第286階 二度目の命の雫の目覚めの日 魔法
「いやー、あれは受けたくないわ、ラナン!」
「正直怖すぎたり落ち込みたくなったり、
自分で自分が分からなくなりました……」
私達は訓練を終えてエトワール・フィラントが見える場所で休息をとっていた。
自然の鳴き声のすべてが心地いい。
ちなみに椅子や机は私が集然で作って提供したわ。
「私は『黎宙』の歴代最速入団者なので」
空気が切り裂かれる。
2人の表情が変わる、それは当然なのかもしれない。
それがたった一部だとしても、『黎宙』の誰もが届かなかった位置に私はいるのだから。
「やっぱ、ラナンはすげぇわ」
「......待ってください!」
特別護衛と黎宙を兼任できないなら
私は【黎宙】に入らなかったわ。
それぐらいにはクラに惚れ込んでいる自覚があるわよ。
「知らないわけないじゃないクラがね。
入団の時にオーニソ先輩に確認したわ。
両立させられるよねって」
「......いえ、いいんです。実力が何よりも大事な世界です」
「心配しないで。クラは十分に『黎宙』に入れるわ」
フユさんの表情が曇る。
それは嵐の前の静けさを予見してしまう。
そんな表情の失い方。
「そういうことじゃないんです......!!
お嬢様がどれだけの思いで自身を鍛え上げてきたことか!
転生してきて楽して強いあなたには言われたくないんです!」
そうだったわね。
通常の転生者は魂の浄化のために特別なスキルを授かって
本来の魂の輝きを取り戻していく、魂の治療を施される。
まるで御伽噺の天国のように。
「私は相手の力量を正しく計り認識する事と言ったわよね。
普通の転生者がクラを超えられるわけないじゃない、
『才能の魔王』が求める人材なわけないじゃない。
理解していてもそう言いたい理由を教えてくれるかしら?」
フユさんは口を噤む。
もう剣で語ることもできない。
「なんで、私はこんなに弱いんですか。
楽してでも何かにすがってでも強さが得たいです!
お嬢様のためになれるあなたが心底羨ましいです!!」
溢れていく、涙。
星が煌いて溢れるように。
フユさんは真っ直ぐに私から目を逸さなかった。
「託されて良いかしら。
貴女のクラを守りたい支えたいって気持ち、戦闘面だけで良いから。紡いでいきたいの」
フユさんは自身の涙を拭った。
強い瞳は私を捉えて逃さなかった。
それだけ彼女はクラを大切にしている、それが十分に伝わる魂の強さ、輝き。
「......理解はしていたんです。
でもお嬢様を支えて守り守護するこのお役目だけは譲りたくなかったんです。
私の誇りで使命で生き方だったから」
通り過ぎていく日常が変わっていく。
私との出会いでフユさんの日常が違う形へと。
私が特別護衛にクラから任命された本当の重みを
初めて理解できたのかもしれないと思わされてしまった。
「分け合えば良くね?
いやほら、みんな護衛の役割だし。
ラナンが寝てる間はフユさんとかさぁ、な!
それがいいわ! 絶対」
「そうですね、カランさん。
少しばかりラナンさんにお譲りして、私は自身を鍛えようと思います。それでは失礼します」
フユさんは走ってエトワール・フィラントに乗り込んだ。
乗車直前に見えた彼女の表情は、覚悟を決めた横顔をしていた。
「こればっかりはどうにもならないから、フユさん自身が決めると思うわ」
魔皇の寵愛を受けた私。
太陽人として優秀なほうなフユさん。
その優秀さに驕っては決していなかったはず。
「ラナンはその力に対してどう思うのよ?」
世世に対して、か。
とっても必要で、なくてはならない魔法。
魔法以上の存在かも。
「一言で言い表すなら特別な存在だわ」
カランは笑う。
私を肯定するように。
真っ直ぐに受け入れるかのように。
「どうしたのよ、カラン?」
笑みを浮かべてカランは何を思っているのかしら。
「いや、なんて言えば良いのでしょう。
特別だと表現できる時点で、ラナンは大好きなのね、魔法」
魔法が大好きかどうかなんて考えたこともなかったわ。
あって当たり前で使えなきゃ命さえ危ぶまれる。
私にとっては血液みたいなもの。
「カランの考え方好きよ。私の魔法はね、大好きよりも深いかもしれないわ。
魂のように」
考えていることをきちんと伝えられているかしら。
私自身も考えが及んでいなかった思考に連れて行ってくれたみたいだわ。
だって私にとって集然に世世は本当に身体の魂の一部なのよ。
「身体の……魂の一部ってか! そりゃすごい! 普通は学問とか技術とかそういう類の話なのにな!
