第261階 持つということ
生まれる瞬間の事だった。死を実感した、だから神聖な何かに出会うと思っていた。
そう本に書かれていたから、そんな記憶の様な曖昧な何かが浮上して顔を出していく。
私の知った現実に、神も仏も天使も悪魔も鬼もいなかった。
でも、私は魔皇に導かれた。
だけど、私は魔皇と共に在った。
そんな魔皇の口の動きに合わせて私は同じように動かした。
「生世死世完全成個」
そう唱えたあと、私は深い眠りから目を覚まそうとしていた。
『全ての人は才能を持つ。神々からの愛の証として…』
黒より深い闇の中で、初めての魔皇から言葉を受け取った。
「今日も、持てない」
その日の私はとてつもなく頭にきていた。
その日だけではなく、最近ずっとといった感じで。
嫌な事というか、乗り越えなくてはいけない事と直面していたから。
私は第七世界で言う小学生の年齢に達していた。
私は【集然】とお喋りは出来ないけど
通じ合っていると思っていた頃だった。
のちに【集然】は
私の意志や心、気持ちを何よりも尊重していた。
ただそれだけを絶対正義として行使していただけに過ぎなかったと気付く。
【集然】に問いかける。
意志に心、気持ちも薄い空気の様な私は
上手く扱えていなかった。
だからかろうじてハツミリア・ルイデの、
私の身体の生命を維持している状態だった。
同族がいれば最も弱く儚く、蟻の吐息で吹き飛ぶ様な存在だったはず。
ルイデを冠されたから私の為に
キレにナティラが
いかに心を砕いて当たり前を授けてくれていたかが分かるわ。
当時の私は、父に貸し与えられたショートソードと睨めっこしていた。
小さな私にはとても重かった。男の子なら振り回し、女の子なら持ち運べる。
そんな重たさの憎い奴。私の最初の最強の強敵。
この憎い奴が生きているなら鼻歌交じりで
自慢気な表情で見下ろしてくる。そう考えただけで頭にくる。
ほんと不愉快で憎い。
この頃の【集然】は
お父さんのショートソードだから壊してはいけない
の気持ちも読み取っていたのだと思う。
「お父さんは力で、お母さんは魔力で持てる」
その日は疲れてしまって早めに布団に入った。
寝具に包まれながら右手をかざして考えていた。
私はどうやって持つの。
「私はどうやって持つの」
考えていた事が無意識に口に出ていた。
問いかけが夜の闇を色濃くし、自然な睡魔に
すべてをゆだねた。
「僕以外は」
魔皇の声。
誰だか知らなかった。
それでも分かる、理解できる。
「だから、俺は創る」
不思議な陽光が降り注ぐ場所だった。
私の影として魔皇がいた、そんな気がした。
その降り注ぐ陽光は私の手にもたらした。
ーー白亜剣
ーー漆黒剣
そして、重なり合う。
ーー世死生 完全成
「私はこんな風に持つんだ」
和やかな光の中で、私は掴んでいた。
たしかな実感を肌の感触で感じる様に。
弱い私の力で握る事を許された。
「今日も、持てない」
父に貸し与えられたショートソードと睨めっこしていた。
小さな私にはとても重たい憎い奴で私の最強の強敵。
いつもと変わらない始まり。
「明日も」
そう言いかける。
でも思い出す、夢の中の出来事を感触を。
白と黒が重なり合う。
「もう、持っているから」
私は
斬り開いて
みせる。