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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
王路院編
241/262

第240階 血の夕刻  ー ネモフィラ視点 ー

 今日は王都へおでかけ。


「ふん♪、ふん♪」


 歯磨き終わり!いつもの白い歯です。

襟を整えて、洗ったばっかりで綺麗。

靴も確認して、昨日磨いて綺麗。


「持っていく物も確認っと」


 昨日の夜に机の上に出しておいた、必要な物を一つ一つ鞄に入れていくです。

最後に私のイスベルグカード、”ネモフィラ”。


「よしっ!今日はきっと世界で一番可愛いはず!」


 一昨日磨いた鏡で私を…

口角を両人差し指で上げて、と。


「笑顔も大丈夫そう、きっとバッチリです」


 エトワール・フィラントに乗れる場所へ行って、乗り込む。

難しい言葉で表すと、転移を軽くして長距離を移動させる鉄の箱。

簡単な言葉で表すと、バッとして、きらーんとして、ぴゅー。


 待ち合わせの場所に最も近い扉が開く。

出口付近に…いた!こっそり人混みに紛れながら近づくです。

私は得意ですよ、【藍】仕立ての忍び寄る技術。


「だーれだ!」


 油断して座っている彼の目を、すかさず塞ぎましたです。


「ネモフィラ!?ちょっとまて!驚かすなよ」


 慌てふためいて大勝利です。

彼は無理矢理にはほどこうとはしないです。

やっぱり私が手を引っ込めるまで待ってくれる。


「にひひ」


私はとても満足です。


「だってユハニスが良くないんだよ。こんな可愛い美少女をほっておいて、

また推しのことを考えていたのですよ」


 誰よりも可愛いかというとさすがに自信はないです。

でも。


「いや!考えてない!今日だけは!絶対に」


 いつも可愛い彼。


「え!?昨日は?」


 私の事を見て、考えてほしいって気持ちが先行する。


「ずいまぜん。考えてました!」


 誰の事なのかは明白です。

なので許しましょう。


「すなおでよろしいです。さっ行こ!」


 私は彼に手を伸ばした。

彼、ユハニスは恥ずかしそうに手を握り返してくれる。

内心、私の心臓はドキドキしてる。


 私達は幼馴染で、恋人同士。

そして共通の推しがいる。その名はアマランサス様。


 火、水、風、土の四大元素からなる尊い血筋、四大貴族の御生まれで、

第二次世宙において最強と称えられ恐れられた黒空の後継、【黎宙】のエース候補を謳われているのです。

その実力は現王院生の中でも無敵、敵なしと謳われ賞賛されるほど優秀で素晴らしい御方です。


「今やアマランサス様は2番になった。

ネモフィラがいるからな」


「最高にば-かなのです」


 そう言って私は顔を伏せる。絶対に真っ赤。

そんな私達がこれから行くのはもちろん!


「来たな。アマランサス様の練習試合」


 会場の熱気に押し戻されそう。

ユハニスが手を引いてくれていなかったら、前へ進めなかったかも。

緊張も張り詰めたままだし、心臓の鼓動も鳴りやまない。


 そして私は目にする。

薄暗い廊下を2人で駆け抜けたあとに。


 生アマランス様。


 会場の中心地からは遠く、とても小さい。

だけど顔の輪郭から手足の長さまで、現実の生きている情報が私に流れ込んでくる。


「来ました!って感じです。そしてアマランサス様は今日も黒!」


 はぁ~、なんて綺麗な長髪の黒髪。


「あぁ、全身黒だな!」


 そうです。アマランサス様は黒の戦闘装束を好むのです。


「あの強さで同学年だなんて嘘だよな」


 そうなんです。

なんとアマランサス様は私達と同じ二年生なのです。


「綺麗さ、華やかさ、容姿ばかり一年生の頃は評価されていましたね…」


 確かに憧れちゃうほど美しいんです。

不慣れで苦手な戦闘訓練に努力していたアマランサス様も可愛いんです!


「…あの試合で完全に惚れたよな」


 アマランサス様への戦闘力に対する評価が一変する王路院の公式試合。

最初はもう…


「ですです。一年生最後のあの試合」


 努力が実を結ぶ。

陰で憧れていて応援していた私にとっては、叫ぶほどガッツポーズした出来事。


「「風の四大貴族のアルタイル様がふっかけたあの試合!!」」


 会場はすでに満員です。

それはもちろん予測済みで指定席を…



「…ガキの元気いっぱいはお腹一杯だよ。ルス」


「見たいつったのはてめぇだろうが、ルート」



 私は目を合わせないように通り過ぎましたです。

それはきっとユハニスもおんなじ気持ちだっと思うのです。

だって、首筋に汗が見えている。私も、人のことは言えないけれど。



「へぇ…収穫あんじゃん」



…席は運よく遠く離れていました。


「ぷっはー。息が詰まったなネモフィラ

まさか、悪魔五傑(マレフィックス)のルスさんとルートさんが来ているなんて」


「注目されるって大変なことでもあると痛感しました」


 2人とも悪名高い実力者です。

戦地でのあまりにも苛烈な戦い方で。


「もしもの時はなんとかしてやる…」 


「…期待してる」


 ユハニスは震えていた、それ以上に私も。


「切り替えて、試合!見ようぜ!」


 アマランサス様は【黎宙】の後輩との連取試合だそうです。

同じエース候補のオーニソガラム様との練習試合は最高の試合です。

現エースのプラタナス様はまた次元が少し違うので。


「…はい」


 …観戦中、安心させてくれるようにユハニスに握られていた手のぬくもりは温かったです。

それにアマランサス様の戦う姿は凛々しくて、【藍】での練習を頑張ろうって心の底から思えるです。


「最高だったな!」


 笑顔のユハニス。

やっぱりこの表情の時が一番好きです。


「うん!」


「次はオーニソガラム様との練習試合に来ようぜ!」


 絶対行く!!!

