第287階 二度目の命の雫の目覚めの日 食事
「ラナンさんのお顔を拝見したいって、私が言い出したのを、
プラが今度連れてくると……軽いノリで了承してくれていたの」
カランが頼んだ竜の骨付き特大肉に悪魔の羽のから揚げ、
私が頼んだ龍の刺身をシャクヤクさんは私達のテーブルに置きながら。
なぜ私なんだろう。
「私も『黎宙』なのよ、今も」
「なら、先輩ってことですね」
鬼のほろほろ肉のシチューが置かれる。
溶岩が滾る様にぐつぐつと煮込まれていて、
食べる時に少しだけ気を付けようと思ったわ。熱そうだもん。
「ラナンさんは歴代最速の入団だってオーニソが言っていたわ。
あんまし驚かないあの子も驚いていたわ、そうアマラよ」
呼び方からして王院二年生のアマランサス先輩よりも年上かしら。
「それは光栄ですわ、とても誇り高いです」
私の返答にシャクヤクさんは小さく微笑んで。
小皿に慣れた手つきで取り分けていく。
特大骨付き肉も削がれていき、カランの前に積まれていく。
「どうぞ、召し上がれ。追加の注文があれば呼んでね」
そう言って彼女は私達の部屋を後にした。
「ま、食べましょうよ。ラナン」
こんなに美味しそうな料理が並んでしまったのだから。
食べないと逆にバチが当たるわ。
「そうね、『黎宙』としての挨拶が理由みたいだしね」
私とカランは手を合わせて目を見合っていた。
零れそうな涎から目を逸らしながら。
そう、もう食べるしかないのよ。何も考えずに。
「「いただきます!!」」
普通に美味しいわね、龍の刺身に小さな辛みが絡み合いすごくちょうどいいわ。
溶岩が煮えたぎるようなスープもなんだろう、濃厚な辛みに時折甘味さえ感じるわ。
「そういえばさ、店員さんって水の四大貴族だと思う」
シャクヤクさん。有名人なのかしら?
所作に話し方、手の運ばせ方に足運び。
高いレベルの訓練を受けている風なのは分かるわ。
「なぜ水だと思うのかしら?」
カランはお口いっぱいに、切り分けられた
竜の骨付き肉を数枚ほおりこんで噛みしめている。
カランから質問が返ってくるまでは少しかかりそうね。
「私のこと? 答えてさしあげても」
カランが追加した注文を右手に持ちながら
私が追加で注文した神々の血肉の天婦羅が置かれる。
その笑みはとても柔和だった。
「答えてくれるのですか!?」
私も笑顔は忘れない。
大方、魔女五傑のキキョウ絡みだろうけど。
そう、いざこざだろうなぁと。
「私は水の四大貴族よ、でエース候補のアマランサスよりも当主に近いわね」
カランの前に竜の尾のから揚げが置かれる。
けっこう量があるわね、カランの額より積み上げられているわ。
「内部情報じゃない、【黎宙外部】は【黎宙のエース候補】の
アマランサス先輩が当主になるって思っているわ」
ネモフィラさんがアマランサス先輩のぬいぐるみを持っていたわよね。
認知度が大事なのかしら、この場合。
「その世論というか一般人たちの意向に押し切られて『真祖』のキキョウ様が筆頭候補だったの。
影響力の関係で、異端で問題児だったのにね。私は及ばなかったから」
同じ問題なのかしら、近しいとはいえるのかも。
【漆黒の死神】って二つ名がなかったかしら、アマランサス先輩。
「いやそれって……」
カランの言いたいことは、
端的にアマランサス先輩の方が実力があるということかしら。
カランから見ても変わらない事なのね。
「キキョウ様はかの第三次 月人戦役の英雄だから。
でも、もうないのよ『黎宙』を辞めてしまわれたし、
それにアマラを当主に決定づける事柄が」
目標が届きそうで届かない思いなのかどうかはさておいて。
月人達との戦いはそれほど太陽人達の心を
大きく突き動かすということが読み取れたわ。
「それは分かんないじゃない、先輩。
私個人としてはあのアマランサス先輩が、何か良い方向でやらかす事はあっても
悪い方向でやらかす事はないと思うんだ」
カランの前から唐揚げが消えていっていた。
カランの口が見えるぐらいには。
「ちょっと愚痴っぽくなったわね。謝罪するわ。
そうね、あの子だものね」
少し待ってて、メニューない料理を出してあげるわ。
と言ってシャクヤクさんは調理場に消えていった。
「あぁは言っていたけど、料理も出来て接客も素晴らしくて」
確かにそれは言えてるけど。
でも憧れとか、夢とかだったら?
簡単に論理的には考えられんないんじゃないかな、と。
「心や気持ちのことだと思うから、
美味しくないものを美味しくないとは思えないし
美味しいものを美味しくないとは思えないじゃないかな」
金色のサクサクした衣をまとった神の血肉を
噛みしめながら、その肉汁に私の舌は喜びに満ちている。
「まぁ、そうか。そうだよな」
おまたせーっという元気な声が飛び込んでくる。
シャクヤクさんだわ。
なんだか、赤いゼリーのようなものが運ばれてくる。
「甘い味付けにしたから、お口に合うといいわ」
一体なんだろうという疑問は置いておこうかしら。
西洋の竜に東洋の龍、悪魔に鬼に神々。
頼んだ料理はぜんぶ美味しかったわよ、うん。
「これ、やばいやつじゃね?」
魔力濃度が異常に高いってことは分かりますけど。
笑顔で置かれたのでとりあえずスプーンで。
あ、なんかプルンッてしてる、普通に美味しそうだわ。
「大丈夫よ。『命の雫の涙』って名付けられていて、
命の雫の光や熱を魔法で絡め取って無味の舌触りが良い
個体と液状の中間の成分と練り合わせているだけだから」
ある意味で命の雫を食べるってことね。
果たしてどんな味がするのだろうか、と口に運ぶ。
シャクヤクさんも食べて欲しそうな目で見ていたから、多分ね!
