第218階 魔法を超えた魔法
景色は移ろいでいく、滅びの警告を灯しながら。
「皮肉なほどに綺麗な緑ね」
淡い緑から濃淡な緑が生い茂っている。
深く深く吸い込まれていくように私達は進んでいた。
印象的な光景に私は確かな一つの存在を理解し感じながら。
「俺も強くなったつもりだったけど、まだまだ小さいなぁ」
ラングくんが苦笑している。
「私は...無力なのかも知れない。
この綺麗な緑に身をゆだねるのもいいかもしれないわね.....」
唇を噛み締めるナカリタさん
「ナカリタ、それはダメだ!」
かき消す様に叫んだのはラング君だった
「ナカリタ、私もラングと同じでダメと伝えます。
元の世界へ帰れる方法が少しでもあるなら、力を貸してもらうべきなんです。
私には精一杯のありがとうを伝える事しかできませんけど...」
アリルちゃんが精一杯笑みを灯していた。
「カムラはまだ歩けるの?」
「正直腰抜けたな、ハハハッ」
「何言ってんのよ!」
「おいおいツバル、足が震えてるじゃないか」
「震えてない!」
ーー白亜剣
私は切っ先を私の足元に静かに向けた。
気付かれないように。
「アリル、ラング、さすがに生き残る道を探すわ。それにしても緑が綺麗過ぎるわね」
「ナカリタ、そうしてくれて助かるよ!
ほんとだな、そしてこの緑は緑が濃すぎる」
「魔力を重ねて紡いで...」
刹那、綺麗過ぎる輝きが光る
ーー圧円
白亜でアリルちゃんの目前に迫った殺意たっぷりの輝きを円状に周囲に発散させた。
「はうぁあぁあぁ...」
すくんで尻餅をつくアリルちゃん
に、私は微笑んで怯えた心を包み込む
「...こわくない、です。
貴女もラングもいるから、少しは」
細く白い綺麗な脚が震えてる、まるで景色と同化していくと思えるぐらいに。
「まさか...」
「「「下にいる!!!」」」
「御名答」
ーー漆黒剣
わたしはそう静かに力強く音を言葉に変えて返していた。
鈍くそして淡く力強く佇む、漆黒を引き抜きながら。
ーー時鈍
私は構えを取りながら、後ろに引いた足の小指で眼下の時を鈍くする星魔法を放っていた。
「おいおい、待てよ!?」
カムラ君が千鳥足で驚いている。
「こ、こちらに届くにはまだ時間があります!
「アリル、だからどうする事も出来ないって...」
「ナカリタ!一点突破で技を重ね合い突破する」
「よろしく頼んだわよ、ラング君。
わたしは攻撃に転じるから。」
そう言って私は白亜を定められた台座に置くように正確に見えざる光の筋を追う様になぞった。
ーー十知未 ひかり
私が放った十字の剣圧とぶつかるように巨大
な光が駆け抜けようとする。
私はさらに漆黒を滑らせて。
ーー十知未 くだく
さらに十字を重ねて円の圧力に近付け、分散の力を高めた。
綺麗に周囲のキキョウたちを避けて超常の光が天還路に吸収されていく。
「どうなってんのよーーー!!!」
尻餅をつきながらツバルちゃんがとっても驚いている。
私はにっこり微笑んで、漆黒を上に放り投げた。
ーー神異特異
淡白い光が天還路に迸る。
鋭く、鋭利に、突き刺す様に。
ーー時断
ーー空断
「あの歪なバズーカの様な物体は...何!?」
ナカリタさんが一歩後退る。
「エイクラー・ユーフォリア・エニグマ。
数多の森を焼き、蹂躙し、何もかも奪い尽くした“森林跋扈“
まぁ、いわゆるエルフや妖精専門の殺戮兵器のようなものね」
「汝等ノ愚カサハ滅ビシ同胞ノ嘆キ無念カラモ十全ニ理解...!!!?」
ーー至常超 はやさ
漆黒を掴んでからの。
ーー十知未 くだく
「主砲の横から切り込みを入れてる...」
「ツバル、あれは人の力で貫ける物質では決してないです...」
「アリルもそう感じるのね」
「我ガ装甲ニ深キ傷ガ!!理解不能!理解不能!理解不能!」
「神々と同じ表情するのね。それもそうか、アオナはエルエル、鉄屑達から狩られる側だもんね」
息を呑む声が微かに響く。
表情からして、そうラング君ね。
ーー至常超 ちょく
ーー十知未 ひかり