心の中でそう叫ぶ。

でも、さすがに恥ずかしすぎるのでなしです。


「約束…」


 私は恥ずかしさのあまりに顔を伏せて、

利き手の小指だけ差し出したです。


「あぁ」


 約束する指と指が重なり交差していく。

ちらっと確認したユハニスの頬は真っ赤だったです。



 …この時まではずっとこんな風に続くと思っていました。

嫌な予感ばかり増幅していく、こんな日は二度とこないです。


「なんか景色おかしくね?」


 帰宅途中のことです。

 ユハニスの不安そうな気持ちを隠す表情に、

泣きそうな気持を必死に理性で押さえつけましたです。


「です…」


 なんらかの結界に入ろうとしている?

【藍】で扱う魔法に近似していて…でももっと高密度で薄く頑丈な。

とりあえず、アガに緊急の連絡を。


 たぶん、とってもなにか良くない。

私の実力では対処できないそんな危険信号が、

嫌というほど頭を支配して離れない。


「ねぇ、その美形の彼をくんない?

いや、もう私のものか…あはは!」


 急に現れた誰か知らない人物。その彼女の黒髪ボブの髪は小さく揺れる。

とても小柄で肌が月の光の様に薄く白く、私の抱く恐怖を映し出すほどに綺麗。

その容姿を知っている…でも記憶が無理やり蓋をしようとする。


 そして分かりたくなかった。


「まさか…真祖……」


 隣のユハニスが、震えながら口にしたのは、

教科書に掲載されるような人物。

でもそれは決して華々しいだけではなく。


そしてもう一人。


「…クラレット様を裏切った…」


 アガ…助けて…


「お嬢ちゃん、認識相違。裏切ってはいない。元々私はこっち側の人間なんだ」


 その声に言葉に、温かさも思いやりもなかった。

ただあったのは冷たく斬り捨てる昔の主君への現実の鈍い音。


「てめぇの昔話で盛り上がるなよ」


 この二言目で【真祖】の性格は見て取れましたです。

自分が注目と脚光を浴びていなくては許せない。

自己愛と自分中心の極致、その極端さの暴走している個。


「キキョウは嫉妬深いな」


 勝ち誇ったような笑みで隣りの彼女を揶揄う彼女。


「ふん、言ってろ」


 2人同時に腰に付けている刀に手をかけた。


「逃げろ!ネモフィラ!!」


 ユハニスは私を庇うように一歩前に。


「あーっはっはっは。女いらないんだよね。顔ばれして事実を教えちゃったから結局のところ消すけど」


 笑みから一転、醜悪な殺意を剥き出してきます。

そのあまりの恐ろしさに震えが止まらないです…


「必要なのは隣の王子様ってことだよ、お姫様」


 はやい…

その攻撃は殺意を持っていた。確かに私の身体の一部を持っていくような。


「グロリアスぅ、これ以上はめんどっちいの増えそうだから。

もう面白いのも引っかかったし、誰も入れないようにするわ」


 完全に断絶されて閉じ込められた…?

あわよくば逃げられるかも、そんな小さな小さな救われる可能性を断ち切られたような気がして。

なぜか、そう強く感じずにはいられなかったです。


「立ち止まるな!!!ネモフィラ!!!」


 私は恐怖で竦んでしまっていたです。

そのせいで、庇ったアガが目の前で攻撃を受けてしまう。

真祖の攻撃を受け止められるという希望が絶望に変わるともに、何かが軋む音がしてアガは後方に吹き飛ばされてしまう。


「…直轄部隊も大したことないね。【黎宙】も見た感じダメみたいだったし」


「それは同感だ。そうだなキキョウ、腑抜けているな。すべてが弱すぎる」


 グロリアスと呼ばれた彼女がユハニスに近づいていった。

それは死神が近づいていく風にも思ってしまえていたです。


「へ…」


 一瞬だった。

目を背けたくなる何かが目の前に広がる。


「別に生死問わずって感じだけどさ、綺麗な顔してるんだからぶっ壊さないでよ」


 ユハニスに彼女の腕が突き刺さっていた。


 出遅れたです…でも…アガが…敵わない…なんて。

私は悔しかった、何も出来ずに。

ユハニスが苦しんでいる事実を直視できずに。


「がふ…ネモフィラ…にげ…ろ…」


 ユハニスは先の攻撃の影響で吐血する。

ユハニス、死なないでと祈る事しか出来ないほど私は震えていた。


「あははははは!私もそんな風に愛されてみたいわ!」


 明らかに嘲笑された。

必死に振り絞ってくれたユハニスの思いを。


「ゆる…さ…」


 恐怖を抑え込んで武器を取り出し、

強く握ろうとした…


「誰が誰に向かって舐めた口を聞こうとしてんのかね!」


 次の瞬間、私は宙を舞っていた、全身に殴打を受けて。

最後に強い打撃を受けて吹き飛ばされたみたいです。


「ネモフィラ!!!」


 落下速度の時を遅くし、地面に叩きつけられるのだけはなんとか避けれましたです。

血の味がする…歯の欠けた部分が痛い…


「へぇ…『藍』のあっちは根性あったな。まぁ根性だけあってもな」


「あっちも私が消してやるよ、あははははは!!!」


 全身痛くて、もうダメで、苦しくて、見づらくて…

でもうっすらとアガの隣に立っている彼女が見えた。


「なぜ…これた?ラナンさん」


にげて、ラナンさん。もう誰も…傷ついてほしくない…です。

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