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学校を壊そう!!  作者: アルリア
14/21

柚子葉1-2

4-2 

  明るいオレンジに近い髪の色にぴょこんとついたテール〈尻尾〉が一つ。ビロウ四に許されているかわいいものはできるだけセットアップしている柚子葉。十四歳。この学園で過ごすうちに笑顔がほとんどなくなっていったが本来はよく笑う子だった。お人好しな性格で明るいスポーツが好きな子だった。しかしそのとても綺麗で生き生きとした柚子葉はある種の外に対する警戒心を衣にしたものを身に纏うようになっていた。ヒューマンスクールでは信じるものは全て奪われる。信じるもの。愛するものは全て壊され、奪われる。最悪最低邪知暴虐が尽くされる場所だった。こんなところにたった一人で柚子葉はずっといたのだった。この少女はたった一人、この明けることのない空を見つめ、晴れることのない空を仰いでいたのだった。

 本のページをめくる柚子葉にもあったものだが、ある種の儚さが今の柚子葉にはあった。まるでしなびたキャロットのような・・・。


 柚子葉がしなびているのにも当然理由があった。単純だが、根本的で、それゆえそれが揃っている人間にはその重要さを忘れがちなところがある。柚子葉にはご飯が足りていなかったのである。


 おなかへった!!!


「カップヌードルからミサイルまで。」これは四半世紀前のある企業の広告のキャッチフレーズである。その企業の社長はこのキャッチフレーズの意図であるミサイルの方が上。重要度が高い。価値が高い。などの意味合いが受け入れられなかった。「ミサイルからカップヌードルまで。」にして欲しかったと言う。その社長は食料従事者である自分達の職は聖職だと思っていた。食べるものがなくなるということがどういうことなのか・・・味わったものでなければ分からない。


「(ああ・・・・お腹空いたなァ。今日の晩御飯・・・なんだろ?)」


「(なんてね。)」


 柚子葉の綺麗な顔は顔色が悪く、そのすらっとした足はふらふらだ。酔っ払いの歩き方に見えなくもない。家に帰れる理由はないのだ。迎えは来ない。ここに来た子なら二週間で悟ることだった。すなわち泣けど喚けど状況は変わらない。と。


「(お母さんの料理が食べたい。)」


 ふと柚子葉はそう思った。そう思うのは同じ班員の新入生の子を見ているからそう思うのだろうか。テーブルにつく。この子はすっかり怯え、ぶたれた犬のようにびくびくと周囲のもの全てを怖がり、避けていた。それのせいか年相応の行動はほとんど見られない。上の言うことにはとてつもなく従順。もうこのヒューマンスクールに適応し始めた子はにこやか歪ませた口を顔に張り付かせて上の言うことには絶対服従の姿勢をとっていた。そしてこの子らは溜まったストレスをより弱い存在で解消する。この子たちは時に信じられないほど残酷で残忍で意地悪にもなった。要するにやられたことをやり返した。それだけのことだった。子供はちゃんと大人たちを見ていた。大人のやっていることを真似しただけのことだった。親から愛を与えられた者は何をどうするなど考えず子供にも愛を与えることが出来る。その逆もまたしかりなのだ・・・


 目の前の新入生の十一歳の子はまだヒューマンスクールに適応出来ていないようだった。適応することはいいことなのか悪いことなのかと言うことなんて考えている余裕は無い。適応できなければ死ぬんだ。そういう風に柚子葉は見ていた。


 目の前の怯える子を見て柚子葉はしっかりしなきゃと思った。両親のことは一旦頭の角のぱっと見えないところに押し込んだ。ぎゅうぎゅう。


 柚子葉は四ビロウあるためにメニューからイー(並)アル(中)サン(大)シー(小特)までを選ぶことが出来た。同じ班の高ビロウ者は済ました顔で食事をしている。一方怯えた顔で不味く、最低のうどんを食べる新入生の子。その箸の動きは進まない。今まで食べていたものと比べて粗末で非衛生すぎるのだ・・・


「(まっずぅぅぅっぅぅっ。)」


 同じく離れたテーブルでうどんをすする二階堂はそう考えていた。


「(どうやったらこんな風になる?うどんがだぞ。製法を知るのは覚悟がいるだろうなぁ。知らなきゃよかったってことになりそうだ。だが、製法を知ってそれを公開すれば反乱のための一要素になるかもしれないな。)」


