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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
王路院編
259/262

第258階 真祖と漆黒の死神

「あは、まさか私の前に立つだけの実力あるとか思ってんの?」


 アマランサスに恐怖はないといったら噓になる、でも。


「光栄です、『真祖(キキョウ)』様。

貴女様とこうして力を交える事が出来る日が来ることがあろうとは」


 キキョウは目を細めた。

気に入らない。こいつもあのラナンキュラスも。


「ま、四肢を潰してもフルールさまに繋げてもらえばいっか」


 キキョウの能力はアマランサスの右足に襲い掛かる。

這いずる蛇のように彼女の足を狙った。

確かに、ラナンキュラスの黒い刃の影響で速度が著しく低下していた。


 それでも。


「生意気ね、スノーフレーク(いもうと)の『第六点五感(エイボン)』!!!」


 引き抜いた闇の妖刀【大典太光夜】でアマランサスの握りしめる【天命蝶】を受け止める。

あぁでも少し違うから、ちょっと得意げに私に向かって来ていたのか、と。


「透明な刃でも私には感じるんだよ、なめんな」


 完全に裏をかけたと思った事が愚考だとアマランサスは気付く。

初見であれば、その特異性に隙を見せてくれると期待した事。

それは淡い期待で、本来は可能性すら無い事だと思考を捨てた。


「…ご病気でしょうか」


「他人の心配してなんになる?甘ちゃんめ。

まぁ、支障はないから安心しな。

てめぇのくたばった面を見るのにはな!」


 四肢を潰す。

その意志を【真祖】と謳われるキキョウの意志を具現化するように、

血が踊る様に、アマランサスのその白く美しく細い手足を狙う。


「血の創造速度が速い…!!」


 苦しそうなアマランサスから、漏れ出た声を拾い上げた顔をするキキョウ。

その顔は醜悪な笑みで満ちていた。


「病気の影響って怖いわねぇ、本当の私の10分の1しか力が発揮できないもの」


 隙をついたようなアマランサスの剣閃に、

綺麗に整合していく【大典太光夜】、

そのまま天命蝶と重なり合いキキョウが押し返す。


「それでも、1mmたりともこわくないわ、あーっはっはっはっは」


 アマランサスは流石に口戦をしようとは思わなかった。

戦闘に集中したい、そう自然に思ったから。

それが体を成す様に構えに現れていく。


 キキョウは笑った。

そして放つ、圧倒的な存在感を。

対峙したアマランサスは息を呑む。


 これが【真祖】

これが【魔女五傑(マレヴォレント)

これが水の四大貴族史上最強。


「115%開放」


 キキョウの構えには隙が多くあった。

でもそれは美しい罠だと感じていた。

すべてが殺すための必殺へ誘い込むための構え。


 「へぇ…雰囲気変わるんだ、ちょっと面白いじゃない」


 アマランサスは握りしめた天命蝶と共に、

【真祖】の創り出した死の闇へと吸い込まれていくかのように。

真っ直ぐに駆け、振り下ろす。


 【大典太光夜】に吸い込まれる様に打ち下ろされる。

その刃をキキョウは羽毛の様に受け止めて流しいなす。

アマランサスの首に、黒く怪しく闇色に光る刃が舐めようと這いずった。


 次の瞬間、同様に自身の首に【天命蝶】の光状が舐めようと這いずった。

キキョウは自身の血流を強めて、躱す。攻撃を捨てた。

()()を感じたからだ、アマランサスに。


 「116%開放」


 およそこいつの出来る動きではない。

そう思考しながらも、血を走らせる。蛇の様に。

アマランサスの四肢をしゃぶりつくすために。


 「117%開放」


 捕まったら死に呑み込まれるほどに近付いてしまう。

恐怖に突き動かされ、前へ出るアマランサス。

好機なのに目の前のキキョウは笑み一つ漏らさない。


 「118%開放」


 躱された。目の前のこいつにも水の才が豊富にある。

だから才溢れる私の血に空気中の水分を利用して緩和させた。

二重の膜として蹴り、そう無防備だ。目の前のアマランサスは無防備。


 「119%開放。それでも死ぬかも」


【真祖】を目の前に死神の鎌がよぎる。

でも、そろそろ精神がもっていかれそうだと思考する。

自身の能力が、理解できない自身の才能に近い何かに。


 「120%開放」


 【第六点五感(エイボン)】とどう違う?

なぜこうも速度に力が上がり続ける?

【大典太光夜】を用いて打ち合う中で、頭と身体を的確に連動していく。


 踏みしめた右足が下がる。

糞っ、あの小娘(ラナンキュラス)め。傷が哭く。

あの黒い剣を恨めしく思いながら。忘却する。


 何もかもが著しく低下しているのを実感する。

いつもなら余裕で押し返せる、はずなのに。

力を流すために、下がった右足を利用する。


 いなして速度で攻勢に出る…はずだった。

いなしたまでは良かった。でも攻撃方向に光状。

彼女は合わせてみせた。この『魔女五傑(わたし)』に。


 大典太光夜と天命蝶は幾度もぶつかり合う。

互いに迷いなき斬撃に傷が増え、極少の血が雨の様に。

互いを濡らしていく血を刃への補強としてまとわせていく。


 意識と無意識の狭間で2人は同様に血を操った。

相手の五体を削る、それが勝負を決めると。

形となった殺意が空気を震わせ、刃を研ぐように。


 更に鋭く、深く鋭利に、研ぎ澄まされていく。

相手を死へと近付けるために、【技】が磨かれていく。

崩す為の緩、次斬を必殺にする為の空、隙を生み出す為の停。


 フルールさまあああ!!面白いじゃん!

心が歓喜する、嘘偽りなく。磨かれていく己を想い。

キキョウは乗り気でなかった自分を過去に捨て去って、


 心の底から楽しんでいた。


 疲労が置き去りにされていく。

骨の軋みが後方から嘶く。筋繊維の傷が深くなっていく。

互いに刃が邂逅するたびに痺れが全身をまとう。


 一刀で命を奪える。そう両者、信じて疑わなかった。

光と闇が分ける。奪ってきた命の数が覚悟を分ける。

頭では制御出来ていても、心は生者の世界を正としていた。


 アマランサスの心はキキョウを殺せなかった。

キキョウの心はアマランサスを殺してみせた。

赤が血が鮮血が白磁を裂く、痛みと共に【漆黒の死神】はより死神へと。


 「135%開放」


 キキョウの瞳には【神】が見えた。

同じ国家に住む自分達の知る誰かが創ったまがい物の操り人形、

七大神王とその種族達なんかではなく。


 想像を超えた異次元の速度を彷彿とさせる神の覇気。

目の前の小娘、アマランサスに抑え込まれて力が歪に溢れる。

本気の自分でないと、まるで届かない。キキョウは刹那的に気を散らしてしまう。

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