第235階 2人
第七世界「地球」の言語で例えて火、氷、雷と3日間の授業を終えた日。
知らないような知ってるような、不思議な2人に呼び止められる。
「アガパンサスです。ラナンさんお一人で私達2人にお時間をいただけませんか」
「ネモフィラと申します。可愛らしいと思ったのでお願いします!」
「ふーん、いいわよ。明日はお二人も休みでいいわよね」
2人はうなずくと同時に場所を指定してきた。
命の雫が昇り、私はとあるお店に着いた。
王都ネージュのなかでも人通りが少なく、発展していない場所に位置づけられている場所で、その店は経営を行っていた。
完成されていない建造物が並び、海に隣接している。
空気は青白く、ひんやりしていた。
とても冷えていて、私自身に集然が自動発動し温めてくれていた。
店の扉を開けると青基調の服に身を包んだ2人がすでに座っていた。
私はネモフィラさんに案内されて席に着く。
くつろぐことを第一に考えたようなソファーの座り心地はよく、睡魔が忍び寄ってきていたのは内緒。
自然素材でできたテーブル銀色の鉱石を加工して作られた高価なフォークとナイフ、それにスプーンが添えてあった。
「直轄部隊の『藍』ということでいいわね」
2人は同時に驚いた表情を隠す。
「ゆっくり食事と会話をしながら、気付いてもらおうと思っていたのになぁ」
そう言いながら珈琲に卵が使われた3人分の軽食を頼んでくれるアガパンサスさん。
「まったくです、なにがきっかけなのでしょうか」
「瞳、ネモフィラさんの」
所作とか動作とかもあるけど。
「瞳…確かにすでに目が合っていましたね。刹那的でしたけど、盲点でした」
ーー精身体 全把握
世束。
アガパンサスさんとネモフィラさんの心に精神に身体は健全そのもの。
「大丈夫と思うよ。御二人とも斬っちゃったけれど、特になにもないかしら?」
2人は驚いた表情を隠さなかった。
「そこまで把握されてるんですね、逆に話が早くて助かる」
「特に後遺症とかはないのですが、友人として交流できないかなと思いまして」
純粋な思いだと感じる。
「いいわよ」
「うれしく思います!よろしくお願いいたします」
「私もよろしく!」
小さく2人に一礼される。
「さっそく聞いてみたいことがあるのですが…その強さの秘訣を」
ネモフィラさんの瞳はとても真っ直ぐ。
「まず周囲の皆さんを吸収したら?最高位に強いでしょ、まとめ上げている彼女」
空気が変わる。
「彼女…?とは誰でしょうか」
「ラナンさんは、どこまで把握されているのかな」
ーー球断絶 時空切
世束。
真理、法則、時空から空間を球体型に切り離す。
「結界を張ったわ。そっくりなのよね。二本の短剣を操る第六次世宙の皇帝の体術に」
「結界を感謝する。そこまで知っているとは」
通信系の遮断を確認した、と動作から読み取れる。
「アガパンサス、第六次世宙の皇帝はもうすでに天寿を全うされておりますよね?」
「ネモフィラにはまだ会わせていない」
ネモフィラさんは困惑していた。
「意志はご存命なのよ、ネモフィラ。
そしてその意志と共に、生きる使命を全うするのが直轄部隊の『藍』」
「意志を受け継ぐ…そんなにすごい組織だったなんて、とても光栄です」
アガパンサスさんは一息つく。
「確かに藍の体術は艶やかで艶めかしく蠱惑的だけど、それだけで気付けるものなのだろうか」
「流れる水の様に動きが洗礼されてるわ、その動き。
だから目立つ。歪な素人からしたらかなり流動的なんだもん」
「確かにそうかもしれない」
そう言いながら、アガパンサスさんは笑っていた。
「分からないはずなんだけど、分かる人には分かってしまうそんな体術なのよね」
アガパンサスさんのお皿は真っ白になっている。
