第95階 黒の女傑
次なる地、聖獣達の国へ行こうと
フォアローゼズ達に
伝えに部屋に戻った私
そしたらシンガプーラちゃんが
お姉ちゃんの
ターキッシュアンゴラちゃんと
一緒に行きたいと言い出して...!?
コンッコンッ
「シンガか?探したぞ...入れ」
「マサムネ王、
アオナ・エカルラートでございます
シンガプーラ王女様についてお話が」
「....そうか、入ってくれ」
カチャン
「こんにちは、マサムネ王」
「....あぁ、してシンガが
何処におるか分かっておるのか?」
「えぇ、そうです」
「なら早急にこの部屋へ
連れて来て欲しい」
気迫のこもった声で私を見据える
「....ターキッシュアンゴラ王女と
共におりますわ
姉から離れたく無いそうで」
キッと目付きが変わる
「なんだと、何をした!」
心配が種の自責からの
怒りに思われる
愛娘がいないという事実に
不安そうな表情を一瞬浮かべる
亜人達の王の父親としての顏
そんな心傷な王様に
私はオリハルコンで創った剣を抜いた
「!!!!!!」
「ねぇ王様?私はシンガちゃんの
これからについて話し合う為に
来たのだけれども
貴方は私と争いたいのかしら?」
押し黙るマサムネさん
唇をグッと噛み締め
「...話し合いに応じよう」
感情を押し殺す鈍い音が
した様な気がした
「まず、シンガちゃんは
幼い故に感情的に行動していますわ
反抗期では無く単に興味がある事柄に
走っていったという事ですね」
マサムネさんは少し
安心された様な表情を見せる
「その行動力を規制するよりも
見聞を深め、より深い人柄の形成に
私が助力致しますわ!」
「...要は連れて
行くということかね?」
静かに重々しく告げられる
「仰る通りです」
少し困った様な顔をする
「シンガに至っては
いつか何処かで旅を共にしようと
思っていたぐらいに野生的で
行動的なのだよ、私に似てな!
私は構わん、だがアビシニアンが
どう言うかは分からん
もう直ぐ戻って来るだろう」
カチャン
「貴方...」
「マサムネ!一大事だな!!」
そこには悲しげで儚い
アビシニアンさんと
外傷が目立つゼムさんがいた
「大公様と一戦やりあったのか?」
一つ吠えながらゼムさんは尻尾を振る
「あいつ、あれだ!」
「リハビリかしら?」
「そう!それだ!!
ところで見つかったのか?」
「あぁ、問題無いだろう」
マサムネさんに駆け寄る
アビシニアンさん
「何処にいるの!?」
「ターキッシュと共にいるそうだ」
私に微笑むマサムネさん
「えぇ、遊びに来ています」
「あぁ、早速迎えに...」
アビシニアンさんの透き通る様な
か細い腕を優しく包む様に掴む
マサムネさん
「アビシニアン...シンガは友達の
所へ行っている
アオナ殿が護衛してくれるそうだ」
マサムネさんは優しい囁きと
非常に柔和な笑みで伝えた
「...うちの娘を
どうするおつもりで?」
怒りのこもった表情を
此方に向けて来る
「仰る意味が分かりかねますが」
私とアビシニアンさんは
一触即発の状態だった
「......良いでしょう
私と試合をしませんか?
勝てば認めましょう
シンガの行いを」
心では分かっている
シンガちゃんは
前に進もうとしている
けれども、大事な家族が
共に悪漢達に傷付けられて
今は一緒にいたかった
そんなアビシニアンさんの
思いが見て取れる
「アビシニアン.....」
それを気遣ってか
マサムネさんの声が細々と響く
「構いませんよ?」
「.......気持ちが
納得いかねぇそうだろ?」
ゼムさんは軽く唸った
彼もまた痛々しい今の状況を
深く深く感じていた
ゼムさんの問い掛けに
アビシニアンさんは無言で頷いた
私は戦いの舞台を創造した
「....それにしてもアオナ殿
この様な世界を創るなど
魔王グリモワール様クラスなのだな....」
「えぇ、そうね」
私は翻しアビシニアンさんと
向かい合う
キリッと向けられる敵意の視線
「...どの様な戦い方でも構わないわ
この世界はほぼ時間が進まない
要するに時間はたっぷりあるわ」
「好都合ね、アオナ様はさしずめ
魔法使いタイプかしら?
私は戦士なのだけれども」
アビシニアンさんの背中に
光が集まって剣が生成される
「へぇ...2刀流」
アビシニアンさんの背には
黒剣と緑剣が備えられ
全身が覆われる程の
黒いチャイナドレスを着こなし
足には魔力を帯びた
ムーンパンストを着用していた
「うちの妻は黒の剣士として
名を馳せた
右手に黒剣"滅火之世界"
左手に
緑剣"ディザスター・リパルサー"を持ち、
ある者は魅了されある者は尊敬し
亜人きっての最強の女傑として
魔界に君臨した」
「...マサムネ以来久しぶりだわ、
自国では男も女も
魅了されるのだけれども」
「そう、強かったのね!
