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学校を壊そう!!  作者: アルリア
18/21

反乱1-3

「誰も死ぬな!!」


 二階堂琥珀は叫んだ。


 それを聞いて、大澤は思っていた。物が飛び交う。


「(そうだ・・・・冷酷なだけのやつではないんだ。二階堂くんは・・・)」


 その時底知れない感情が溢れてきた。


「(ありがとう。)」


 あんなに威張り散らした憮然とした態度で人に対して幅を聞かせていた奴らが、あわてふためいて逃げている。


 二階堂琥珀の目の前に宣教師の一人がいた。歳は滝川重治。53歳。自分のやり方が絶対に正しいと信じて疑わない。それを生徒に押し付ける。少しでもは叛意が見えようものなら大勢の前でその生徒を辱めた。うんざりすることにヒューマンスクールの宣教師はそういうことに長けた人間ばかりがいた。ねちねちとした人格否定を繰り返す。最低の宣教師の一人。自分より立場が上の人間にはペコペコし、自分より立場がしたのものには酷すぎる行為をしていた。しかも気の弱い生徒だけにするのである。ビロウが引く、それでいて気の弱い生徒にとって中山と同じくらい最低の人間だった。


 その初老の男の胸に二階堂琥珀は掌を押し当て、ぐいっと薙ぎ、壁に叩きつけた。先頭の二階堂はこの小物に目もくれず、一瞥すらせず、次の目標物に向かう。


「滝川重治!捕まってもらおう!」


 生徒達が叫び、滝川を押さえつけ腕の手首を縛り、体を縛る。何重にもロープで縛った。


「こ、こんなことをしてただで済むと思ってるのか!今離すならまだ酌量の余地があるぞ!」


 滝川が言う。そこで二階堂は早足で歩き去ろうとした体をぴたっと止めた。振り返る。


「お前、こんなもので終わったと思うなよ。お前を憎んでいる生徒に、お前をどうするか決めてもらうんだ。お前がどれだけ多くの人間を苦しめたのかじきにわかる。」


 二階堂琥珀は冷たく言い放った。滝川は二階堂の目に氷のような冷たさを見て震えた。


「(モンスター・・・だ。こ・・この生徒はモンスターだ。)」


 宣教師は全員グラウンドの隅に集められた。


「みんな!この戦い!俺達の勝ちだ!!」


 二階堂が宣言した。途端にうおおおおおおおおという人々の歓声が上がる。本当に自分自身のことを認められているのだ。自分自身の勝利。勝ちという言葉はヒューマンスクールの生徒達には新鮮だった。二階堂の言う言葉や、行動、彼の人間性全てがヒューマンスクールの生徒にとっては新鮮な響きや、衝撃、そして柔らかな音色の感覚などを与えた。およそ三ヶ月たらずでここまでのことをやってのけ、こんなに多くの人間に多くの影響を与える。輝かずにはいられない惑星のような、彼はまるで核融合で自熱する太陽のようだった。全てのものをその巨大な引力で引き付ける重力。強くて、そして広い。金剛石のような硬さも持っているのに、真ん丸な柔らかさも持っている。時に冷静。時に豪快。彼を見る人間は二階堂琥珀一人で、なんでも出来てしまうと思ってしまいがちなほどだ。


「皆よくやってくれた。ここにはヒューマンスクールの生徒全員が揃っているが、揃っていない、何故ならヒューマンスクールに殺された生徒はこの場のに集まれないからだ!!彼らの無念を!今日この時に晴らす!そうでなくては・・・・そうでなくては何がなんだか分からないではないか・・!そうでなくては・・・正義というものはどこにあるのだ!」


「田淵・・・・。」


 二階堂琥珀が宣教師に一歩一歩近づいてゆく。宣教師はその様子に恐怖した。死神が近づいてくるようにでも見えた。滝川がその時に裏返った車のブレーキ音のような甲高い悲鳴を出した。


「だ・・・・だから言ったんだぁ!二階堂は危険だって言ったじゃないですか!僕は言ったじゃないですか!田淵理事長!この馬鹿!ぼ、僕の言うことを無視するからこうなったんだ!あんたのせいだ!」


「お・・俺のせいじゃない!そう!これはみんなにも責任がある。だからあれほど正しい教育をしなければならんと言っていたのに、お前らはまったく無能だから、こんなことになるんだ!この無能共が!」


「私に責任はない!そう!お前らの方に問題があるんだろ。他の宣教師にお前らが腹を立てたのも分かる。しかし、私達が正しく導いてやっているというのにお前らときたら!」


 この田淵の意見に、しかし、宣教師たちは団結することはなかった。


「理事長!あんたのせいだぁ!」


「責任はあんたにあるでしょう!」


「田淵理事長!どう責任をとるんですか!」


 醜い責任の擦り付けが繰り広げられていた。


 生徒達はもう教師が何を言っているのか分からなかった。ただこれ以上もう、見たくないという想いを生徒の中の少なくない者がその心に抱いていた。狂った田淵の弁明。それらの言葉は生徒達の心のどこを探しても、受け入れる場所などありはしなかった。


「黙れ!!」


 二階堂が無様に責任をなすりつけ合う宣教師達を一刀に断ずる。


「二階堂くぅん。ぼ、僕はいったんだ。君は高ビロウのを与えられるにふさわしい生徒だって。でも他の宣教師が邪魔をしたんだ。こいつらって信じられないくらいの馬鹿だよね、・・・・・・ほら。僕だけは助けてくれないかなぁ。」


