだから。
俺自身のことなんだから…誰よりも俺が一番わかる。
必死に叫んでいる…ただ一つの欲求を。
レベッカも子供達も全て奪われた俺に最後に残った感情の叫び。
震える腕を叱咤して転がっていた剣の柄を握った。
目を閉じる。
自分の中にある黒く、凶暴で、底の見えない感情とそれに合わせて目覚めた力を確認する。
それが今の俺に残された全て。
充分じゃないか…と思わず口元が歪む。
そうだよ。俺には力が有ったんだ。
誰にも癒せない渇きを癒し、誰にも止められなかった衝動を満たしてくれる力が有ったんだ…!
殺してやる…完膚なきまでに斬り殺してやる。
俺から全てを奪った貴様らの報いは…俺のために殺されることじゃないか…。
その考えに至った時のレックスの表情を見たものは誰も居なかった。
その頃シリウスとソフィールは町に蔓延る尖兵達を屠っていた。
悪魔のような外観の化け物も、彼等の前では無力。だが、一般人には恐怖そのものだ。
非難も駆除も思ったように進行できない。
そんな時だった。
「!?」
彼女の懐の「魔水晶」が輝きだした。
とても強大で禍々しい真紅の光…破壊と混沌を現す忌むべきはずの色。
まだ奴は目覚めていない筈…ならば何故こんな光が現れる?
「馬鹿な…一体、誰に!?」
魔水晶が反応を示した方角にあるのは…
「まさか…?」
そのまさかだった。二人の向く先に在った建物は教会。
レックスの居る教会だった。
悪魔たちは突如、欲望を貪ることを中断した。
同じ空間に突如現れた禍々しい殺気に恐怖した。
満身創痍だった筈の男が立ち上がっている。
その全身から真紅の燐光が放たれている。
そしてその男は笑っていた。
快活な笑いとはかけ離れた笑み。
狂気に歪み、憎悪に滾り、悲哀に濡れて、殺意に染まった微笑みだった。
「殺して…やる…」
悪魔の戦闘本能が告げる。
殺される前に殺せと。本能に従い、悪魔は眼前の敵に襲い掛かる。
だが悪魔は気付かなかった。
極限まで増幅されたその敵の力に。
レックスは、黙って折れた剣の切っ先を向ける。
その折れた刀身から紅く燃え盛るものがあった。
次の瞬間、鋼も通さない悪魔の外殻が容易く裂けた。
「!?」
仲間の死に怯み、残る四匹が距離を取る。
その先にあったのは刀身を形成する紅蓮の業火と人の形を成した魔物だった。
魔物がこちらに視線を向ける。
悪魔たちは生まれて初めての戦慄を覚えた。
切り殺した悪魔の亡き柄になおも炎の剣を突き立てるレックス。
その姿は無邪気な子供が動物に残酷な遊びを強要するようにも見え、やり場のない殺意を必死に散らせようとするかのようにも見えた。
レックスは笑っていた。
自分の居場所を奪われ、愛する者を汚され、守ろうとしたものをあっさりと奪われた。
その時精神のタガが外れたのだろう。
その眼はもう何も見えていないように濁りきっていた。
魔物は残忍な笑みを浮かべると近づいてきた。
悪魔達はその時感じたのが何なのか悟った。
戦慄ではなく絶望だったと。
悪魔達は本能で理解した。
この魔物はいずれ自分達の主に刃向かうだろうと。
せめて手傷の一つでも負わせなければ!
四匹の悪魔は、それぞれ別方向から同時に飛び掛った。
その動きは俊敏、薄暗い部屋に鍵爪が光る!
だが魔物とは触れえぬ力の権化。
業火の剣はその姿を長大な紅蓮の鞭に変えて全てを薙ぎ払った。
一匹は業火に焼かれ、また一匹は首を払われ、また一匹は体を真っ二つに裂かれた。
最後の一匹は足を千切られただけで済んだ。
だが、追撃するかのように敵がゆっくりと近づいてくる。
最後に見たのは、自分達など足元にも及ばない絶対的な覇王の姿だった。
レックスと呼ばれていたモノは部屋の隅で蠢く唯一の生存者に気付いた。
全身を先程までの遊び相手に汚された人間の雌の成れの果て。
それは、こちらを見ても明確な意志を示さなかった。
その目には理性の光は無かった。
だが、その目には涙が溢れていた。
ふと何かを感じた。
懐かしさ?優しさ?愛おしさ?温もり?
