二階堂琥珀 1-3
1-3
二階堂が飛び起きた時、薄暗い明るさが目に付いた。頭がズキズキした。黄色の明かりが1つしかない部屋に二階堂琥珀はいた。
この部屋にはベッドがなく、冷たい金網の上に琥珀は寝かされていた。
「(ふざけやがって。)」
当然ドアは開かなかった。
衝動的に蹴飛ばした。が、しかし開くことは無かった。
「(体力を温存しよう。冷静にならなければ・・・・)」
「(ここは頭のおかしなやつらの巣窟だったってわけか・・・何とか隙をついて脱出したいが、問題はここが半島なのか、島なのかという所だな。)」
陸地続きなら、徒歩で逃走できるが、ここが島になっているのなら当然海を渡る手段がいる。
「(ふ・・・・・馬鹿な。ここのやっていることは憲法にも法律にもモラルにも反している。警察や世論に公開するだけで機能停止に追い込んで俺は助かる。)」
「(とはいえ。)」
「(情報を集めるのが先決だ。)」
彼は服をダボダボのボロい制服に着替えさせられていた。これは先程の生徒達が着ていたようなボロだった。勝手に脱がされるというその過程を想像すると気持ちが悪い。一刻も早く脱ぎ捨てたかった。
不意にブチッというテレビ特有の耳に聞こえるような肌に聞こえるような音がした。それはやはり映像が映し出される音だった。
ガラス張りの向こうに巨大なテレビが設置されていた。不健康そうな光を二階堂琥珀に浴びせる。
「やぁ・・・気分はどうだね?少しは反省したかな?」
「・・・・・・」
「(監視カメラでこっちの様子を見てたな。)」
「勘違いしないでもらいたいんだが、俺達は君の為を思ってやっているんだ。」
「俺のため?」
「そう。お前を立派な社会人に、真人間にするために我々が心を鬼にしてやってるんだよ。」
「馬鹿いえ。いきなり電気警棒で襲いかかってきて真人間になるってか?。ふざけるな。」
彼がそう言うと田淵は心底こっちを哀れんだ呆れた顔をした。画面の中の巨大な顔はさらに無視して続けた。
「とんでもない問題児だなぁ。それから敬語。目上の人には敬語を使うという守るべき社会の、人としての最低限のルールを教えてもらわなかったのか?それとも、そんなルールなの自分には適用外だと思ってるのか?ああ・・・・・なんて傲岸不遜。身の程知らず。敬語を使わないなんて今までは許されたようだが、社会は許さんぞ。」
巨大なボリュームで、二階堂に語る田淵。だが、二階堂は普通の少年ではなかった。
「あんたらが敬語を俺に使うと言うのなら敬意とやらを表して俺も敬語を使おう。だが俺達にだけそれをすることを強要するのならそれは、敬意や尊敬を強要するということだ。そういった支配体制は人を奴隷にする。あの教室の彼らみたいにな。強要されて使う敬語はゴミにも劣る価値だ。その時敬語はへりくだり語になる。」
「尊敬するかどうかはこっちが決めるんだ!!」
一瞬何かを考えるかのような素振りを田淵はした。
「あぁ~~~そうかそうか。お前は歪んでいる。人の道から外れている。こんな子供を世の中に放つわけにはいかないなぁ。世の中の迷惑になる。」
無表情で琥珀の言葉を聞いていたかと思うと間髪入れず話し始めた。画面の中の馬鹿でかい顔と音量調節の狂った声が部屋全体を振動させ琥珀に襲いかかる。
「うぅぅぅぅんん。これは俺が許してもこの社会が許さないなぁ。お前はそこでしばらく反省しろ。」
「しばらく」という所に力を入れて糞デブイカレ野郎が喋ってから画面が消えた。琥珀はゴミカス害虫達が支配する学園構造について考えた。
「(まだまだこんなものではないだろうな。あの怯えきって心を失ったみたいな生徒達。あいつらはここで変なことをさせられてああなったんだ。)」
電気警棒でうち吸えられた頭がズキズキと痛んだ。その痛みは消えることなく続いた。
「(クソ・・・・・・あいつら絶対許さん。)」
琥珀は胸の中で復讐を誓った。