閉じ込められた青春 1-3
2-3
二階堂琥珀は今日の朝に起こされて連れていかれた。相変わらず、こちらを人間扱いすらしないような一方的な態度に二階堂は心底イラついていた。
その途中で太陽を見た。
「(お日さんを拝むのは40日・・・960時間ぶりになる。)」
強烈な日差しに手をかざす。それでも太陽の生命のシャワーを二階堂はしっかりと取り込んでいた。
「(・・・・太陽は全てを白日の元に晒す。)」
二階堂は四階の窓からヒューマンスクールの全景を見下ろした。
初日のことで教師陣は二階堂にかなりのマークをしていた。今日はほとんど従順な態度を二階堂は演じて見せた。二階堂の模範的な態度には多くの教師たちが気を緩めたようだった。
「(昨日の騒動を知るのは田淵、そして仲山、菅野、か。)」
二階堂は昨日の講義室で最初に反論した時にいた教師の名前が教師たちから聞き出せた。
「(こいつらにはマークされてるだろうな。俺はここから脱出する。脱出するが、その前にやらなきゃならないことがある。)」
教室に連れていかれた。生徒達はばらばらに席に座っていた。男子同士。女子同士で固まっていた傾向があった。生徒達はみんな不安そうだった。
「なあ。二人ともここに連れてこられたのか?」
二階堂琥珀は男子に聞いた。
「・・・君は?昨日いなかったけど・・・・」
「うわっ。・・・なんだよお前その怪我・・どうしたんだよ。どんな事故に?」
「いや、事故じゃない。これはあいつらにやられたんだ。」
それを聞き2人はサッと青ざめた。
「そんな・・・・冗談っしょ?」
笑いながら琥珀にそう言う。だが二階堂は真剣な顔を破顔して笑い出したりはしなかった。依然として真剣な顔をしていただけだった。
「なんだよ・・・・なんなんだよそれ・・・!俺をどうする気なんだよ!」
「さァな。教育するとか言っていたが。やり口が洗脳施設の方法ばかりだ。みんなはここに来てから日が浅いんだろ?」
「なんでそれが分かったんだ?」
「洗脳されてないからだ。洗脳されていればあいつらに対してすっかり信じ込むようになっている。」
そこにいる人々はさらに絶望した顔になった。
「嫌だ・・・・・帰りたい。もう嫌だ・・・ここから出して・・・・うちに帰りたい・・・」
肌の白い男が言った。いきなりこんなわけのわからないままに連れてこられて、二階堂程じゃないにしろ、ここにいる生徒達は何かしらの圧力を受け恐怖を刻み込まれたようだった。
ざわざわとささやきあったりしている人々。誰の顔にも恐怖が浮かび上がっていた。この人々は全員が汚い服に着替えさせられたようだった。誰も彼も自分の身に起きていることが信じられないようで、何が起きているのかもよくわかっていないようだった。さっきから俯いている白い顔の男は小松と言うらしい。
「俺達はどうやらとんでもないところに来てしまったらしい。」
二階堂が言った。
目の前の二人はとても疲れきっていた。疲れきっているだけではなく、もうなんらかの精神攻撃を受けているようだった。
二階堂も二階堂で監禁の疲労がまだほとんど取れていなかった。
「お前らは?あいつらに何をされたんだ?」
「ぁあ・・・・俺達は持ってきたもの全部とられた。全部。俺の大切なものとかあったんだ。でもどんだけお願いしても没収された。一時預かりとか言われて・・・一時預かり?ってことはすぐに返されると思って先生達に質問したんだ。そしたら・・・俺達が真人間になるまでは返せないとか何とか言われて・・・」
「たぶんもう二度と返って来ない。」
二階堂のその言葉に志間と小松だけでなく、その部屋にいる人間全員がざわついた。
「な・・・・なんでだよ!先生方は言ったぞ!俺達はいけない人間だから更生すれば返してくれるって。」
「洗脳施設の薄汚いやり口さ・・・・。俺達の全てをまっさらにするために、自分たちの全てに関わってきた、物は全て捨てるつもりだ。そうすることで自分達に都合の良い人間を作り上げるつもりだ。だから・・・あいつらは間違っても返したりはしない・・・!」
二階堂琥珀は嫌悪感を隠すことなく吐き捨てるように言った。たちまちみんなが口々に喚き出した。
「嘘でしょ!こんな時にそんな冗談言わないでよ!不謹慎ね!」
二階堂は詰めかける人々に自分がされたことを言った。
「冗談じゃない。本当のことだ。この傷も本当にあいつらにやられた。しかもあいつらの一方的すぎる意見に反論しただけで40日も暗い独房に閉じ込められた。あいつらはどうやら狂ってるみたいだ。」
更なる驚くべき事実に今度は全員黙った。誰もがその事実を受け入れられずにいた。
「もういやだ・・・・こんなところだと分かってたら・・・あの人達なんなんだ・・」
「ここは一体どこなんだ?分かるんなら教えてくれ。」
二階堂はそう、聞いた。
「そう。何も難しいことじゃないここがやっていることは監禁罪をはじめ、法律に違反することばかりなんだ。それをどうにかして外に知らせるだけでいい。」
「そ、それはできないよ・・・・」
「何故?今の世論でもちゃんと動くぞ。あいつらが社会が許さないとか、他のところも全部そうだって言うがそれは嘘だ。そうやって助けは来ないと思いこまされたり、疑う気持ちを無くさせ、無理やり納得させ人を支配しているんだ。」
「だってここにはこの島以外何もないんだから・・・・・警察なんてないんだ。」
「え?」
二階堂は絶句した。
「ここはあの世なんだ。俺達みんな死んでからここに来たんだ。あの人達は自分達のことを神や天使の教えを広める宣教師なんだって。」
「君、死んだこと覚えてないの?」
「・・・・・記憶にない。いや、そんな事あるわけがない。俺はただ電車に乗ってここまで来たんだ。」
「そんなことはそう思い込まされたんじゃないのか。それも洗脳だろう。」
「でもスゲーリアルに痛かったよ。俺自動車に撥ねられたんだけど・・・・」
「(馬鹿な・・・・・こんなのは記憶の刷り込み・・・だが・・・)」
二階堂の脳裏あるのはもう四十一日前の電車が海の上を走るというあの荒唐無稽の出来事だった。どこまでも人というものの基盤を揺らすのが洗脳施設の常套手段である。