だがそれらの感情は泡のように弾けてすぐ消えた。
よってレックスの動きは止まらなかった。
その涙の意味も知らないまま…
その想いの意味に気付かぬまま…ソレに剣を振り下ろした。
ソレはいとも容易く砕けた。
自分も涙を流していたのに気付いたのは…その後だった。
教会へと続く道にソフィールはいた。
道には尖兵の僕である獣鬼の死体がいたる所に点在していた。
自分達にとっては吹けば飛ぶような相手だがただの人間の手に負える相手ではない。
それが意味するのはこの先に先程勧誘した彼がいるということ。
ソフィールは走った。
彼女の巫女としての力が告げる。
とてつもなく危険な何かが目覚めると。
(お願い・・・間に合って!)
だが天はその願いを聞き入れてはくれなかった。
その頃、先行していたシリウスは彼女より遥かに速く教会に辿り着いていた。
シリウスの目線の先にあったのは燃え盛る教会を背に笑う覇王の姿だった。
レックスは教会に火をつけた。
何故かそうしないと気がすまなかったからだ。
ふと頭の中を駆け巡ったのは先程斬った成れの果てに対する粛罪と無念。
そしてこの聖域で紡いだ温かな思い出。
ここには自分を必要としてくれる存在があった。
ここには自分が必要としていた存在があった。
そうだ。俺にはこの場所より大切なものなんか無い。
ここさえあれば良かったんだ。
なのに………。
燃え盛る教会を出て、辺りを見渡した。
(俺にはもう何も無い……)
視界に映る広大な世界。しかしそこに自分の場所は見当たらない。
思わず笑いが込み上げてきた。
こんなもの要らない!
行きたい場所なんか無い!!
もう何も見たくない!!!
そうだ…壊してしまおう…。
そうすれば何も見ないで済むじゃないか…。
新たな敵に歓喜して業火はさらに紅く燃えた。
荒れ狂う業火と供にレックスは笑った。
まるで壊れた道化人形のようにケラケラと…世界の全てを呪うかのように笑い続けた。
「何をしている貴様!」
シリウスの呼びかけに彼は何も反応しない。
いや、その口元が歪んだ。
殺意と狂気に…。
目の前に現れた小賢しい的に向かって剣先を向けるレックス。
「!?」
間一髪で回避する。
ついさっきまで立っていた地面が泡を立てている。
(なんて威力だ。喰らえば一瞬で蒸発するだろう…)
眼前で笑う魔物は先程会話した男と顔こそ同じだがまるで違う存在だ。
その身に纏う殺気は、とても人間のものではない。
人の皮を被った正真正銘の魔物だ。
…面白い!
シリウスの中の戦士としての本能が強大な敵の出現に歓喜の声を上げる。
幸いソフィールはまだここには来ていない。
ここにいるのは己と敵のみ。
ラッセルが大物と認める程の稀有な人材だったが…今の自分には関係ない!あれは敵だ!
双剣を引き抜く。
体をやや斜めにし、前面で腕を交差させる独特の構え。
「俺を殺したいのだろぅ?
いいだろう、殺せるものならなぁ…!」
端正な口元が荒々しく歪む。
「さぁ、殺し合おう」
目の前の的が何を言っているのかレックスは知性ではなく本能で理解した。
いいだろぅ…殺してやる!!!
業火の大剣を構え、突っ込む。
斬るために!殺すために!殺し合うために!
