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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
王路院編
260/262

第259階 魔女と黎宙のエース

 「まぁ、当然私と君か。話をしようじゃないか。スズラン」


 目の前の魔女五傑(マレヴォレント)は同意するように

腰の刀からゆっくりと手を放す。プラタナスからの戦意は感じ取れない。

彼女の事はなんでも知ってると言いたげな笑みを浮かべながら。


 「私に手傷を負わせておけば良かったなんて…後で後悔しないでよ」


 風が2人の髪を揺らしながら駆け抜けていく。

周囲の音が聞こえない訳ではない、見る事が不可能な距離でも

感じ取る事はできる。


 「させてみせるのか?先代とラナンキュラス以外は、

会話だけでも別に構わないはずだろう、個人の好みはおいておくとして」


 2人の間には隔たりがあった。

それは立場的なもので、2人で決めた事で。

譲れないから、『闘』で交えた。それすらも終えた。


 「そうね、あの方は優し過ぎるものね」


 友の様に。まるで今も、仲間で在る様に。

言葉を拾った、懐かしむ様に。

あの頃を、共に駆け抜けていた、あの日々を。


 「ねぇ、プラタナス。あの新人はこの状況を予測して、

キキョウに持続性のある手傷を負わせたのかしら」


 今を紡ぐ、隔てる溝を深めようとも。

決別した過去と相見えようとも。

はっきりと浮かび上がらせたい、このもどかしさを。


 「単純に一目見て危険だと感じたからなのでは?

『真祖』に手傷を負わせる事実も、驚きといえば驚きだが」


 オーニソが報告を上げていたから

知見としては知っていた。それでも、

それを起因とした今を噛みしめながら。


 「そうね、今も傷付いたあの子が帰って来た時は

酷く辛かったわ」


握り締めた拳が熱くなる。

血が通い、大切な誰かを想い言葉にする。

今の仲間を想いながら。

 

 「いつかやられるとは思っていた。

先代…フルール様は怒っているのか?」


 あぁ、これは皮肉だ。意地の悪い冗談だ。

誰もそうなる事を望んではいないのは理解しているのに。

誰に対して?何に対して?免罪を乞いたいのだろうか。


 「……怒っているし、泣いてもいるわ。悲しんでもいるし…

なんていうのかしらね。どうしようも出来ないのよ。

キキョウにも自分にも怒っているから……」


 言い切って遠くを見つめた。

言葉を紡いだはずなのに何も無い。

そう感じていた。空が唯々支配する。


 「……フルール様の言い付けを守れなさそうだから、来てほしい」


 ひりつく空気をゆっくりと裂くように

薄布を裂くように時空が綺麗に割かれていく。

長髪の黒髪は、彼女の踏みしめる歩と共に揺れた。


 「きみは『真祖』キキョウ………ではないな」


 似ていた。

だから、そう呼んでしまった。

静かな違和感を、置き去りにして。


 「えぇ、私は御姉様の『キキョウ』ではなくて、

妹のスノーフレークよ。忘れたの?」


 顔が瓜二つであるという記憶しか定かではなかった。

髪型は…どうだったのか、同じだったかもしれんという疑問で溢れてしまった。

2人は本当に仲の良い姉妹でよく一緒にいる。想起させるのはそんな姿だった。


 「いや、失礼だったな。謝罪しよう。

スノーフレーク」


 プラタナスは素直に頭を下げた。

スノーフレークは、快く受け取る。

そしてその口元は、どこか綻んでいた。 

 

 敬愛する姉に似姿を間違われた事自体は、

それはそれで嬉しい心境だった。


 「ところで、そのキキョウなのかしら。

言い付けを守れなさそうなのは」


 「少し違う気もするけど」


 状況を実際に目で見てきて

確かめてきたスノーフレークは

間髪入れずに答えていた。


 「あぁ、そうかもしれん。

そう思いたくはないが」


 プラタナスにとって

アマランサスの力については

正直思うところがある。


 「それで?距離はそれなりにあるわよ」


 風が止み、自然の音が消えた。

と同時に刀のぶつかり合う響きが聞こえた気がした。

それはまるで針が床に垂直に落ちたような音だった。


 「大丈夫、私がなんとかするよ。スズラン」


 手に持った妖刀【皆既月食宗近】。

その柄をしっかりと握り締め一気に引き抜く。

そこには音を殺したまま裂かれて、ただれた空間。


 見えるはずのない視界が広がり、

聞こえるはずのない音が、針が落ちた音が

まるで爆発したかのように音の魔法を弾かせる。


 未知の力に畏怖もあった。

速さと力は敵わない。でも。

キキョウには先が読めてしまった。


 アマランスの剣先の終着点。

足の踏み出す位置と速さ、迷いからの3手先。

まるでフルールさまにあしらわれる自分の様で。


「150%開放」


 そうアマランスがつぶやく声が、

薄く小さな音色がプラタナスの耳には拾えていた。

その直後。


 アマランスには、

はるか上空にあるはずの

【紅瞳】が視界に入って来ていた。


 それは月人達にとっての命の雫。

瞳の雫。

その異称『紅瞳』


 命の雫と同じぐらい大きさを持つ星。

命の雫の光を吸収し、転換、独特の光を放つ。

転換後の光の色が赤系統なため、紅瞳と異称される。


「ざーんねん、ねぇ」


 力を開放していたアマランサスが地に伏せた。

【真祖】キキョウが抑え込んだのだ。

こちらに気付いたキキョウはスノーフレークに微笑んだ


 天使の様な微笑みで。

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