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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
天還路編
218/262

第217階 守る者、守られる者


 (「懐かしい。私もあんな風に誰かに守られていたわね」)


 そう、あの日は確か天気が良かった。

突然の暗黒瘴気に見舞われて。

 私は大きな背中の影で震えていた。

まるで世界の終わりが近付いているって。


 「お父さんがいるから、すべて大丈夫だ。ハツミ」


 寒くもないのに。

手足も唇も震えている私とは対照的に、温かい声で私を元気づけてくれた父。


 「うん、お父さん! 」


 「ニンゲンノオヤコカ、モノガタリヲイロドルサイショノヒゲキニフサワシイ!!! ケラケラ」


 私はそいつを好きになれそうにはなかった。

 黒く淀んだ色をしており、沢山の脚が回転していた。

 赤く輝く目玉が特徴的で外皮を殻で覆われている、そんな感じだった。

 今思えば、海老の化け物。


 「娘に手を出す気か...? 」


 「ナニヲイッテイル、オマエゴトミンチニシテズタズタダ。ジャシンノイッチュウデアル、クルマ・ウロボロスサマガナ」


 「ハツミ、実践を通して戦う事を教えるな! だからそこで待っていてくれよ」


 「ブハッ! ナカセルゼ!! ヒトオモイニマトメテイッシュンデアノヨニオクッテヤル! 」


 「泣いたって、怖くたっていい」


 その時の私は怖くて涙を流していた。


 「きっといつの日にか分かる、強くて熱い気持ちが芽生えて宿る」


 そう言って父は私に振り向いた。


 「ニンゲンドモメーーーーー!!! コノオレヲ”テンカンロ”ニホウムッタムクイヲウケサセテヤル!!! 」


 邪神は父の背中を捉えようとしていた。


 「お父さん!!! 」


 私は夢中で叫ぶ。


 「オレは、ハツミやナティラを守りたいって気持ちさ」


 振り向きざまに父は、回転していた邪神の脚を粉々に霧散させていた。


 大きな背中が私の背中に飛び込んでくる。

世界で一番偉大な背中、温かくて、頼れる、私の目指す頂き。


 (「(この背中)を超える」)


 と私は思い、願う。


 父の持っていたナイフが粉々に砕ける。

父の力にはどんな武具も耐えられない。

 物語の勇者が使うオリハルコン製の武具でさえ。


 「グハアアアアアア!!! ハァ、ハァ。ナントイウチカラ。ナオナノルガイイ、ワガタマシイニキザミタイ」


 「キレ・ルイデ」


 父の声はいつもと違う。

私やお母さんに向けてくれる声と。

 圧倒的な圧が場を支配する。

 大きくなく、小さく。

でもその声は心を貫く神槍となり得ていた。


 「キレ・ルイデ。ジツニヨキナダ。ムスメノナハキカヌ。ダガヒカヌ!! 」


 「まずは相手の攻撃の要を削った、次は」


 「ナッ! ハヤイ!! 」


 父は邪神の眼前に迫っていた、自身の脚力で。


 「相手に一気に近付く」


 父の剣閃が邪神を襲う。


 「そして深く斬り込む」


 「グブヌヌヌヌヌヌ」


 後退したものの邪神は深傷を負っていた。

判断が一瞬でも遅れていたら首と胴体は真っ二つだった、そう思わせるには十分だった。


 父は砕けた剣を投げ捨てた。


 「セカイヨワガメイノモト、ヘンシツセヨ!! 月下陽刃!!! 」


 父がオリハルコン製の剣を引き抜いたと同時に眩い光が暗黒瘴気に突き刺さる。


 「エクス・カリバーン」


 父が呟く、空間を切り裂く様に。


「グファ...ミゴトナリ。コヅレノセンシヨ」


 光り輝く十字が、邪神に吸い込まれるように叩き込まれる。


 なぜか、その時の邪神の表情は穏やかに安らいでいたのが印象的だった。



……


………


 「あーもう、ラング!! なんだってあんなヤバい奴等が襲って来てる事実があるんだよ!!! 」


 「それは僕にもわからないよ」


 「それはそうかもしんねーけど! 」


 「うーん......彼等はこの場所から解放されたがっている」


 「アリル、声が聞こえるのね」


 「ナカリタ! 少しだけですけど! 」


 「なんだか難し過ぎてなにがなんだか分かんないです」


 「?? 」


 キキョウが首を傾げているのがとても微笑ましい。


 「アリルちゃん! あんまり覗き込まない方がいいわよ」


 「...はい、アオナちゃん」


 「わかるの? アリルに聞こえない声が」


 「“知るとためになる事”と“知らない方が良いことが起こる事“ってあると思うんですよね」


 ナカリタさんにそう言って答えた。


 「そう、すでに知れているなら教えて欲しいのが本音」


 「人を殺す事って素晴らしい? 」


 これは割と確信を付いていると思う。


 「...それは、肯定できないかな」


 「そういう事よ。彼等はそれを全肯定している、アリルちゃんにとって心地良いと思うのかなって話しね」


  「あぁぁぁ、理解したわ。ならアリルには聞かないで欲しいわ」


 「なぜ彼等はそれを肯定出来るのでしょうか...それはとっても怖い事です」


 「人より優れているから人と共に手を繋いで生きる必要性がないからだと思う」


 「優れてるって、腑に落ちねぇな」


 「カムラぁ、それはないんじゃない? 少なくとも戦闘力って面では」


 「ツバル!? いや、その、あのな...あれだ!最後の俺ら凄かっただろ?」


 「...アリルの奇跡だと思うんだけど、多分」


 「あ、はい...」


 「私、私...本当に、何もしていません! 」


 カムラ君とツバルちゃんが同時にアリルちゃんに振り向く。

アリルちゃんは困っている様子で首を振っている。


 (「ラズが何かしたの? 」)


 キキョウの声が直ぐに耳元で聴こえてくるので、


 (「えぇ、そうね」)


 と返答しておいた。

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