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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
王路院編
254/262

第253階 家族

 自宅に着いた時には、命の雫は沈みかけていた。


 「クラレット様…?」


 ガーベラお母様は驚いていた。当然と言えば当然。


「学友のクラレットです。いつもラナンキュラス様には、大変お世話になっております。

此度は明日の朝、早速ラナンキュラス様に『黎宙』の初任務が始まります。

なので、今晩は共に過ごしたく思い、お邪魔しました」


「いいのよ、いつでもお邪魔して。大歓迎よ」


「かのクラレット様が、ラナンの御学友として…

遊びに来て下さるなんて、身に余る光栄です」


 レサトお父様は、着席した私達を前に、少しばかり緊張していた。

お母様はというと、豆を焙煎した渋みと苦みのある黒い飲み物を、小綺麗で小さな器に人数分注いでいた。


「緊張なさらないでください。

ラナンには大変よくしていただいているので、

私で返せる何かがあるか、困り果てる毎日だったりします」


「私が任務に行くのが、心配なんだって」


 お母様は注がれた器を、私達の前に丁寧に置いていく。


「来たわよ。明日いきなりだなんて、違和感しかないわ」


 お母様は元【黎宙】。

よっぽど私、何かしたのね。

とっても可笑しくなってきたわ。


「『黎宙』の歴史を、すべて閲覧出来る私でも、知る限りの特例です。」


 クラが止めを刺す。


「クラレット様が、そう仰るなら。

何をしたの…ラナン…」


 まぁ、そうなるわよね。


「なんででしょう。想定より私の実力が高かったみたいですわ」


「そんなこと…あるんだな…才能開花の様な事。

私達2人は『飛人』と『黎宙』の中では平均だった。

努力せれども追い付けず、何度も苦汁を舐めた」


「それに、私の時代には、かの魔女五傑(マレヴォレント)が駆け上がっていったわ。

そして、プラタナス様のエース御就任まで、在籍していたわ」


 お父様も、お母様も、懐かしむ様に言の葉を紡いでいた。


「『飛人』と『黎宙』…両者共、大変に厳しい世界だとお聞きします。

それに国家の才能も集約されますし、

国家単位で考えていただけるなら、御二方もかなり優秀です」


「…そうよね。でも、それでも。

ラナンには『黎宙』への扉は開かないと思っていた」


 お母様は悲しみを隠した。

笑顔で。きっと普通に王院生として、終わる未来を望まれていたんだろうと思う。

アオナが運命を変えた?そうね、ラナンキュラスは一度死んでいる。


「生きて、笑って、咲いていてくれるだけで嬉しかったのに。

どんどん知らずに成長していく。皆を巻き込んで」


「…ラナンの言葉に私は支えられている。前を向けそう…そう思えるのです。

私達は七年前に大きな傷を負いました。それは国民の皆が思うところだと…信じて疑いません。

それでも皆が立ち上がり生きている。忘れたくても忘れらずに」


「ごめんね、クラレット様。貴女様が一番お辛いでしょうに」


「御言葉ですが、一番も何もありません。皆が皆…」


 クラは大粒の涙を零した。

すぐに彼女は涙を拭きとり、真っ直ぐに前を向いた。


「…ラナンは、これから『黎宙』として沢山の人々を救います。

それは国家としても、大変有益な事となります。

今回の任務は、大変なものとなるでしょう。でも本音を漏らすなら、私は正直止めたいです」


 クラの貫禄は想像以上だった。

誰もが言葉に耳を奪われる。


「でも、ラナンは帰って来てくれると信じています。

信じさせてくれるだけの才能を持って生まれてきました。

そして、磨き続けて今があります。だから帰ってきます」


 お母様の口元は微笑んでいた。


「いいかしら。クラレット様」


「はい。勿論です」


 お母様は落ち着いている。

乱れても焦ってもいなかった。

それでも落ち着かせたと捉えることができる。


「えぇ、それでは。

私達では、想像も出来ない様な、何かが起ころうとしている。

それに、ラナンは打ち勝てる。そう信じてくれるのね」

 

「はい、私の言葉に偽りはありません」


「なら、ラナン」


「うん?なにかしら、お母様」


「今日はしっかり食べて、備えるのよ。

それ以上は言わないわ」


「えぇ、勿論です。お母様」


 そうして、お母様の座っておいてという言葉に甘えて

私達は座ったまま出来上がるのを待った。

クラの頬を雫が伝う。


「…なんだか泣き虫みたいだよ、ラナン」


 自由に遊ばせておいた左手は絡めとられる。


「いいんじゃない」


「クラレット様がよろしいなら、いつでも遊びに来て」


「私もいつでも歓迎いたします」


 私、お母様、お父様。気持ちは一つだった。

火の四大貴族様として、偉いから。とかじゃない。

クラは支えてあげたいって、素直に思わせてくれる。


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