二人は笑っていた。
心から楽しくて仕方ないと言わんばかりに。
「ハァァァッ!!!」
「ザァァァッ!!!」
双方は神速のスピードでぶつかり合った。
あまりの衝撃に大地をも震え上がらせ、その火花は辺りから影を一掃した。
そこに人間など存在していない。
戦場に修羅と覇王の狂宴の調べが響いた。
「これは・・・?」
彼女が教会に辿り着いた時、狂宴はその勢いをさらに増していた。
シリウスの双剣には深淵の闇が纏われ、レックスの業火はその温度をさらに増した。
二人の剣に触れたものは腐り、あるいは瞬時に溶けた。
極限まで増幅した魔力が物質に与える影響は深刻。
二人はまだ深刻なダメージは受けていない。
だがこのままでは遅かれ早かれどちらか或いは両者が致命傷を受けることは避けられない。
そんな彼女の心境など露ほども知らず二人は闘い続けた。
(止めなければ…!)
ソフィールは静かに目を閉じると力を解き放つための祈りを始めた。
シリウスは大地を、壁を蹴って飛んだ。
何度も小刻みに飛び、やがて敵の頭上を取った!
「ッハアアァ!!」
氣を込め双剣を振るい、剣圧が影を伴って飛ぶ。
だがその一撃も大地に深い傷跡をつけただけで標的に傷一つつけられなかった。
先程から自分の攻撃は一度も敵を捉えていない。
組織でも指折りの実力を誇る自分の剣が…だ。
驚愕と共に身の毛もよだつ歓喜が全身に巡る。
面白い!
まさかここまで楽しめるとは!!
最早出し惜しみする必要は皆無。
シリウスは自分の力の本質を解放した。
目の前の強敵に自分の全てをぶつける為に…。
先程までの戦闘で彼等が使っていた力は自らの肉体や武器に魔力を纏わせ強化する術。
組織では魔力付加と呼ぶものだった。
これを使いこなすだけでその戦闘力は数倍に跳ね上がる。
レックスは無意識のうちにこれを使いこなしていた。
四肢の腱を切られた彼が鬼神の如き動きを見せたのも切断された腱の代わりに魔力がその働きを担ったからだ。
だがシリウスにはその先があった。
レックスには無く自分だけが知る力。
拝ませてやる…本当の力を!実力の差を!
シリウスの額が突如輝きだした。
何らかの象形文字らしきものが見える。
その光に呼応するかのように、その手に握る剣がゆっくりと姿を変えた。
獲物の喉笛を噛み千切ろうとする大蛇の如く…。
(・・・何だあれは?)
レックスはその光景に若干の畏怖を覚えた。
先程まで剣の形状をしていた物体が漆黒の鎖に刃をつけたような禍々しい形状になっている。
まるで意志を備えているかのように撓り、蠢いている。
「貴様の力に敬意を示し俺の力を見せてやる。
あの世で誇るがいい。
数え切れない戦いの中で!敵の中で!
この俺を本気にさせられたのは貴様で三人目だっ!!!」
次の瞬間、主の意志に呼応するが如く黒き凶刃が大地を駆った。
「!?」
間一髪で回避するが避け切れなかった。
刃はレックスの頬に一筋の傷をつけた。
速い!
先程の剣戟でもここまでの速さは無かった。
覇王に修羅の刃が襲い掛かった。
襲い来る二本の刃を回避し時に弾く。
だが時が経つにつれて体に傷跡が増えていく。このままではいずれ急所を射抜かれるだろぅ。
それ程までにシリウスの力は凄まじかった。
シリウスは先程から動きを見せていない。
だがその剣は主の意志を示すが如くどこまでも伸び、撓り襲い掛かる!
まるで二体の黒い大蛇と剣を交えているようなものだった。
シリウス本人を斬ろうと炎の鞭を奔らせたがやはり大蛇がそれを阻んだ。
まさに変幻自在。
押せば引き。引けば押してくる掴み所のない剣筋。
襲い来る凶刃がレックスの右足に突き刺さった。
「がああぁ・・・!」
激痛に怯んだ刹那またも大蛇が牙を剥く!
敵に止めを刺すために…!
バランスを崩された体勢。方向転換できない空中。止めを刺すべく標的の周りを檻の如く覆う凶刃。
「殺った!」
シリウスは確信した。
だが…
「!?」
シリウスはその目を疑った。
今まさに追い詰めた筈の敵は笑っていた。
「馬鹿な…何故笑う?
