第206階 青年
明らかに密度が薄い魔力を構成する物質。
上から下に浮力を失って堕ちていっていた。
それでも全ては上に、天に向かって進んでいた。
「天の深淵とはなんなのでしょう...か」
柔らかく飛び交う獣人達を見飽きた、そんなところかな。
「それを見に行くのよ」
「え...?」
「だからキキョウ自身の目で!」
私の背から覆う黒くとても大きな魔弾の影。
「...ラズ!!!」
私に向かって走り出すキキョウに私は微笑んだ。
「白亜」
貴女を守ると。
ーー円天
抜刀と同時に天地をひっくり返す。
切り裂きながら対象の攻撃の軌道をズラすのに適している。
「漆黒」
キキョウと私を対象とした巨大な魔弾は真っ二つになり、どす黒く蝕まれて腐りながら何もない場所で散っていった。
「きーみーたーちーあーぶーなーいー!!!」
「若々しい青年の声?」
驚くキキョウ。
軽装で青髪、普通じゃ手に入らなそうな剣。
「大丈夫ですけど」
「ほんとう!?」
軽い身のこなしで、私の前に彼は立っていた。
「それは良かった!」
とても綺麗に笑う。
無邪気で透き通る様なそれでいて心の底から喜ぶ様な気持ちで。
「それと聞きたい事があるんだ!」
私はどうぞと一言返した。
「僕の仲間を見なかったかい?」
「質問で返す様で良くはないんだけど、巻き込まれたのかしら?」
彼は恥ずかしそうに苦笑していた。
「こちらからは、合わなかったわ」
キキョウが首を傾げている。
「それに倒さないと進めないわよ」
「!」
「強者は時の海と同化し合って時を狂わせる、狂わせた時は狂わせた真理を創る。
まぁ、要するに私達は貴方が足止めしてきた奴の腹の中に放り込まれているってわけ」
キキョウが悲しい顔してあたふたしている。
「まいったな...」
「さらに付け加えると倒さないと会えないわ」
「!!?」
驚いて彼は大きな深呼吸をした。
そして私に手を伸ばす。
「僕はラング、一緒に戦ってくれないか、僕が突っ込むから」
「えぇ、いいわ。私はラズベリー、よろしくね。それと。」
「君もよろしくね」
彼は納得して、微笑みながらキキョウに優しく手を振っていた。
「ハ、ハイ!キキョウです!」
こうして私達は青年ラングと共闘することになったのだった。