第212階 新しい未来
「この剣の名称は...?」
走りながらナカリタさんと併走するラングが私の横に近付いてくる。
キキョウとアリルちゃんと共に魔法の雲に乗せて先を急いでいた、私達。
「貴方なら、分かる」
「どういう...」
「知っている。か、名付けるだけよ」
「製作者はラズさんだよね?」
貴方に宿った火をもっともっと熱く滾らせるように風を加えただけなのにね。
私がその火に名前を付けてもいいのかしら。
「そうしたら、自由な魂を私に縛り付けることになるわ」
「!!!...ありがとう」
ラングは納得してくれたよう。
だって表情が晴れているもの。
その時だった。
空間に一筋、光の亀裂が入った。
「ラング!危ない!」
アリルちゃんの咄嗟の叫びをかき消すように線状に放たれた光弾が描いた殺意の形だった。
「ふぅ、馴染むねこの剣」
すべての光弾を誰もいない場所へ弾き返し、私に微笑みかけてくるラング。
「そう、それは嬉しい限りね」
「...綺麗ね、まるで私たちの世界の海のようね」
よく見えるようにと言わんばかりにラングが剣を掲げる。
「あぁ、吸い込まれそう」
ナカリタさんとラングが刀身を共に見つめていた。
「だけど...」
ラングは剣を収め、もう一振りの剣を引き抜いた。
「今は“牡丹”で戦う」
正解ね。手で握っていても、収めていても貴方に触れていればいいもの。
だって、そういうものでもあるから。
「ねぇ、ラング...収めた剣が微かに光を宿している...」
私の思惑に気付くように、ナカリタさんが呟く。
「レッド・ハイビスカス!!!」
赤く輝く防壁がラングを中心にみんなを囲う。
まるで大きな花に包まれるように殺戮の光弾を防ぎ弾き返していく。
「さすがに威力が強すぎて相手には跳ね返せないや...」
「私としたことが...ありがと、ラング」
ナカリタさんが恥じらうような仕草でラングに語りかける。
「当然だろ?みんなを守るのは」
「...ラング、その剣。魔剣ではないかしら」
ラングが咄嗟に私が渡した腰に付けた剣を手で確かめる。
「あら、気付けたの?へぇ、ナカリタさんは剣に詳しいのね」
「...ラング、なんともない?」
「とくになにもないよ」
「...ご説明いただけるかしら?」
「お伝えしましたよ」
人と分けて、と。
「どういう...!」
「“牡丹”といったかしら、その空の様に美しい剣は」
ーー時鈍
すぐには決着がつかいないな、と私は心の中で思ったので周囲の進みを鈍足化させた。
「えぇ、そうよ。僭越ながら仲間と共に素材を集めて私が打たせていただきました」
強い瞳で突き刺すように私を見据えてくる、ナカリタさん。
「ナカリタ、どうしたんだい?」
「ラングは口を挟まないで!」
「は...い......」
「貴方は卓越した鍛治師のようね、鉄や鉱石を使った」
「え...?」
「私が使うのは魔力。残念ながら鍛治師としては素人以下の才能なしよ」
「作り人を愚弄しているのかしら?」
私は白亜を引き抜いた。
同時に食い入るような目付きで腰に付けた剣を引き抜こうとする、ナカリタさん。
「私は“牡丹”を人として最高の剣と称したわ。私が差し上げたのは“魔法”」
「へ...」
「「「!!!」」」
キキョウを含めてみなが驚く。
「私のこの剣も、同じ様な工程で剣を成している」
掲げた白亜は静かに佇み、光を慎ましやかに放っていた。
「それをとある賢人達の間では“最終未来”と呼ぶわ」