第246階 クラレットを慕う者として
「正直なところ、こんな風に2人きっりでお話する機会を設ける事があるなど
出会った当初は思いもよりませんでした…」
目を露骨に逸らされたり、恥ずかしそうにしていたり。
目の前のフユさんの複雑な心境が垣間見えるわ。
「ただの学友としての雑談でしょ?」
ただそれだけでそれ以上でもないような?
「そ、それはそうなのですが…」
私は王路院きっての、不動の大人気メニューを、口に頬張る。
いつも通りの美味しさに、大変満足している。
「クラは相変わらず忙しいし、今日は忙しくないのね?」
時魔法の授業以降、クラほどではないものの、フユさんも同じ教室の王院生に囲まれていた。
今日は珍しく彼女から声を掛けてくれ、今の状況にいたっている。
「えぇ、まぁ。ラナンさんとの時間を作ったというか、まぁ。
それに私とお嬢様では、魔法の腕に、天と地ほどの差がありますからね」
自分を卑下しているのに、なんだか嬉しそうね。
クラを尊敬しているを超えて、崇拝していると節々から感じるわ。
「それに今日は珍しく、カランさんとお食事をとっては、いないみたいでしたので」
カランね。
「カランはねぇ。授業の合間のこの時間は、食事を手早く済まして訓練しているわ。
そういえば、ちゃんと進んでいるわよ。戦闘指南」
フユさんの表情が明るくなる。
「それは良かったです!
アルタイル様の件において、ラナンさんの実力のほどは拝見させて頂きましたし。
カランさんが成長することで、お嬢様の護衛戦力の増強が見込ます!」
そういえばあったわね。全知全能使いの件。
七大神王のうち誰が転生したのかしら。とはいってもほぼ魂ごと地極に縛り付けてあるし。
縛り付けていないのは。名前は確か、シアだったかしらね。
右の人差し指をくるっと一回転させ、練って発動。
ーー認識断 かくり
世治。
転生者の話は、周囲に聞かれてはいけない可能性あるしね。
右親指を伸ばす動作で、練って発動。
ーー逆魔
星魔法。
対象を私から変換する魔法。この場合はフユさんへ。
右目で親指を見る動作で、練って発動。
ーー世視
星魔法。
逆魔の上に乗せるようにして包み込み【認識断 かくり】をフユさんにも確認してもらう様に。
「私達みたいな転生者は、他にもいるのかしら。
そして、答えて大丈夫なのは視えるかしら」
フユさんの顔が驚いていく。
「この認識を阻害する空間魔法…なんていうか神々しくて芸術的ですね…
時魔法の授業は、一体何なんだと説教をかましたいぐらいです」
感動したり、拗ねたりと大忙しだなぁとしみじみする。
「講義の魔法と、私が普段使いする魔法って相性が良くなくて。授業は授業かな」
相性というか、現状は完全なる下位互換なのよね。
講義の魔法理論の方が、微かに。
「なるほど、転生前に習得した魔法と、予期せぬ相互作用というか反発のせいで、上手く扱えないと?」
いい感じの理由ね。カランの状況と同じだけど。
「えぇ、そうなるわね」
「まぁ良いです、そんなところで。…それで他の転生者ですか。
おられますよ、把握しているのはアルタイル様です。
そして私の新入生伝統行事の相手です…」
フユさんはそのまま深く重い溜息を吐いた。
「それは難儀で」
「そっちも大概ですが…
ラナンさんは、アルタイル様を退かせましたもんね…
良い試合になりそうですね」
「あぁ、そういうこと。
オーニソ先輩の方が強いのね」
「ただオーニソガラム様を相手に、僅差で勝利したアマランサス様が、
アルタイル様に、辛勝した試合がありますからね。
辛勝とはいっても試合運びがですが」
「試合運び?」
「えぇ、アルタイル様の初撃での敗北かと思わせて、
何かしらの力を発動させ、以降まったく寄せ付けず完全完封ですね」
全知全能を覆したのね。
「何かしらの力?」
「はい、その力を用いて僅差でオーニソガラム様に勝利しました。
そしてアマランサス様はお嬢様の相手です…」
「クラの相手は、アマランサス御姉様なのね」
「勝てると思いますか?」
勝てるとまったく思っていない心意が、表情と仕草の所々から見え隠れしている。
どうしよう、良く知らないし。
でもクラは勝てそうだけど、フユさんは勝てる見込みなさそうとかになりそうだから、
ノーコメント風にしておくか。
クラは深淵に何かある。これは確信している。
これが開花すればと考えている。
「2人に関しては分からないわ。
カランはプラタナスさんでなければ、可能性が視えてきそうだけど」
まぁ、フユさんに関しては、大物食いはできなさそうって話に終着するかな。
「…カランさんはレアさんですね。
元現王院生の男性最強です。
アルタイル様に僅差で敗北し譲りました」
カランの持つ、ラズベリーと同じの第四魔法に位置する、
解析不可能な不能魔法の【ジンルイ】を下地にして勝つ方法か。
カランと打ち合わせしてみるかな。
防衛に関しては、かなりいい線行くと思うし。
あとはカランが、転生して持ってきた手札に何があるかってことかな。
「まぁ。様子見ってことで」
「…鍛えている間に何か才覚のようなものが、カランさんにありましたか?」
試案中だし、限度はどこまでなのかも未知数だから。
まだ詳細は話せないわ。
「まだ開花中ね、なんともいえないわ」
「…そうですか。私はどうすれば強くなれると思いますか?
お嬢様は皆から期待されていて。これからどんどん強くなっていくと思うんです。
でも私は…」
確かにクラは、どこまでも強くなれる素質を秘めているかもと思う時がある。
その素質は、フユさんにとって自身の成長が霞むと思う。
優秀だとは感じるけども。
「私は正直なところ、フユさんの技能や才能に関して、何も知らないから何も言えないだけで。
まぁ一つ言えることは、そのお嬢様と比べるようになったら闇に堕ちるわよ」
「…!」
「それはございません。私は何よりも誰よりも、
いついかなる時もお嬢様をお慕いし、崇拝しております」
まぁ、こんな調子なら大丈夫なのかも。
「共に頑張りましょう!、クラの栄光のために」
「はい!ラナンさん」