逃げ場も…策も無い筈だ!?何故笑っていられる!?」
そして黒き檻がレックスを閉じ込めた……刹那、
バアアァン!!!
それは爆音と共に弾け飛んだ。
「何っ!?」
(まさか狙っていたのか!?)
変幻自在の凶刃、破壊するために最も合理的なのはそれを固定させること。
あの一瞬、確かに剣は檻の形状に固定されていた。
だがありえない!
あの極限の状況下、命が散る寸前に!
自分の周りに展開された死に怯まず、臆せず歯向かうことなど人間には…!
そこでようやくシリウスは思い出した。
自分が闘っていたのは弱い人間では無かった。
全てを蹂躙し全てを破壊するもの、覇王のごとき鬼神だったと。
覇王が再び大地に降り立った。
全身はシリウスの攻撃でズタズタに傷ついている。
だがそれでも笑っていた。
戦を、血を好むのはなにも修羅だけでは無い。
覇王もまた何よりも混沌を愛でるもの。
最早勝負は尽いた。
シリウスの剣は砕けたがレックスの業火は健在。
自分を楽しませてくれた敵に最大の愛と敬意を込め、止めを刺すべく剣を握る。
だがその切っ先が敵に届くまえに覇王に蒼き龍が襲い掛かった。
それはソフィールの力だった。
彼女の力の内の一つ召喚。
シリウスの力のように即座に展開することは不可能。
だがリスクを伴う分その威力は絶大。
彼女は、その力でこの地に満ちた水の息吹を呼び覚まし龍の姿と力を授ける代わりにそれを使役した。
シリウスの鎖刀よりも遥かに長大な蒼き龍神が覇王に挑みかかる!
レックスは突如現れた邪魔者を屠るべく剣を振るう。
だが今のレックスにはその龍を消す力が無かった。
術の格そして何より属性が不利なのだ。
召喚は数ある力の中でも最高峰の力。比べて魔力付加は低級術に過ぎない。
さらに属性五行の相対関係。
レックスの炎は水に打ち負ける。
蒼き龍はその息吹で業火を掻き消すとその身を覇王に巻き付ける。
「ぐああああぁぁぁっ・・・!」
全身にかかる水圧と魔力がレックスの体から力を奪う。
全身の傷口から凄まじいまでの激痛が奔る。
やがて腱の働きを担っていた魔力が途切れるとレックスはその激痛に気を失った。
(レべッカ……)
気を失う刹那、彼の目には涙が浮かんでいた。
彼が気を失ったと感じるとソフィールが呼び出した水龍は消えた。
「これは・・・?まさかそいつが?」
尖兵の駆除を終えたラッセルは周りの破壊痕を見渡し、驚きを隠せなかった。
力が有ったとは言え、訓練も受けていない人間が尖兵を屠りさらにはシリウスとまで渡り合ったのだ。
ラッセルはレックスの潜在能力の高さに改めて驚いた。
この男ならいずれは奴に匹敵するほどの力を、それどころか凌駕することも出来るだろう。
だがその力はあまりにも強くそして何より人間が扱うには残酷すぎた。
正に両刃の剣。
下手すれば第二の奴になりかねない強大な力。
二人はレックスを組織に連れ帰ることに決めた。
一度力を認識すればもう表の世界で平和に生きることは叶わない。
必ず戦いに巻き込まれる。
ならばせめて同じ力を持つもの同士で協力し、同じ目的のためにその力を振るって欲しい。
それが今の自分達に出来る最善の選択だった。
ラッセルは部下達にシリウスを任せ、自分はレックスをその背に担ぎ歩き出した。
道中レックスは一度も目を覚まさなかった。
まるで目覚めることを拒むかのように。
作者の都合や感情の問題で更新が遅くなることもありますが、必ず最後まで書き切る決意を持っています。
どうか皆様この未熟者の行く末を見守ってください。
また私個人は小説描きとしてまだまだ未熟者です。これからの発展のために、是非皆さんの感想をお聞きしたいと思います。どうかご協力をお願いします。