第64階 魔王グリモワール
そこには懐かしさを感じた
昔ながらとか失われたとか
古風とかそんな言葉で
飾りたくなる様な
歴史の風景がそこにはあった
時の流れの中で置いて行かれた
価値観が色褪せぬ形となって
そこにある様に感じられた
カンカンカン....
カタコトン..カタコトン
ピィーーーーッ
耳をすませば
まるで走ってるかの様に
「あれは鉄の上を走るんよ!
もう人が使わんなって
廃れて鉄の道だけが残った」
グリモワ様は楽しそうだった
「ハツミ...でええんかい?」
「はい、グリモワ様」
パラパラとめくれていくグリモワ様
グリモワ様も本の魔物
「そうだねぇ
あんたに言わんといかん
"様付け"なんておぼえよってに
昔みたいにばっちゃで良いんよ」
私は口元が緩んだ
「うん!ばっちゃ!!」
そうだよ!そうだよ!と
私のばっちゃは喜んでいた
私も物凄く懐かしく感じた
「ナティラは元気かい?」
ばっちゃは微笑むのページを
開いてくれた
「えぇ、母はとても
父がいるから病気も何も
寄って来ませんよ」
だろうねぇ、あいつはと
嬉しそうに懐かしそうに
「それでハツミは
"あれ"に行くんかい?
まさかスソリフに
顔を見せに来ただけでは
あるまいて」
"あれ"と言いながら
ばっちゃは星闇宮を指差す
「あはは!、えぇそのつもりよ」
だっはっはっは!!!
そうかい!そうかい!
とばっちゃは大声で笑っていた
「気ぃつけるんだよ
今では星の王も龍の王も開けられん
人間界の言葉で言うなら
王を黙って待つ過去の栄華かのぉ」
全天さんもアルテンさんでも
開けられないだろうと感じていた
だから私は今回の事は言っていない
現行星闇宮は魔界の所有物だと
思っていたから
だから魔界の筆頭格で母の双子の姉
黄金王スソリフ様の所へ言質を取りに
行こうと思っていたのだった
「何か秘策があるねぇ?
ハツミには」
「えぇ、私が開けられなかったら
もう誰も開けられ無いと思うわ
魔界の天皇様が復活するまで」
面白い事を言うのぉと
ばっちゃは笑っていた
「こんな事、外で言うとったら
大事だねぇ
なんせ魔界の天皇さんの
星闇宮は魔界の夢なんだからさぁ
誰も入れん、誰も近付けん
魔界を捨て異界に行った奴らも
星の王を恐れてのぉ
ある意味で呪われておる
聖域とも言える
人間界の天皇様という言霊に
込められた圧倒的な影響力!
私にとっては孫娘の様な
ハツミが開けれると言って
目の前におる歴史的事実よりも
逞しくなったのぉ!!ハツミ!」
「えぇ!強くなったよ
ばっちゃ!とーっても!!!」
私は自信を持ってそう言える
胸を張って誇りに思える
「ナティラの後ろに隠れて
しがみついとったハツミがねぇ」
「物凄く可愛かったでしょ!?」
ばっちゃは笑いだした
「そうね!そうね!」
パラパラ捲られていくページ
そこには"Cute=可愛い"と
「あはは!嬉しい」
時間あるかい?と
ばっちゃが唐突に聞いてきた
「えぇ、あるわ...」
「スソリフに手紙を
したためてやるから
他の魔王に見つかった時も
見せるといい」
「ありがとう、ばっちゃ」
「他の魔王には触れれん様に
強力な呪いでもミコンに
描いてもらうかねぇ...
そしたらあやつも共犯ねぇ」
私はネクさんの苦労人を感じさせる
境遇に苦笑が止まらなかった
「魔界は7人の魔王で...
ねぇハツミ!ハツミは
グリモワ様以外にも
会った事あるの?」
魔界歴史大全を読んでいる
マユナの質問に答えていた
手紙を作るのに
色々時間がかかるとの事で
今は皆で魔物の王である
ばっちゃことグリモワール様の
城がある"セイトモ"の地へと
やってきていた
省エネ体質のばっちゃは
所々に自ら製本した魔本を
自国の至る所に置いていて
瞬間移動に利用している
ネクが使用すると魔界の果てに
飛ばされたりするらしいし
子供達が使うと
母親の元へ飛ばされたりするみたい
その本は心の綺麗さによって
効能が変わると魔物の国内で
噂されている
「他の魔王様か、見た事はあるけど
話した事ととかは無いと思う
私は幼かったから」
「魔獣軍には気を付けると良いわ」
とそう言うのは絵画のマリアンヌさん
「魔獣って事は
魔力を持った狼とか狐とか
そういうのかい?」
マスカリアがぴょこっと現れる
「えぇ、そうね彼等は魔界の覇権を
手中に収めようと内陸を
駆けずり回っているそうよ」
エルフの国はどうだろうか
被害とかは大丈夫かなぁ
「私達の絵画ネットワークでは
大きな被害は何処も出ていないそうよ
今は恐ろしいぐらいに
魔界の7種族の力が拮抗しているわ」
エルフ、悪魔、聖獣、不死、魔物、
亜人に魔獣...これは私が幼い時から変わらないみたい
「フンッ、そんなの決まっておろう
相応しい王がこの地に
降臨なさるのじゃよ!」
石の鼻を力強く鳴らす
「玉藻前様?その様な噂は
良く聞き及んでおりますが
確証はまるでされていない、
魔界の天皇様程の力を持つ者が
今何処におられるでしょうか?」
マリアンヌさんは困っている
「目の前におろう!!」
堂々たる狐の石像に
マリアンヌさんは苦笑している
「グリモワール様や
ネクロノミコン様なら
まだしも...」
「解放しても魔獣軍と同等かも
しれないわね」
睨んで来る玉藻前
「そちはちょっと言葉が過ぎんか?」
「九尾種は確かに強力な種族よ」
本当に表情豊かな石像だこと
怒りで汗が噴き出している
「ハツミ様、それは
グリモワ様から?...」
マリアンヌさんも焦りで
玉藻前は九尾ですよと
説明頂いた様なもの
「ユウヅキってご存知かしら?」
「えぇ、知っております
魔界の大物達は...」
困惑しているマリアンヌ様
「ユウヅキじゃと....?」
「その人って?ウシトラさんの
近くにいたあの龍の様なお方?」
カタカタと震える狐の石像
「..ユウヅキは狐でありながら
もっとも龍神に近付いた稀有な
存在じゃ....
鬼神達を率いて魔皇軍と共に
神の軍勢を打ち破ったという
魔界の天皇を全世界に広めた闘い
その中枢の...名をどうして知っておる!!!!?」
打ち震える玉藻前
龍は九つの動物と似た性質を
持つと言われている
霊的存在となった狐が他の動物の
性質を吸収、統合し霊獣の果てである
龍に近付くという事例は存在する
有名なのは蛇かなぁ
「私は神の降霊が行えるの
その時に聞いたわ」
私はフォアローゼズに
にっこり微笑んだ
4人はコクっと了承してくれた
意図を飲んでくれたみたい




