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学校を壊そう!!  作者: アルリア
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極光1-3

 目的を果たしたからか、二階堂や、美濃はそれから何か彼らを動かしていたエネルギーの源が消え去ったようだった。新しい、自分達にふさわしい、支配を脱した証の建物を建てるということはALFメンバーの間で語られていた夢だったので、その夢の実現のため、皆は今瓦礫の片付けから始めている。

 もちろん二階堂や、美濃も参加し、指揮をしている。


 夜、瓦礫のから引っ張りだした毛布などをしいて寝る子供たち。火にあたりながら二階堂はその揺れる火を見ていた。

 美濃は二階堂に話しかける。


「これは話し合ってないけど高市や、みんなの墓標を立ててやりたいな。」


「そうだな。」


 二階堂は賛成した。


「俺達で、埋葬してやらないと。」


 ヒューマンスクールのために多くの犠牲になった人たち。


「なぁ二階堂。これからお前はどうするんだ?」


 パチリ、と火が弾ける音がする。


「俺は・・・まだここに残ろうと思う。なんだかんだでみんなこれからどうしていいのか。洗脳から解き放たれたはいいものの、どうしたらいいか分かってない。その手伝いをしなきゃな。」


「(本当はめちゃくちゃ世界を見て回りたいくせに。)」


 美濃は思った。


「俺は外の世界に行くよ。」


 火に枝を差し入れる。その顔は決意をはらんだ確かなものだった。


「そうか。やっぱり行くのか。」


 美濃は前々から島の外に出たいと言っていた。折に触れて、ぽつりと言うだけだったが。


「すぐに追いつくさ。」


「猛スピードで駆け抜けるつもりだからなぁ。俺の速さに追いつけるかな?」


 おどけた挑発だ。


「ぬかせ。」


 二人は笑いあった。


「ただ・・・もう少し準備に時間がかかりそうだ。」


 ごろんと寝っ転がる美濃。夜空には星が散りばめられている。


「(あの空からこの地上はどんな風に見えるのだろうか。)」


 美濃は思っていた。


「つーか長かったな・・・・」


 美濃が口を開く。この火の周りには柚子葉や大澤がやってきた。もう隠れるようにして彼等が会う必要などどこにもない。


「そうね・・・・長かったわ。」


 押収されていた服を取り戻して着ている柚子葉。永劫のようにヒューマンスクールに縛られていた。その苦しみの時間。自分たちが奪われた、二度と帰ってこない時間。


「美濃君・・・外の世界に行くんだってね。」


「ああ。」


「怖くないの?」


 大澤は言った。


「いや・・・こっ・・・怖くねぇし・・!!」


 そんなおどけるように言った。皆が笑った。美濃と言う男は自信さえ取り戻せれば、自分を見失うことのない人間だった。


「たしかに何があるか分かんねぇけど・・わくわくするぜ。島の外に行くってのは。」


「(生きている証を求め続けるつもりなのか。美濃らしい。)」


 上半身には白タンクトップだけを着ている美濃を二階堂は目に焼き付けるように見ていた。

 寝転がると夜空には満点の星が輝いていた。


「いろんなものを見て、いろんなやつと会っていろんな喧嘩をして、いろんな女と恋する。」


 二階堂達は話に耳を傾ける。満点の星空にはいくつもの星が煌めいている。美濃がエネルギーを燃やしながら、世界を旅しているところが想像できた。


「ああ・・・それは楽しそうだな。」


 二階堂は言った。


 この島は今完全に自由な区域なのだ。あらゆる大人の支配から逃れてる。ピーターパンの王国のようだった。あらゆる法からも逃れている。


  「ありがとう。」


 その言葉をかけられた時、二階堂はぎくっとした顔になった。目の前には本当に感謝しているようにこちらを見る少女がいた。この少女の年齢は分からない。田中くんと同じくらいだろうか。ということを二階堂は考えた。


「私達を助けてくれて、本当にありがとう。」


 その少女は二階堂を尊敬しているかのような眼差しで診ている。


「たった一人ではじめたんですよね。圧倒的に強い支配体制にずっと戦って戦って、そしてとうとう勝っちゃった。私達皆を救うために。」


 二階堂の方が上背は高かったので、小柄な少女は二階堂を仰ぎ見ている。


「ずっと・・・・生きづらかったんです。あんな気持ちがずっと続くんだって思ってました。でもあなたが教えてくれたんです。これからは私が誇れる私になります。」


「もう、誰にも変えさせません。私は私です。」


「俺の方こそ・・・ありがとう。」


 二階堂はそう言った。


「君がそう言ってくれるなら、やってよかったよ。」


 そう言って二階堂が笑うと女の子は恐縮するように笑う。


「あ、あの、その二階堂さんの・・・・・そ、そのボタンをもらえませんか?」


 顔を真っ赤にしながらしどろもどろに話す目の前の女の子。弱々しく言ったが、言葉尻は勇気がたっぷり詰まった、心地いいきりだった。生命の輝きに満ちた宝石のような瞳が二階堂を見つめる。


 顔を真っ赤にして二階堂の言葉を待っている。

 二階堂はどこかキョトンとしていた。そしてあたりを見渡した。


「お前に言われてるんだよ。」


 二階堂がおどけながら突っ込みを入れる。


 二階堂はよく分からなかった。目の前の女の子が自分のボタンを欲しがることも、気持ちがよくわからない。


「(後で美濃に聞こう。)」


「しかし、こんなボロの服のボタンなんか欲しいのか?これは支配の象徴なのに。こんなもの燃やしてしまおうつもりだったんだけど。」


 二階堂に疑問にその女の子が答えた。


「もちろんそうです。でも私は、思い出が欲しいんです。それは私にとってたぶん二階堂さんが思っているのと絶対値で言うとマイナス1000からプラス1000くらいの差があるんです。」


