第220階 竜天聖域
「アリル...その涙は」
「いえ、なんだか分かりませんが、どうしちゃったんだろう...私」
アリルちゃんの左頬を伝う一雫の涙。
「あー...何か嫌な気がしますね」
「あらキキョウも。実際に強大な一種族を滅ぼしたほうかしらね」
「そんな奴が...ってその対象は悪魔か竜族か...」
考え込みながら、首を傾げるナカリタさん
「あら、御名答。竜族よ」
ーー時軸反 ずらし
ある一定の時間軸を少しずらす。
ちょうど私達がいた場所に太く大量の粒子が空間を圧迫していった。
「ちょっと待って!あんなの受けていたら...」
「ツバルちゃん、大丈夫よ。鉄屑の攻撃なんてかすりもさせないわ」
ーー神異特異
左手に。
一太刀、さらに一太刀。
「...世界の効力が削りとられた...です...」
ほんとアリルちゃんの感性ってとーっても長けてるわ。
「毎度思うけど、あれ躱せる攻撃では決してなかったはずよね...アリル。死を覚悟するほどに」
「まぁ、竜族を滅ぼしちゃった程度には強いわ」
「...そんなの強いに決まってるでしょ!」
「まぁまぁ...ツバル」
「だってよ...アリル!ラズさん自分の強さを分かってない!」
「分かってるわよ、だからここを進んでいる。迷い込んだのはツバルちゃん達じゃない」
「それは...」
「元の蒼の世界に返す為にも、ここでの経験を乗り越えて欲しいのよ。それぞれの形で、心力で」
「ラズちゃん...」
アリルちゃんの小さな手に私の右手が包まれる。
「絶対生きてやる、そう思ってるから、まだ立ってられる。因みに鉄屑達は恐怖に敏感よ。
戦略上、狩りやすい者から狩っていく事を躊躇しない。それが強さとなる時もある。けれど、それを」
ーー槍貫全 白亜剣
少し右手から離れた所で展開させた。
「私が見逃すと思っているのかしら、ね」
息を呑む声が聞こえた様な気がする。
「...剣が浮いてる」
「特に手で持つ必要性は無いかな、ラング君」
「なんだか、かっこいいな」
「ありがと」
ーー空間移 反間淵
「ギギギギギギググググググ...」
爪で私達に襲い掛かろうとしたラディアンスは次元と次元の歪みに挟まれて異常な動きをしていた。
「「あれが竜族を滅ぼしたっていう!!」
「ラディアンス・ロージエイト・リゲイリア、随分と姿が変わってるわ、竜みたいになっちゃって」
トレードマークの大砲が中心にある、先程はそれを用いて砲撃してきたって訳。
「まるでドラゴンのお化けですね...なんだかドラゴンさんの力を感じます、悲しいという感じですけど...」
アリルちゃんがもはや答えを言っているみたいなもんだけど、やるか。
「滅ぼされた竜族は無事、天に還れたでしょうか」
「ラズ...それって、まさか...」
「え、あいつら竜族食うの?」
「おいおいそれってめちゃくちゃやばいんじゃねぇか?」
「竜族だけじゃない。全部食ってたわよ、魔力として」
「ラズさん、私達も...」
「狙われてたじゃない」
「はぅあ...」
「だけど知って欲しいのは、絶望は乗り越えられるって事。私とキキョウはこの天還路にこの時期、たまたまやって来ただけだったわ」
「そういえば、そうですね。もう少しゆっくりしてからでも良かった様な気もしますが、ラズがこうやって突き進んでいるのはとても素敵だと思います」
「「俺たちは」」
「「私たちは」」
「「「ここで旅を終えるかもしれなかった...」」」
「まぁ、でもそんな希望のない物語なんか叩き壊してやるわ」
ーー至常超 はやさ
ーー十知未 ひかり
ラディアンスの魔力で増強した竜族の鱗の様な外皮と筋肉の様な部位をまとめて貫き断裂させた。
ーー剣裂全 漆黒剣
ーー至常超 はやさ
ーー十知未 くだく
「......」
「どうかしら鉄屑」
「オノレ!オノレ!トカゲタチミタイニクイツブシテヤル!!!」
ーー至常超 はやさ
ーー十知未 くだく
私は速さを用いて逆サイドに周り込み漆黒の剣撃を叩き込んだ。
「グギギギギギギ!ガガガガガガ!!」
黒と白が混じり合う。殺戮機械の歪な身体を生で染める様に。
刹那。主砲の最奥に黒と白が到達する直前の一瞬だった。
放たれる。
「きます!」
ラングの手を握るアリルちゃんとナカリタさん。
「死...ぬ...」
いつも気丈なツバルちゃんの恐怖で震わせる肩に手を置いた私。
ーー世死生 完全成
透明剣。
「だから言ったでしょ。希望以外は叩き壊すって」
ーー至常超 ちょく
ーー神異特異
ーー十知未 完全成
「あれが、あのすべてを奪うような光が。まるでチーズかよ...」
カムラ君は驚いて腰を抜かしていた。
「イメージ通りに事が進んでる。何も気にしなくて良いわ。
最期の主砲による攻撃だから。ね、鉄屑」
「ギヤギヤギヤギヤギヤギヤ!!!」
ラディアンスの主砲を十字に裂いた私。
「ラズさんが剣を変えた...?」
「ラングさん、あれはおそらく。あの一振りでないと私達まで届くって事じゃないでしょうか。」
「はい、キキョウ。私もそう思います!あの光、綺麗に私達を避けていきました。ラズさんを中心に」
「アリルちゃんの言っている感じですね」
「オノレ...オノレ......オノレ.........マカイノテンノウ............」
ーー流爆星 完全成
「ふふ」
私はこの瞬間に竜族...ドゲートさんの仇を討ったという事になる。