表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
王路院編
243/262

第242階 王墓イヴェール

 少し横になりたいです。

そう、クラに告げていたのはネモフィラさん。


 ここは王墓イヴェール。

 この国を創り、導いた最も偉く尊い人物たちが眠ると伝わっているらしく。

王宮に次ぐ重要な建物だそう。


 クラ曰く様々な重要な設備が揃っているらしく、医の力を借り受けるために

目の前にあったこの王墓に足を運んでいた。一般的には希少な歴史的建造物で、

裏の顔である魔法科学の粋という顔は四大貴族以上にしか認知されていないらしいけれど。


 ネモフィラさん達を直轄部隊【藍】に引き渡すことになっている。

その待ち合わせをしている。


 希少な歴史的建造物としての価値は非常に高く、

壁画から天井にはすべてがつながるような絵が描かれている。

その中には彼等彼女等が含まれている。


「つい最近ね、お父様も加えられたの。お母様の横で一緒に眠っているわ」


 穏やかだった、悲しみの嘆きではなく。

静かに深淵の深緑に咲く小さな白い花のように。


「クラ」


「大丈夫よ」


 私の心配している顔に、彼女は何事もないように答える。


 そこから近代に近い場所に五人の女性の絵。

女神や天使のようだとは感じられなかった。

そのうちの二人はさきほど交戦した2人によく似ている。


 それに一人の白き女神の様な絵。

なんだか似ている様な。

ソレイール・アンジュで出会ったフロラとフロースに。


「ラナン、そちらは『魔女五傑(マレヴォレント)』に『命の雫の見続けている夢』よ

月人達との争いで活躍したから」


「あれってプラ先輩!?」


 クラはいたずらが成功した子供の様に笑う。


「そうだよ!オーニソ先輩にアマランサス御姉様もいずれ…描かれるでしょう

ねぇ、ラナン。あなたも…」


 クラは恥ずかし気に少し目を私から逸らす。


「御言葉ですが皇帝陛下。私めは皇帝陛下の剣として

共に描かれる所存でございます」


「騎士ラナン。大いに期待いたします」


 クラは命の雫のように、咲くように笑う。


「そういえば、もうひとつ見てほしい絵画があるの、

行く?」


 私は差し出されたクラの手を握る。


「えぇ、お供するわ」


 時魔法をしみ込ませた床に足を差し出し、私達は地下へと向かう。

地下といっても地面の中ではなく、魔術的な意味合いでの下に向かっている。

物理的な移動距離だと星の中心をすでに超えている。


 「着いたよ」


 私に思い浮かんだのは既視感。


 「玉座の間」


 私はほんとうに小さくつぶやいたのだけれど

口にすべきではなかったと思ってしまう。

それぐらい表面的には似ていた。


 「知っている?ここは()()が唯一届かなった高み。

そしてラピスラズリの瞳と髪が特徴的な中心に描かれている少女」


 私はこの少女を誰よりも何よりも知っている。


「かの勇者を描いたのは七人の画家。彼ら彼女は立ち上がるために描き続けていると聞いているよ。

今もすべての時間を塗りつぶすようにと聞くわ、誰も会えないから。どちらも」


 中心に白と黒の入り混じった剣。


「私はこの場所に導かれた。それがなぜだか分からない。

この場所は誰にも知られていない私一人の居場所。

ここに来るとすべてが洗われていく、女神様の光に」


 私は何も言わなかった。


「私以外誰も来ることができなかった。

私が知る限り、そんな場所。

ねぇ、ラナン?ずっと一緒にいてね」


 女神様か。


「さぁ、もどろっか」


 私は立ち止まる、それにクラは気付く。


「ねぇ、クラ聞かせて?」


 クラは振り向く。


「いいよ」


 そして咲くように笑う。


「なぜ少女を女神様だと思ったの?」


 私には少女にしか見えなかった。ただ単純に。

一瞬、空気が張り詰める。


「フルール御姉様を凌駕できる。そう思えたから

それに可愛いなって」


 フルール。初めて聞く名。


「『命の雫の見続けている夢』を」


 【命の雫の見続けている夢】。


「ねぇ、クラ。大丈夫よ」


 私は安心させたかった。

クラが抱える何かを包み込んで溶かしてあげたいなって。


「へ」


 きっとその女神は微笑むって。


「かの勇者は凌駕できるわ」


 きっとその信じる心に寄り添えるって。


「なんだか御伽噺みたい」


 きっと女神様はすべての力で救うんだって。


「もどろ。教えてくれてありがとうね、クラの事」


 クラは恥ずかし気に少し頷いた。

そして私達はみんなのいる階へ戻っていった。


 最初に出会ったのはネモフィラさんで、真っ先に彼女は念話をつないでくる。

念話の魔力がどういうものかはオーニソ先輩のおかげで知っているから、はじかずに繋げていく。


(「いきなりなのですが、私とアガとユハニスで話し合いましたです」)


 伝えようとする力は弱弱しく、それでも伝えようとする健気さを感じる。


(「さきほどの戦闘のことね」)


 ネモフィラさんは小さく頷く。


(「はい。ラナンさんの事は伏せて、2人に見逃してもらったとして報告しようと思います。

これ以上ラナンさんが、上層部に目を付けられても面倒な事が増えるだけだと思いましたです)」


(「えぇ、助かるわ)」


(「相談の事後報告だけどよろしくお願いしますです。あとでちゃんと3人で御礼はしますので」)


(「気長に待つわね。まずはネモフィラさんの自身の事を一番に考えて。心と体、両方を)」


 ネモフィラさんの目尻に涙が浮かぶ。


「はい…です」


 彼女は可愛らしい兎の描かれた綺麗な布で手稲にふき取る。


「お嬢様!」


 足早にこちらへやってくるのは、フユさんにカラン。

2人はネモフィラさんと私に軽く会釈をする。

ネモフィラさんと私も会釈を返していた。


「早速ですが、カランコエさんをお嬢様の護衛候補として、ラナンさんの隊列に加えました!」


少し頬が赤くなっており、照れているカラン。


「いいの?」


 クラはとても驚いていた。

かくいう私も。

だって、カランは縛られるのを好まず自由を愛してそうだもん。


「まぁ、そういうこと」


 カランはそう言って膝をつき頭を下げる。

その所作は流れるように凛々しかったわね。


「承りました。よろしくお願いします、カランコエ」


クラはそう言って、カランの頭を上げさせている。


「ラナンは大丈夫?」


 大きな瞳で頼む様に問いかけてくるクラ。

むしろ心から嬉しいとしか思えないわね。


「私?大丈夫よ。むしろ朗報すぎて」


 クラは喜んでいた。

花が咲くような笑みで。


「不躾ですが、ラナンさん」


 フユさんから唐突に声を投げかけられ、少し驚いたわ。


「なんでしょう?」


 カランがなんだか、もじもじと言いにくそうな事を、

代わりに言ってもらっている態度を隠そうとしている。


「カランさんの戦闘指南をお願いします」


 なるほど。


「いいわよ」


 私の手はしっかりと握られる。

私は唐突なカランの好意をそのまま受け入れる。


「ラナン!!ありがと!そして、よろしくお願いします!」


 カランの目はすごく輝いている。

そんなに喜ばれるなんてと思いながらも、カランに必要とされることにとても心地良いと感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