「??・・・・欲しいのなら上げるよ。」


 二階堂はボタンをちぎって渡した。その女の子は大事に、宝物を扱うように大事にハンカチにしまい込んで、駆けて行った。


「良かったなぁこのモテ男。」


 うししと笑いながら美濃が二階堂の肩をバンバンと叩く。


「うっせ。」


 なんとなく美濃のそれにイラッときてお尻にタイキックをした。もちろん、手加減してだが。


 二人は笑いあった。


「なぁ、朝日を見に行こうぜ。」


 二階堂のこの意見にはみんな賛成だった。数人で浜辺に行く。騒ぎから離れ、四人は歩道を歩いて行った。騒がしい大きな音が離れ、夜の静寂が四人を迎え入れる。四人のシルエットが星空の下動いていた。四人は楽しく話しながら歩いて浜辺に向かった。


 浜辺に着くと柚子葉や二階堂、美濃、大澤は砂浜を笑いながら駆けた。

  空が白んできた。島側では鳩が鳴いている。遠くではまだ俺達の赤い炎の灯りが灯っているのが分かる。この赤い空が俺等の居場所である証拠なんだ。そういつでも心安らぐ新しい居場所となるんだ。俺達の勝利の証の音が聞こえる。気温が低くなり、涼しい風が体を通り抜けるように吹き抜ける。ザァ、と風が草を薙ぐ。

 朝日が昇る。それは、その風景は何よりも美しく、みんなの心を打った。波が海岸線に打ち付ける。この場所までたどり着けた。あの桟橋の向こうまで。振り向けばそこには流れる生命があった。同じ未来を信じている仲間達。そこにあるもの全てが美しく、力強く、愛おしく、自分たちの存在を受け入れ、称えていた。大地が、海が、どこまでも続く天井線がとてつもなく綺麗だった。吹き抜ける風はいつでも二階堂達を優しく撫でる。


 二階堂が静かに身をよじらせた。

 二、三言つぶやきながらくくくと笑う二階堂琥珀。そしてけらけらと笑い出す。


  「どこが地獄なんだ・・・・どこが・・・・」


 誰に向かって言った言葉なんだろうか。笑っているのにとても、とても哀しそうだった。その顔は悔しそうにも、可笑しそうにも、哀しそうにも見える。

 その様子を見ていた大澤。何故笑うのか分かるような分からないような気がした。無邪気な子供のような顔だと思った。そしてそれはどこか狂気を孕んでいるように見えて、どこか哀く見えた。何も彼らのことを知らない、彼らの背景を、それらすべてを知らない人が見たら普通の少年がよく笑うように、笑っているように見えただろう。彼はかつて地獄だと言って、この世界から永久に去った仲間を心の中で悼んでいるのだった。


「二階堂。」


 美濃が指を自分の顔に向けて指す。表情は美濃にしては真面目な顔だった。


 二階堂琥珀が指で顔を触ると、そこには涙がついている。彼は今気がついたような顔をした。


 ここは地獄などではなかったのだ。狂った大人がここを地獄に変えていたのだった。本当は地獄ではなかったんだ。でももう間に合わないんだ。多くの魂はこの美しさを知ることもなく逝ってしまったのだ。それが悔しくて悔しくてたまらないのだ。


 二階堂はもう笑っていなかった。顔を歪め、泣いていた。二階堂は泣き崩れた。


 柚子葉が耐えきれないように二階堂琥珀を抱きしめた。この何もかもを背負って闘った勇者を抱きしめたのだった。






 そして、時が立った。

 ある青空が晴れ渡る日のこと。

 二階堂が草原に背を下ろす。頬を心地よい風がなでる。蒼穹の天を仰いでいた。気温も風も、全てが祝福しているようだった。穏やかなその風景の中に寝転がっている。草の地面の上に寝転がるということは初めてやったが、この島なら柔らかい草が背を包み込むようにして支えてくれる。大地を背にすることがこんな落ち着くことだったとは。ぽかぽかとしたお日様が降り注いでいる。あたりでは鳥たちが餌を求めてこの平安のなか囀っている。全てが調和の中に休んでいた。

 二階堂は横を向いて草の上に同じく寝転がる柚子葉をみた。草のくすぐったさなのか、くすぐったい感情が芽吹いたままだ。柚子葉がくすくす笑うから、二階堂も息を吐くようにウ行の発音とア行の発音で笑った。彼はまだ自然に笑うことは難しい。手を口元に招いて柚子葉が笑っている。眉頭を上げたくすくす笑い。お日様に照らされた柚子葉はまるでアテネのように美しく、綺麗だった。そう、彼女がいれば。彼女と彼の仲間達さえいれば。二階堂はすぐに笑えるようになる。

 そうしていると遠くから賑やかな声が聞こえてくる。その声達に二階堂は身を起こし、笑顔で迎えた。


 《終わり》

これにて二階堂達のお話は終わりです。

いかがでしたでしょうか。このお話でしか感じられないものを感じてくださっていたら幸いです。是非是非感想お送りください、筆者は喜びます。


次は上妻渉という少年のお話をお届けします。

(12/27投稿予定日)

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