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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
王路院編
252/263

第251階 白と赤の花

「…」


「ラナンキュラスに国家勅令を言い渡しました。

記した物は渡しますが、此処に読み上げる。

右の者 ラナンキュラスの『黎宙』への申請において、反を示される者は国家反逆罪とみなす」


 赤い花と違える彼女と、白い花と違える彼女は邂逅してしまう。

ラナンキュラスの引いた引き金によって。


「…フルール御姉様、貴女様の仕業なのですか。

私のラナンを、どうするおつもりで」


 白い花と違える彼女は、口元を緩める。

それは、目論見が見透かされた事によるものなのか、

何らかの形を取ってでも、理解された事によるものなのか。


「火の四大貴族の現当主、クラレット様。

私はフロラと申します。以後お見知りおきを」


 フロラの礼は、所作は、息遣いでさえも。

クラレットから、心の平静を根こそぎ奪い去るには十分だった。

圧倒的な威圧感。ただそれだけが絡めとり食らい尽くそうと、した。


ーー神異特異

ーー十白亜 すべて

世治。


「ふーん、貴女達姉妹は揃いもそろって躾がなっていないわ」


 フロラの首元に【十白亜 すべて】の切っ先を添える。

と同時に、右手で倒れそうによろめくクラを支える。


「ラナンキュラス…様。かような態度で望まれる事を後悔されませぬよう」


 フロラは目を細めてくる。

私の人体としての、急所と心臓を見定めるように。


「フロラ、落ち着こう。

モンドに手を掛けようとしてるのは、流石に見破られてますわ」


 剣や刀は見当たらないし、感じとれないので。

抜き身と同時に斬り付けてくるつもりだったのかしら。

ただ、途中まで構えられた構えを見る限りは、私の首を落とすつもりらしいわね。


「きちんと舞台を用意するのでしょうねぇ。

それとも国家勅令ってのは、私をフルールっていう極悪人の前に引きずり出す為の、

片道切符っていうことかしら」


「…」


「…極悪人は訂正を求めます」


「では何故、クラが怯えているのかしら、フロラ。

貴女の顔を見るたびに。

()()()なのでしょう」


 小刻みに震えているクラ。

右手からクラの感情が伝わってくる。

それは畏れ。


「だめ…ラナン、行っちゃだめ。

いるいないの可能性の話を考慮しても、フルール御姉さまは強過ぎる。

この世の誰も勝てない。きっとそれこそ想像の産物でもないかぎり…」


 それで絵画の女神さまってことなのね。


「フロース。クラレット様を諦めさせるために、

モンドを抜こうとしました。彼女は察しが良過ぎる」


「クラ?大丈夫よ。

どんなに怖くても、私がいる限り、

まず2人が何か出来る事はないわ」


 二つの白い花は生け花の様に静止していた。

それに伴い、クラの呼吸も動悸も身体の震えも落ち着いてきていた。


「フロラ。私は非常に悔しいです、でもラナンキュラス様のおっしゃる通りです」


「貴女達2人も落ち着いたかしら?引っ込めてもいいわよ」


 フロースとフロラの2人は、お互いの顔を確認して、小さく頷いていた。


「ラナンキュラス様、妹共々落ち着きました」


 その中で、口を開いたのはフロース。

構えられた構えが、緩んでいくのが分かる。


「えぇ、そのようね」


 私は【十白亜 すべて】を戻した。

その直後にフロラはよろめき、フロースにもたれかかる。


「なんて圧なのでしょう、ラナンキュラス様。

貴女の剣は」


「お褒めにあずかり光栄です」


 私の皮肉に、

言葉を投げかけてきたフロラと、

フロースの2人の白い花は苦笑していた。


「クラ?大丈夫かしら。」


 私の腕の中で、あたたかな息遣いを灯すクラ。

私は彼女の心臓が、静かに脈を打っていく幸福に委ねていく。


「…本人では決してないにしても、

フルール御姉さまが圧倒されるのなんて。

なんて光景なのって思う」


 フルール御姉様。

彼女がクラに与えた影響の大きさを、

心の中の指を折って私は数えていた。


「これが未来の皇帝陛下たる貴女様の剣。

ラナンキュラスの力ですので」


 クラは微笑む。

まるで命の雫の様に。


「ラナンは、どこまで行っちゃうんだろうね。

私も追い付くよ。その高みまで。

そして、追い越し追い越されしようね」


 私も自然と緩んで、微笑みが溢れていく。

どんな表情に、彼女には見えたのだろう。

どんな風に、彼女には思われたのだろう。


「もう、追い越し追い越されてるよ」


 私の発した言葉の語尾は、自然と消え行く。

命の雫のようなクラの魅力に照らされて。

そして私の足りないところを、彼女はすべて長所で持っているんだわって。


 そう心の何処かでいつも思っている。

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