私はそこまで至れてない! やっぱ師匠だよ!ラナンは!」
両手を優しく握られて上下に振られる、私は気遣われながら。
でも喜びを抑えきれず? にカランは表情だけは喜びをまったく抑えていなかった。
それに私にはやっぱ当たり前で、生きる一部だから驚くような見解だと感じてしまうわ。
「誇らしいわね、私の当たり前にそんなに色をつけていただいて。師匠として誇り高いわ」
カランは遠い目をして、その後に口を開く。
「私も魔法は好きで本で学んだり精霊から教えてもらった、
でも魔法は魔法だった。どこまで走っても憧れで遠くて夢幻で。
だからラナンも同じで、ずっとずっと遠いや」
カランの頬を伝う涙。
それは魔法に掛ける思いの結晶の欠片。
そんな気がしたわ。
私は集然に世世を得て生まれて生きてきたことに後悔はひとつもない。
魔皇が私に与えた恩恵を今日も明日も噛み締めて向き合いながら生きていくだけだから。
「ねぇカラン。何か食べない? 魔法の訓練は終わったし」
食べたら元気になれる。
そう、師匠として弟子への気遣いと
友への思いを交差させながら提案していた。
「お! お腹すいたわね! 何食べようか! ってここ何もなくない?」
ーーとびら つなぐ
世世。
カランは唖然とした表情で応えてくれた。
まったく、良い表情してくれるわね。
師匠の腕の見せどころだからね。
※
「エトワール・フィラントを利用しないってこういうことなんだな」
カランも潜り抜けてくる。
時成分不使用だから、感知もされないわ。
それに誰にも気付かれないならその方が良いわ。
「時魔法の応用ならやりやすいけど、負担面と影響力を考えると
エトワール・フィラントに乗って移動の方が良いんじゃないかしら」
時魔法じゃないの? とカランが咄嗟に口にしていた。
「時魔法は、基本広がる性質の魔法だから、制御にも魔力を割く事になるわ。
まぁ私は空間を切り取って王都に近付けているから、空間削減よ」
空間って削減できるものなのかとカランは驚いていた。
「手繰り寄せてつなげるのよ、泡の端と泡の端を繋げるイメージよ」
それって相当繊細なのでは!? とさらに驚いていたわ。
「その繊細さをこの手のひらの上で思うがままにする。それが私の得意な私だけの魔法の基本」
世世も集然も基本は何も変わらないわ。
世世になってから滑らかさはすごく感じるわ。
だからこそ使いわけが必要な場合もあると感じているわ。
「思うがまま、この手の上でなんて! ラナン! かっこ良すぎない!?
ずるいわ、その神髄! この一番弟子がものにしてあげましょう!!」
基本にして神髄ね。
良い事言うわね、本当に。
カランと話す事によって、私自身の私への理解力が上がるの嬉しいわ。
「お? ラナンさんではないか、そちらは学友さんかい?」
この声は、こんなところで会うなんて。
小柄でサイズの合ってないダボダボでヨレヨレの服を着熟している。
若草色の長髪がふわふわと揺らしながら歩いてくるのは金赤食の瞳のプラ先輩だわ。
「はい、プラ先輩。2人で何を食べようかと悩んでおりましたわ」
「ふむ…『人の稼ぎで食べるステーキは美味しい』を提供しよう…」
え、それって私達は奢られるってこと?
「まじっすかぁあああ!! ごちになりますわ!」
まぁカランはこういう性格よね。
ふふふ、面白わね。まったく。
「使い道がないんだ」
音も時魔法の時空の揺れもなしに少し背伸びした
プラ先輩は私の耳元に顔を近付けて、
きみに恩を売っておけたら投資金額なんて安いもんさ、と。
「分かりました、黙って素直に奢られますね」
※
「ドラゴンのステーキ……?」
プラ先輩に店だけは指定させてくれと連れられたお店で
カランが大きな口を開けて驚いていた。
お父さんが普通に狩ってるから普通だと思っていたけど。
「流通経路が特殊で……外界と取引しないといけないから
公にはされていないんだ……とは言っても、
君も火の四大貴族の護衛として、ね」
カランは何度も頷いていた。
いくらでも食べていいけど、口外だけは禁止って感じね。
声の声量は常に控えめ、でもプラ先輩はこういう時の一言にすごい重みがあるわ。
「ようこそ、ラ・プレンヌ・リュンヌへ。プラが招くなんて、ね」
私を視界に入れた? 全身真っ白ね。
背丈は、プラ先輩と並んだらほとんど大人と子供だわ。
彼女達とは違いミディで、それに顔立ちは大分柔らかいわね。
「貴女がラナンさんね。初めましてシャクヤクと申します、お会計は頂いたわ。
今日は好きなだけ食べていっていいわよ、もちろんあなたもね」
私とカランだけが、そのまま席へ招かれようとしていた?
「シャクヤクに用があったついでなんだ……友人同士仲良くな……」
プラ先輩はそう言い残して店を後にした。
少し寂しい感じもしたけれど、なぜ奢られたのか。
ほんとうのところは少しばかり謎だわ。




