第229階 彼女
入学式典後の教室では、名前と一言だけの簡易的な自己紹介、明日からの大まかな予定に支給品の説明、教材の自宅への送付手続きが行われた。
かくいう私は、入学式からの教室なんてものには、懐かしさと今後の不安がほのかによぎっていく。
あの時は大変だったなぁ、と。
「緊張してる?」
クラレットが覗き込んでくる。
「ん、ちょっと距離」
彼女は神々しくて眩し過ぎる。
「へぇ、冷静ね。フユなんて炎の様に顔を真っ赤にさせるのに」
「お……お嬢様…」
顔を伏せながら恥ずかしさを必死に隠している様子が見て取れる。
「それにお嬢様!特定の相手を御贔屓にするのはいささか礼節に欠く行動かと…」
「それはそうね。フユはともかく」
彼女は髪をかきあげ、自席に戻って行く。
その行動一つで教室中の生徒達が息を呑む。
ほんの僅かな休憩時間の出来事。
着席している時も、発言している時も圧倒的な存在感を放つクラレット。
「(あの...お嬢様、どうなっているのよ)」
「(貴女こそ、どういう図太さしてるのよ)」
カランコエは私への魔力吸収を自らの力で打ち消し、注入の要領で音を直接念話の様にして話し掛けてきていた。
「(てへ)」
「(まったく。人の世の王の大器ってことでしょ。似てるもの、彼等彼女に等しく)」
「(彼等彼女...?ラナンには何が見えてるの...)」
悟ったのか、理解したのかは分からないけど、カランコエは目を背けようとしているみたい。
「(何がって問われたら、同列への可能性。彼女の将来性がね)」
「(ごくり...)」
これは、勘付いていたのね、と。
「(それって...そんなはずはない...よ......)」
「(全否定できていない。それだけで十二分だわ)」
私は言葉の意地悪をした。
「(.........勝てない。ラナンには)」
「(私が可能性に関与する。という事をお忘れなく)」
「(はあああああ!?)」
「(その為に来たのよ。この地に)」
カランコエは大きく深呼吸をしていた。
「(その話...乗った!!なんだかとても面白そう!!)」
私は、意外というか期待していた様な、どっちつかずの気持ちのまま嬉しくなっていた。
「(どこまで協力してくれるのかしら)」
「(面白いって感じるまま、なところまで)」
彼女らしい、そう私から評するには短い付き合いだけれど、確信めいたものを確かに感じ取っていた。
「(理由として、十分ね)」
カランコエは顔を逸らしていた。
小さく覗かせる頬から、彼女はほのかに紅葉しているのが見て取れる。
2人で悪巧みをする様な、そんな秘密の共有に実は私も心躍っていたから。
きっと気持ちが通じ合っている、そんな確信を得ていた。
「(ラナン、貴女その...すっごく面白い)」
「(ふふふ、そう?それでも。それはそれでいいかな)」
彼女なりの称賛と受け取っておこうかしら。
だって、とっても嬉しそうなんだもの。