でも私には通用しないわ
私は私以外を生きたいとは
まるっきり思わないの!」
右手に全身カゲード・ゲイスダリゲード
左手に闘剣「無神」
「あらあら、スタイルが同じ!?
後悔するわよ?」
「...遠慮したら一発で落ちるわよ
その首」
私はニコッと微笑んだ
「お前本当かよ!?」
ゼムさんがニヤニヤしながら
マサムネさんを凝視する
「....バカ言え、戦う時には
もう魅了されていたぞ
それを飲み込んだ上で
試合を申し込んだのだ」
「そんな事かよ!!」
「.....お前は負けたけどな」
「言うない!!」
2人は笑っていた
「笑止!!!、この私が
一撃はあり得ないわ!!!」
「あー、盛り上がっている
みたいなので始めるぞ」
ゼムさんの声が響く
アビシニアンさんも私も構えた
「行くぞ........ファイっ!!!!」
私以外の目が見開く
「おい、嘘だろ....?」
とはゼムさん
「!!!!!?」
マサムネさんは無言で驚いている
「...........」
アビシニアンさんは声にならない
私の右手に持った剣は
アビシニアンさんの首筋に
当てられていた
「1殺」
私の声が小さく響く
カラン...カラン....
アビシニアンさんは
両手の剣を落とし
ガクッと項垂れ跪いた
「神話上の黒の剣士は
物語上トップクラスの反応速度と
最速ともいえる速さを持つ、
私も読んだ事があるわ」
私はゆっくりと立ち位置に戻った
「それと不屈の精神もね!」
私は笑いかけた
アビシニアンさんは剣を
握り締めて立ち上がった
「そうね、私の憧れの黒の剣士は
最強よ!!!」
ギュンッと飛び出して来る
中々に速い
「風斬り!!」
一振りの剣から放たれた
鋭利な一筋の風が一閃通ると
広範囲を凪いで行く
「へぇ、周囲の風の魔力を吸収して
威力が増幅するのね」
ズパッ.....と
私は一閃を真っ二つに切り裂いた
そしてすぐ目の前に
彼女の瞳が闘う強気な表情が迫っていた
「恐斬り!!!」
幾重にも私の防御した
2つの剣に叩き込まれる連撃
鮮やかに"恐"の文字を描き出す
「あの技...確か?」
「あぁ、そうだな
ラグナロクと相まって
エネルギー吸収効果のある
色んな意味で受けたく無い技の筈だが...
様子がおかしい」
「あぁ、もう連続で7発も
ガードされているとはいえ
当ててるのに、汗を滲ませているのは
お前の奥さんの方だぜ?」
「恐....斬り.......くっ!
ダークスフィア!!!!」
私は8発目は放たさせず叩き潰し
直後に放たれた防御系回転剣技に
受け流されるままにされた
そして距離を取る
アビシニアンさん
「ハァ....ハァ....」
「恐の文字を描く連撃は
吸収効果無しでは7度が限度よ
...それにしても闇系の技は
強力だけれど消費が激しいわね」
「1つ聞かせて欲しい....」
「良いわ、遠慮されずにどうぞ」
「手を抜いたの....ね....?」
アビシニアンさんの掠れた声が届く
「....悪いけれど、一発目で
方が付いてる」
「分かっていたけれど
めちゃくちゃ悔しいわ!」
アビシニアンさんは涙を滲ませた
「うお!!!」
ゼムさんが神々しさに顔を伏せて
「アビシニアン....やはりお前が
一番麗しい!!」
バカップル全開だった
「でもね、特別に
最後にメインディッシュを
残しておいたわ
受け取ってね、そして
娘達に力を貸してね」
時空が避け雷が両の剣に纏わりつく
「生きている方に使うの初めてなの」
「あ?.......おい....」
「俺も知らん......
ターキッシュがとんでもない技を
使えおったがまさかアビシニアンを
受け継いでいたとはな....」
サモン.....
サンダー........
ストリーム!!!!!
それはまるで滅びの歌の様だった
私はその歌を静かに最後まで聞いていた
雷撃が世界を抉るように捻じ曲がり
それを伴って剣が私に襲い掛かる
ガギャギャギャギャ!!!!
剣と剣がぶつかり合う音が
鈍く重く世界に響く
もう既に10連撃が放たれていた
「.....私もね、憧れている
男の人がいるの」
アビシニアンさんは
応えるように笑っていた
15撃目が私に
襲い掛かろうとしていた
「くっ..........」
「..............エクス・カリバーンW」
ガガキンッ!!
アビシニアンさんは涙を滲ませ
そして笑っていた
私と彼女の間は2人だけの
時間が流れていた
カランッ....
カランッ........
受け止めきれず吹き飛ばされた
ラグナロクと
ディザスター・リパルサーが
地に落ちる音がした