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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
王路院編
228/262

第227階 入学式

 隙間から差し込む神々しい光。

“命の雫”と呼ばれる巨星が放つ、温かく穏やかで蠱惑的な優しい光。


 私は背伸びをしながら、眠気を飛ばしていた。


 新品の制服へと袖を通し、心地良い肌触りに触れる。


 「へっ!?」

(「何これ、すごいふわふわで動きやすい」)


 あまりの着心地の良さに、その場でターンをしてしまい、不安定なバランスなままベッドに飛び込んでしまう。


素晴らしい心地が私を包む。

白く淡く輝くダイヤモンドの様な布地は、私をもう一度眠りの世界へと誘おうとする。


 それを振り払い、私は立ち上がる。

用意していた鞄を手に持って、食事の為に下の階へと降りて行った。


 両親との食事を終え、私は靴を履いて扉を開けた。


 「「ラナン、いってらっしゃい」」


 「お母様、お父様、いってきます」


 そう言って、私はイスベルグ宮殿への第一歩を踏み出した。


 イスベルグ宮殿は王下街シャンデル・ド・グラスにある王路院の一つ。

王都以外の全ての街を総称し、王下街と呼ばれいた。


 王都の名はネージュ。

両親に連れられ、一度だけ王都に赴いたことがあった。

中心に王宮グレールがあり、王墓イヴェールをはじめとして多くの墓が点在する、少し変わった華やかな都。

 荘厳で煌びやか、そして美しく綺麗、けれど物悲しい。

そんな雰囲気をまとっていた。


 私は知っていた。

かの中心である王都がなぜそんな空気に呑まれてしまっているのかを。


ーー空視点


 王下街の王都に近い場所に墓は一つもなかった。遠く離れたほとんど誰も住んでいない様な場所には墓所があるみたいだけど。


 私は左眼の視界だけで歩いていた。

王下街の全容が気になって仕方がなかったから。

右眼の視界は、空から見下ろしている。という事になる。


(「物の転移」)


 沢山の人を乗せた機械の箱がある地点を境に別の地点へと移動している。

移動というよりも移転、ワープに近い。


王都へ行く際に利用したはずだけど、特に気にも掛けていなかったから当時は早く到着したという認識しかなかった。


ちなみに今回は利用しない。

歩いて行ける距離にあるし、もし遠くても1人で移動するなら集然を使うから。


(「ところどころに魔法は使われている」)


ーー私視点


私は右眼の視点を戻していた。



 イスベルグ宮殿。


 私はその門を越え通り過ぎようとしていた。

同じ様に同じ制服に鞄を身に付けた王院生達が門を通り過ぎて行く。


 息を呑む程に美しい白亜の建築物。

まるで王族、もしくはそれに連なる貴族の御子息に御令嬢のみが通う事を許された空間と称賛出来るわ。


 後方が少し騒つき始めた。

その中心に立ち、ざわつかせ、目立つ程に大きな影響力を放つ者が近付いてくる。

私はそっと立ち止まり、その方向に振り向いた。


 まるで“命の雫”の様だった。

私の視線に気付き、微笑む彼女。と明らかに警戒する視線を送り付けてくる、少し後ろから付き従う様に歩くもう一人。


 赤く煌めく、その髪と瞳。

魔法で語るなら、火に愛されている様が一目で分かる。


明らかにかの彼等や彼女達と同列の魂を有していると感じて。


「不思議ね。私をそんな風に、見ている様で見てない目」


「お知り合いでしたか」


 通り抜け様に不意に彼女が話し掛けてくる。

あえて大きな壁を作るよう、強めの他人行儀で返答していた。


「私の名はクラレット」


「お!お嬢様!!」


「私の名はラナンキュラスです。クラレット様」


微笑み返した。


「驚かないのかしら」


「何にでしょうか。その一際目立つお美しい佇まいにでしょうか」


「お嬢様は...」


「フユ!」


「しかしながら...」


「ラナン、学友として王院生活を楽しみましょう」


「えぇ、そうですね。クラレット」


これがクラレットと私の初めての邂逅だった。



 大きな講堂の簡易的な席に着いた私は、ゆっくりとくつろいでいた。

 簡易的とは思ったものの、自宅の椅子に比べればといった感じ。


それなりに座り心地は良い。


 入学式が始まる舞台で私は周囲を観察していた。


当たり前だけど制服に身を包んだ見目麗しい生徒達が笑顔で談笑している光景が広がっていく。


「......お隣失礼しますね」


 私は振り向く刹那で彼女が何かという事を感じ取っていた。

その異質さを。


「えぇ、どうぞ」


そう答え、彼女の顔を覗き込むと彼女は目を見開き驚いている。


「......不思議な方ですね。そして何処か懐かしさを感じます」


「私はラナンキュラス。貴女は?」


「申し遅れました。カランコエと申します」


「その魔術の様なもの。他の方には効果あるのにね」


「!!」


 彼女の驚きは、彼女が無意識に近い意識下で、人体にいつからか構成される様になっていた魔法物質に干渉していたからだった。


それが私には通用しなかっただけの事。


「...うふふ。ラナン様、末恐ろしいですわ」


「まぁ、お互い秘密を共有してしまったようだし仲良くしましょうか」


「えぇ、是非ともよろしくお願いしますわ」

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