 などと言う滝川。


 その様子にみんなが返答した。怒声が地球の底から噴出するマグマのように吹き出した。まるで大地が揺れているかのようだ。


「ふざけんなぁあああ!!」


「お前らが何人の人生をむちゃくちゃにしてきたと思ってんだあああああ!!」


「お前らが死んでも、お前らが殺した生徒達は戻ってこないんだよ!」


「お前らみたいなやつに俺等は・・・・・絶対許せねぇ!!」


「責任をとれ!あんたらが何十年もやってきたことのな!」


 これがヒューマンスクールが何十年にも渡って行なってきたことの結果だ。





 


  田淵宣之は囲まれていた。田淵宣之は囲まれるという経験は何度も経験してきた。自分がこのヒューマンスクールの祭壇で生徒達を集めて説教をしたものだった。だがこの囲い込みはいつもとは違う。


 目の前に深く深く深く、そして金剛石よりも硬い意思を持った双方に睨まれる。


 ずば抜けた力を持った男が目の前に立っていた。その男は何十年も続いてきた常識を根底から覆した。それは彼にしかできないことだった。

 一言、二言言葉を交わして拳を隣に立つ少年と打ち付けあっている。




「こいつらを裁判にかける。」


 裁判が始まった。全会一致で死刑だった。ただ、そこまでの凶行に出た者じゃない者は死刑にしなくてもいい、という結論が全体的な意見として出た。


「 心臓は負担をかけすぎ、緊張を張り詰めすぎて、俺達の頭のある部分は伸びきったゴムのようになっている。」


「それから根拠のない人格否定。ねちねちねち。本当にあなた達腐ってますね。」


  「人はストレスがかかりすぎるとかえって能力が低下するものなんだよ。教師の癖にそんなこともしらないのか?」

 


 そしてその、死刑の執行は二階堂と美濃、それから有志の生徒がやった。有志の人間は思っていたよりも多かった。こんなものか。と二階堂は思った。


 ぶつぶつと呟く田淵の言っている内容は


「貴様たちは地獄に落ちる貴様たちは地獄に落ちる貴様たちは地獄に落ちる貴様たちは地獄に落ちる・・・・・」


 こんなことを言っていた。


「本当に人の話を聞きませんね。」


  田淵宣之は最後まで何故この生徒達が逆らうのかよくわからなかった。


 驚異的な精神力で二階堂はこの出来事を進行させた。事前に計画していたが、やはり様々なファクターで計画そのままの進行とは行かない。


 田淵らの命を終わらせる時に二階堂は過去の生徒達すべての怨嗟の代替わりをした。


 美濃は宣教師の命を絶つ時に膨大な歓喜と巨大な罪悪感が彼の身を包んでいた。ある種、長年ここにいる生徒にとっては親に近しい存在だったのかもしれない。人の生命を終わらせることに罪を感じない人間がいるだろうか。人の生命を終わらせることに喜びを感じない人間がいるだろうか。


 ただ、生徒たちにとっては報いを受けたという気持ちだった。


 残りの宣教師達は反省室に入れた。期限なし。あるいは死んだ人間の方を羨むようになるかもしれない。だが生徒たちにとって知ったことではなかった。やられたことをやり返しただけだ。長年の分。それに宣教師を外に出すと、またこいつらは同じことを繰り返すだろう。同じ苦しみを産むだろう。

 二階堂は風呂に入りたかった。手を洗いたかった。鶏を締める時のあの幼い時に感じた罪悪感を濃厚にして飲み干したような感覚と痺れが手に残っていた。


 いずれにせよ真っ当な少年が経験するような出来事ではなかった。


 どごおおおんという爆発音と振動の波がいくつも起こる。ひび割れる校舎、次の瞬間あちこちで粉煙が飛び出し、轟音、振動。窓ガラスは最初に粉々に吹っ飛んだ。窓の柵がひしゃげている。屋上が中心から底に落ちるように亀裂が走ったかと思えば崩落した。鉄筋はむき出し。照明も粉々。一切のものが崩れて落ちた。吹き飛ぶ壁。コンクリート片が宙を舞う。

  振動と轟音と砂塵。その音に呼応するかのように湧き上がる歓声。怪物を討伐し、倒れた、骸の側で少年達が勝利の雄叫びを上げる。さすがにこの校舎が崩れ落ちる様は見ていて感慨深いものがあった。

 ヒューマンスクールは陥落した。


 二階堂はALFの起爆した爆弾がヒューマンスクールをこなごなに崩れ落とすところを見ていた。二階堂は一つ肩の荷が降りたような気がした。


「もちろん。これからはじまるんだが・・・」


 吹き荒れる砂塵で着ているボロがなびく。

 遠くで美濃が手を叩いて喝采している。


 グラウンドは宴の様相を呈していた。長年の支配から解放されたのだ。これで喜ばない人間がいるはずはない。


 二階堂は山に向かって歩いていた。何故山に向かって歩くのだろう。答えは分からない。しかし、山に向かって歩いていた。

 あれだけの人間を率いた人間とは思えないほどの敬虔な顔をしている。彼にとってのゴルゴダの丘なのか。二階堂琥珀はまるで憑き物が落ちたかのような顔をしていた。森のさざめきが聞こえる。葉の揺れる音。幾重にも重なる植物たち。

 疲れた体と心。しかし、足は止まらない。


 

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