「ギギギギギギガガガガガガ!!!!!!」
手応え、大ありね。
「ちょっ!だから!なんであんな超高密度の魔術的物質がケーキを切るようにサクッと切れるのよ!」
「簡単よ、こちらの方が物質的価値が非常に高いってだけで」
私は白亜の切っ先を鉄屑に向ける。
「超古代森人ヲ逸脱...解析不能...意味不明...理解不能...予測不能!」
ーー至常超 ちょく
ーー十知未 ひかり
黒光りする鋼質でできた脚を根本から削り、もげて綺麗に宙を舞う。
ーー至常超 はやさ
ーー十知未 くだく
さらにもう2本。
鉄屑が屑鉄に近づいていく。
「あんなの、壊せるわけないじゃない......」
「ツバル、とーっても凶悪な力だってひしひしと感じます。
でも、ラズさんはそれ以上に気高く誇り高いです」
「アリルそうだね」
ラングは2人をかばうように前に立ち、牡丹を構えた。
笑みを浮かべる様にエイクラーはラング君の目の前に姿を現していた。
「脚がないのに立ってる...なんてやつだ」
「羽虫ノ強サ確カメテヤロウ!!!」
光が一瞬で収束する。
量を抑えることで、自身の砲塔の切れ目から無駄な力が漏れない様に。
けど。
ーー至常超 はやさ
ーー十知未 ひかり
「ラズの方が速い!に決まってるんです!」
キキョウが叫ぶ。勝ちを確信している目で。
残った脚の根元に上から食い込む様に当ててバランスを崩させた。
破壊と殺意を纏う超常の光は斜め上方に放たれる。
いくら脚が歩行や立つ為に存在していないとは言っても、平衡感覚を左右する触角程度の機能は備えているはずだと。
「ラズちゃん速過ぎだよ...!あの光、一周回って速度がないようなものなのに!認識できる範囲じゃないし物体が傾く速度よりも速くて...何かを捻じ曲げてるって感じあるかも...」
「ツバル...」
「ナカリタ、私...魔法の事をほんとに沢山勉強して努力して沢山知っていたはずなのに。急に遠くに離れていった、そんな風に感じる...よ...」
「ツバルがいつも頑張っているのは私達がとっても認めているわ」
「ナカリタ...」
その間にエイクラーは後退り後退していく。
「距離を取ろうとしている...?」
「至近距離から叩き込んだからね、距離を取りたくなるのも分かるわ」
「そうよ...!!たとえ無詠唱でも距離で対策を立てられるのがセオリーなのに!」
「そうね、例えば主魔法にいつも副次的に距離を操作する魔法を纏わせられたらとしたら、どう思うかしら」
私はツバルちゃんに笑みを向けていた。
彼女には魔法の才能も理解力もあると思ったから。
ぶつかっている壁が魔法そのものの壁の様な気がして。
「まさか、同時詠唱で補っている...!?」
「そういう感じには、なるわね」
ーー至常超 ちょく
ーー十知未 ひかり
ーー至常超 はやさ
少し遠くで、私と白亜によって脚部から側面へと削りとられたエイクラーがバランスを崩しよろめいていた。
「こんな感じで」
「!!!?ちょっと待って!!魔力が流れてない...し」
「私の保有魔力値は0。魔力を生み出す事はできるけどね」
「魔力0の魔法剣士...?!意味がわからないわよ、失礼かもしれないけど腕力もほとんどないわよね」
「えぇ、わたし自身のとある魔法を使わなければ鍋さえ持てないわ。大人が握る剣なんて床に落としてしまうもの」
「まさかだけどラズさんの握る剣は魔法でできてる...?」
「そうね、私が握れる軽さと安全性でできた魔法剣の様なものね」
「...」
「私が使う魔法も私の特注品みたいにできるのよ、その時の気分や気持ちによってね」
「魔法の特注品...それって魔法を創造するって事...?」
「創造、その通りね。ある程度確立された上で新魔法を生み出すって事よりも、魔法の起源そのものを使役している感じに近いわね」
「魔法の事象そのものを操っているって事...!?」
「そうなるわね」
ーー時重
「話す時間を作ったわ」
「えぇ...そんなあっさりと」
「そういうものなのよ」