第281階 念話の糸
西の大帝国の実家に帰宅して、部屋の寝具に寝そべってからすぐのことだったわ。
オーニソ先輩から念話の誘い。西の大帝国に張り巡らされた建造物の全てに
ひたされた予備の魔力をすべて把握した上で、最適解で繋げてくる。
彼女も西の大帝国の太陽人の名を冠されるに値する人物ということを
私は感じていた、あの七賢人達に比肩する才を有していると思えてならないわ。
今の世世なら外部干渉も容易く可能でしょうけど。
だけど他の技術ではその蜘蛛の糸の様に張り巡らされた糸を感じる取る事はおろか
切断して阻害、繋げて傍受なんて神々さえ不可能でしょう。
私は私の人差し指と親指でオーニソ先輩が念話の為に創りだした糸、実際は違うのだと
思うけれどここではそういう名称にしておくわ。
その糸の繊細さ柔らかさ温かさを指先で触れながら、神々さえ触れられない未知の異物は
オーニソ先輩の優しい声を。
「ラーーーナーーーンーーー!!五度目の命の雫の目覚めの日に集合ーーー!!!」
少しだけ騒がしい、あのままにそのまま伝えてくれる。
「急ですね、いいですよ。どこへ?」
何するんだろうって疑問が増えていく。
【黎宙】の新人だから新人向けの指導なのかしら。
あ、先輩から糸を通して記憶情報が送られてくる。
記憶情報は、時間の始点と終点を魔力で圧縮した物。
で今回は糸を通して送られてきた。
それは魔法液で書かれた紙きれはノートから一枚を切り取った物だった。
「今日より五度目の命の雫の目覚めの日に、黎宙本部で全部説明する
……というか顔!お顔!みせなさい、先輩は疲れています。
ラナンちゃんの可愛いお顔で癒されたいですわ、本部にはこれますわよね」
結局、私は顔を映す事にした。
『癒される』『可愛い』『ぬいぐるみにしたい』など、
賞賛よりの言葉が飛び出てくるのは予測できたから。
「えぇ、どうしようか迷ってます。先輩にお願いしても良ろしいのか」
やんわりと反応を知るために投げておくべきかしら。
いきなり世世で本部に行けても、
そもそもどうやって帰ったのか疑問に思われていても困るわ。
「一緒に行く?五度目の命の雫の目覚めの日にお迎えにあがりますわ!
確定ですわ!お迎えしつつ挨拶も兼ねましょう。
プラがお世話になったガーベラさんにも挨拶したいですし」
わお!ほんとにお母様は【黎宙】なんだわって実感わくわね。
「ガーベラお母様の事をご存じなのですね」
電球が付くような表情で反応するオーニソ先輩。
貴女も散々私に可愛いとか言いますけれど、可愛いいですよ!!と心の中で叫び散らしておきましょう。
いつか機会があれば本人に伝えることにしましょう。
「プラが大変お世話になったらしくて、そう話していたわ。
長く『黎宙』に在籍されていたみたいで、『魔女五傑』達とも
面識がありますわ。
魔女の方のキキョウ、あの娘は元気かしらねぇ。
危険な人物だと判断したから《くろい まほう》で斬り裂いたのだけれども。
人の悪意により反転した善なる毒は束ねられ、
極上の純悪と成り果てた黒き天星龍の雄叫びは悪を容易く踏み躙る。
だから彼女に、【魔女五傑】のキキョウには効いてるはず。
「『魔女五傑』達は元気なのかしら?」
「一名。療養中だと報告があがっておりますわ、はぁ。
ラナンちゃん?あくまで私的な調査では貴女の所持している黒色の剣による傷ですわね。
まぁ、その決着もフルール様と終わらせたみたいですし、
まさかフルール様が納得するとは思いもよりませんでしたわ」
あ、張り巡らせた糸で視えるんだ、オーニソ先輩でなければ悪人達が悦ぶ事がなんでもできそう。
私が形式上は勝利したことになるからかしら。ありがたく勝利報酬として受け取っておこうっと。
「剣を交えて想像以上に見込みあり。という判断ですよね?先輩!」
「先輩!?もっと呼んでくださいまし、ラナンちゃん!!
こほん、その『黎宙』全体がお咎めなしは、
正直な気持ちを吐露するなら意外過ぎましたわ」
オーニソ先輩の個人的な見識では、個人はお咎めなし、
組織的なペナルティありが落とし所だったみたいわね。
彼女は『黎宙』とは別の組織に所属していてなおかつ、ペナルティを操作できる立場。
それって皇帝の血縁、皇女様ってことかしら。
「どうしてそう思われたんです?」
オーニソ先輩にしては含みを入れた。
明らかに言葉にするかどうかの迷いだと思うのが妥当な線ね。
何を含もうとされたのか。ふふふ、少し楽しみね。
へ、糸の魔力強度を強めた?