「美味しい」
「は? 美味しい」
私もカランもご満悦という声が出てしまう。
一番はその柔らかさ、しつこくない程度に弾力があり
甘い味付けの言葉通りに甘味成分がほのかな熱に絡み合う。
「お客様の命の雫への耐性力を考慮しないといけないから
メニューに出せないのよ、これ」
辛みとも苦みとも違う、小さな火や溶岩を包んだ冷たさが
喉奥を通っていく。
「ラナンさんもカランさんも『黎宙』内部に情報があるから。
王院側から提供されているのよ。意味が分かるかしら?
カランさん、あなたも『黎宙』候補生なのよ。新入生伝統行事の結果しだいだけれど」
あら、カランも私と一緒に戦うことになるのね。
「楽しみだわ、私も。ね、カラン」
「あぁ、やってやるわよ! 伝説作ろうな! ラナン!!」
おいで、カラン。
「伝説、良い響きだわ」
そう言ってカランに手を差し出した。
カランは恥ずかしそうに黙って握り返す。
カランの緊張して少し強く握る手が温かったわ。
「貴女達、仲が良いわね。微笑ましいわ」
そう言いながらシャクヤクさんは
笑みを崩さずにこの場をあとにした。
二人で楽しんで、と言わんばかりに。
「正直に言うわ。
ラナンが本当に『黎宙』だって理解できたとき、寂しさが込み上げてきたんだ。
少しの間だったかもしれないけど、食事したり教えてもらったり.......
フユさんもそんな気持ちがあったかもなって」
いつものカランとは違う。
それでもカランで、私が先に行き過ぎたことで、
こぼれ落ちそうな大切の芽があったのかもしれないと。
「離ればなれにならなかったから、嬉しいんだ」
カランから頬を伝う、一雫。
「クラの護衛としてはずっと変わらないじゃない、
『黎宙』に入れるかもってことは実戦でも見てあげられるわ、師匠としてね」
本当は嬉しさで喜ぶべきなのかもしれないけれど、師匠っていわれるのは結構気に入ってるわ。
だから、なんとなくでも伝われば良いなって。
一緒に食事をしていることも【黎宙】に入団して一緒に戦えることも。
言葉に思うようにならない思いを。
「待ってるから。『黎宙』で共に戦えること」
「あぁ。もちろん」
頬が赤くなってるカランは顔をふせていた。
私もちゃんと言葉で伝えられたと思う。
だってカラン、嬉しそうなんだもん。
「私達もよろしくお願いしますわ、これは『黎宙』みんなの一押しです」
淡いピンク、ピンクに赤、濃ゆい赤の西洋の竜のと東洋の龍の
4種類の焼き加減で色付けられたとシャクヤクさんから説明を受ける。
その焼肉は薔薇のような装いで皿の上で咲いている。
「今は『黎宙』しか食べられないのよ、試行錯誤中だから。あとは名付けね」
カランは驚いて、そっと目を逸らす。
「良いのか? 私は『黎宙』に届いていないわ」
「気持ちは届いているわ、私はそう思う。
だからあとはそれを形にする、人並みだけど応援してるわ、カランさん」
私は薔薇の花弁となっている龍の淡いピンク色した肉を口に運ぶ。
うーーん!! 美味しいわ!
龍の刺身とはまた違う、柔らかさが舌の上でとろけてほどけていく。
「らしくないわ、さっきの勢いのある意気込みはどこ吹く風よ。まったく」
カランは苦笑していた。
「あぁ、そうだよなぁ! 私ら伝説を作るんだったわ」
やっぱカランはそうじゃなくちゃね。
ほら、シャクヤクさんも小さく笑っているわ。
カラン、頑張ってね。
※
そのあと、美味しかったメニューを追加で注文してもう少しお腹を満たしたわ。
そしてシャクヤクさんの店をあとにした。
プラ先輩の稼ぎで払ってもらったから、次に会う時に感謝しないとね。
「美味しかったなぁ! なぁラナン!」
カランと私は笑顔で店からの道を歩いていた。
王都から少し離れてはいた、
それでもプラ先輩の魔法のおかげで
行きの道は移動速度が向上していた。
今日は至れり尽くせりだわ。
「えぇ、良い腕していたわね。とても満たされたわ」
帰りはゆっくり歩いて行こうかなぁなんて。
人はほとんど通らず、お店の場所もはっきりとは分からない。
シャクヤクさんの魔法だったんだろうって。
「だなー」
カランが【黎宙】に入団できたら、【黎宙】での活動後に食べに来るんだろうなぁ。
なんて。
その頃にはあの料理の名前も決まっているかも。
「今日は帰ろうか? 結構長居していたみたいだわ」
「そうだな、命の雫も沈もうとしているし」
それからエトワール・フィラントを利用して帰宅するカランとお別れした。
私は少しだけゆっくりと地上を歩いた。
この二日間、一人が懐かしくなるほど充実していたわ。
ありがとうって心の中で感謝しながら世世で帰宅した。