「先輩方皆様、世界に溶け込まれているように身体の動きがなめらかですもん!」
ネモフィラさんのお皿には半分残っている
「そうだね、目指すところはそういうところだからね」
3人が同時に珈琲のカップに口を添える。
「どうだい?ネモフィラが好きな味なんだ。私がここの店長でね」
喫茶『鯨頭庭園』
たしかに店内に入るときに鯨の頭の上に乗っかるような気持ちを少しばかり抱いたような気もする。
「えぇ、とても美味しいわ」
苦くもあり、甘くもある。
それでいてしつこくない。
「私は苦いのが苦手で、でもアガパンサスの珈琲は黒のままでおいしく飲めるんです!」
「最高のほめ言葉だよ、ありがとう」
「このような人があまり来ない場所に店があるのはなぜでしょうか?」
苦笑し、納得するような表情に変わるネモフィラさん
「苦手なんだ。人が多いことは。それに『藍』のみんなが集まる場所でもある」
アガパンサスさんは人混みが苦手な事を知っていた、ようね。
「アガパンサスは静かな場所を好むので。それに利益を第一とした選択ではありません。
運用資金は『藍』がすべて出資しています。
『藍』のメンバーは『鯨頭庭園』で自由に飲食できますね。
それに、外部に秘密裏にしておきたい情報も飛び交うので、都合がいい会議場所ともいえます。
休みにすればですけど」
「ネモフィラの説明通り。だからといって、ラナンさんから支払いをもとむことはないよ」
「そこは私たちがお誘いしましたので」
花が咲くように笑顔なネモフィラさん
「『藍』の拠点の一つという俗にいう国家機密レベルの情報をいただいてしまったわけね、私は」
「すべての直轄部隊の任として、四大貴族の主要人物の護衛は最上位に位置いたしますので」
「私達からすれば、クラレット様は雲の上の人なんだ」
「私達には見極める必要があります。クラレット様が新しい護衛を申請いたしましたので」
「私を」
2人はうなずく。
「クラレット様は、周囲が護衛を増やすことを助言しても、聞き入れることはなかったのです。
その一点に関してだけは、アマランサスさんもかなり頭を痛めていた御様子で」
「フユさんは?」
「彼女はとても優秀ですが、やはり一人では限界がありまして…」
「万能な彼女ではあったけど、戦闘力は直轄部隊には著しく劣る。
クラレット様の護衛として最適なのは、
かの黒空の後継『黎宙』から直接的に入団を求められる人材。
ラナンさんにはそこを目指してもらう」
「もし達成できない場合は?」
「実は私達…『藍』から直接打診を受けて入団している、それなりの実力者なのですよ」
ネモフィラさんは、御自身とアガパンサスさんに、小さく指を向ける。
「…私達を軽く狩っていておいて何をいう」
ネモフィラさんは笑みを絶やさず、アガパンサスさんは苦笑されていた。
「やっと、アマランサス様の苦労が報われる光が見えてきたと思うと、肩の荷が下りるよ」
「クラレット様のこと、実の妹の様に可愛がっておりますもんね。アマランサスさん」
「そうだね、ネモフイラからよく聞かされるよ」
お店で話しかけてきた、黒髪の先輩ね。
「お二人はアマランサスさんとも、交流があるのですね」
「そうですね『藍』として、それに」
「強いからな。アマランサス様は『漆黒の死神』と謳われるほどに」
「アマランスさんは黒の戦闘装束を好まれるのですよ。それに」
「あの本気の時の速さ。その速さで狩るから」
「だから漆黒の死神さんなのです」
ネモフィラさんはファンが作った動物に模したぬいぐるみを見せてくれた。
「本人の御尊顔は使用不可なのですよ」
犬に猫、鷲の顔に共通の衣装が着せられていた。
「可愛い」
「ですよね」
空気はほのぼのとしていた。