 柚子葉の前に座る子は時折戻しそうになりながらもそもそと食べていた。


「おいちゃんと食器片付けとけよ新入生!」


 食事を終えた柚子葉の班員が全員立ち上がり新入生に言った。全員分の食器を片づけるのはその班でもっともビロウの少ない者の仕事だった。


「ったくトロイな!さっさと食えクズ!」


 そう言って高ビロウ所得者が椅子ごと新入生の子を蹴飛ばした。


 二階堂の腕を大澤が慌てて掴んだ。


 新入生の子は見ていて悲しさやらなにやらで胸が痛くなるほど狼狽した。ましてや本人の心境は・・・


「(ここに来たばっかりで恐怖と緊張で疲れきっているというのにそれはないでしょう。?)」


 柚子葉は周囲を見渡した。だが誰もこの出来事に関して無関心だった。ごく普通に歓談し、時に笑い談笑している。大人達もみんなそうだった。


 その時いつも感じていたことを柚子葉はまた感じた。


「(やっぱり・・・私が間違ってるのかな・・・・それで正しいのはみんなの方。私がおかしい・・・・)」


 だが人混みの中に知っている顔。というより今日会った顔を見つけた。その男子は男子数人につかまれて止められていた。その顔は馬鹿みたいに必死に、この行為に異議を唱えようとしていた。馬鹿みたいに必死に、この柚子葉の班員の新入生の男の子を守ろうとしていた。


 やがて高ビロウ所得者が出ていった。のろのろと新入生の男の子は席に戻る。

 二階堂は柚子葉のテーブルまでやってきてうどんを男の子の子の丼に自分のうどんをまるごと入れた。


「替え玉だ。」


 ボソッと二階堂が耳打ちした。


「ついでに七味唐辛子つき。」


 続けてどこからか調達したらしい小瓶の七味唐辛子を出した。


「いいや俺は塩胡椒派だな。」


 共にやってきた物事を断じることが好きな美濃が軽口を言う。そう言って彼は男の子に塩胡椒の入った小瓶を渡した。


「まぁそれをふりかけるうどんが最低なんだけどもね。」


 大人しそうな大澤が言った。


「そりゃそうだな。」


「七味唐辛子が100点だとすると」「塩胡椒が100点だとすると」「「このうどんはマイナス100点さ。」」


 息ぴったりな軽快な掛け合いに男の子の瞳に光が戻る。


「ね、ねえこんなことしたら・・・絶対これヒュー条違反してるでしょ・・・??」


 困ったような嬉しいような顔をしながら当たりを慌てて見渡してこう小声で言う柚子葉。

 二階堂はそれに応える。


「残飯を処理しているようにしか見えないさ。」


 そう。残飯及び食器を片付けるのは最も低いビロウ保持者の仕事だった。その視覚的盲点を二階堂は上手く突いたのだった。


 形の言い瞳をぱちくりさせた後柚子葉は今度こそ嬉しさ満開の顔をした。体を弾ませたその笑顔は百万Vの笑顔だった。わーまぶしー。


「その手があったのね!」


 発見に顔をかしげた笑顔で喜ぶ柚子葉。髪が頬下口元付近までかかっている。

 それから柚子葉は自分の食事も新入生の男の子に上げた。うどんなんかよりはよっぽど質のいい食事だった。


「支配構造強化のための食事の差だけど、これはそれが裏目に出たな。」


「ともあれたくさん食べないとな。なにがともあれ。そうしないと駄目だ。力が出ないから。そうしなきゃ何も始まらない。」


 不敵に言う二階堂。とても便りがいのある頼もしい。二階堂はそういう包容力を持った男だった。


 男の子は嬉しかった。食事を腹いっぱい食べられたというより、こんなにも自分にも味方が、助けてくれる人がいたということが、ヒューマンスクールに来てからで一番。ひょっとしたら人生で一番嬉しかったかもしれない。


「さて。俺達はもう行くよ。長くいると怪しまれる。じゃあ。また会おう。」


 二階堂が二人に言って歩き始める。その二階堂に柚子葉が声をかける。


「あ、ねぇ。この調味料は・・・??」


 柚子葉が手に持った七味唐辛子と塩胡椒のことだ。


「ああ。それ。柚子葉が持っといてよ。次に会う時に返してくれればいい。」


 横目で顎を、持ち上げて話す二階堂。それだけ言うと今度こそ、背を向けて行ってしまう。去り際にピースサインを背の後ろで手首で振って目立たぬ挨拶をする。実はこれはアルフの符号のサインだった。のだがそんなサインなど知らない柚子葉はふっと微笑みこう思った。


「(キザな人。)」

 

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