「フルール様は『黎宙』時代から【魔女五傑】と
強い親密的な関係を構築されていたらしく」
プラタナス先輩から聞いた話しですけどね。
そう、オーニソ先輩は苦笑する。確かに一緒にいたわ。
何か特殊な関係があったとしてもおかしくはないわね。
「実際のところ、今も深く親交されているから。
国家での扱いはフルール様の私兵扱いですわね。
フルール様には皇帝、七賢人といえど逆らえませんから」
私兵扱いね。
剣術の腕だけならお父さんと普通に模擬戦が行える範囲でしょうか。
それを加味するなら、圧倒的な実力を持って尊敬されている、そう考えるのが普通かしら。
「逆らえないって?立場の問題なのでしょうね」
間があった。
とても不思議な間、なぜかしら。
「民の噂も真実も知らないのですわね。
不思議な転生者さんですわ。とにかく可愛いいし。
立場上は先先代皇帝の娘、皇女の立場になりますわ、これは真実ですわ」
皇女は予想通りに正解だったみたいね。
可愛いいは関係なくない?関係あるのかな。
「先先代皇帝はエンケラドスかしら」
なぜかしら、お父さんの師匠だから強そうだし。
それにあの白い出立ち本当に似ていたわ。
「本当に不思議ですわね、その名をご存知なんて。
そうですわね、その御方がフルール様の父君になりますわ。
ちなみに民達の噂というのは、フルール様は
創生神話の神々の一柱テラが生み使わした奇跡とされていますのよ」
繋がりがあったのね、オーニソ先輩の情報網ってどのぐらいすごいのかしら。
神話に組み込まれているなんて、よっぽど民に愛されているのね。
彼女。
「直に聞きますけど、先輩の情報網ってどのぐらいすごいのかしら?」
オーニソ先輩の情報網の裏って【黎宙】あってのものかしら、
それともオーニソ先輩独自のものかしら。
後者だと直接話しを伺う機会が必要ですわ。
「あら、とーってもいい質問ね。
私以上に情報網を構築できるなんて話は聞いた事ありませんのよ。
誰かの力を借りる必要性もありませんし……と今日はここまでにしておきましょうか?」
後者。
オーニソ先輩のひまな日はあるのかしら。
忙しそうといえば忙しそう、仕事を片付けるの速そうだわ。
「先輩、お暇でしたら食事をしませんか?
もう少し情報面でいお話を伺い?」
先輩の顔がめちゃくちゃ嬉しそう。
そんなに嬉しいの?
私と話すの?食事?
「いくーーーーーーーー!!!ラナンちゃんと食事にいくわ!
よし、三度目の命の雫の目覚めの日にしなさい!これは命令で
四度目の命の雫の目覚めの日は休み、いいわね!?」
命令って本当は物凄く好きじゃない。
そんな純粋な心を大事にして第一に考えても
オーニソ先輩の命令はなぜだか、とても暖かいものと思えたわ。
「そうさせてもらうわ、三度目の命の雫の目覚めの日は
どこを待ち合わせにしましょうか?
それに王院の授業ってどうすれば?」
私は首を傾げていた、思ったよりも知らない事が増えていたから。
待ち合わせと言っておきながら、オーニソ先輩と初めて会った場所しか知らないよっと。
本当に王院の授業は相当サボりなのでは?
「ラナンちゃん落ち着いて大丈夫ですわよ!先輩が全部解決してあげますわ!
王院の授業は『黎宙』への入団カリキュラムが組まれておりますので
特別課外授業を受けている扱いですわ。
待ち合わせは……お迎えに上がりますので、いうことでよろしいでしょうか?」
特別課外授業を受けている。
入団カリキュラムなんて素敵な響きかも。
ちょっと特別感あってそういうの好きだわ。
「分かりました!家で待ちます」
オーニソ先輩の笑顔がそこにはあった。
裏でどれだけ緻密な事をやってのけているのかしら。
本当になんとなくそう思ったわ。
「では三度目の命の雫の目覚めの日に!ラナンちゃんとデートです!!」
わぁぁぁ、めっちゃ決めポーズかまして
オーニソ先輩は念話を終わらせていた。
なんでそんなに嬉しそうなのかな、さすがにそんなに喜ばれたら嬉しい過ぎるわ。




