第204階 凄く薄く
天還路において沈むというのは、天へと昇っていくこと。
「私達は地獄へと向かっているのでしょうか...」
私の身体に腕をまわしたままのキキョウが不安そうに口にする。
「向かう先は天の深淵よ」
「天の...深淵...?」
「下に落ちていっているのに...?」
ふふふ、と私は吹き出してしまっていた。
「だって、下に...!!」
第七世界のフグの様に膨れるキキョウが可愛くって、たまらなかった。
「宇宙の地の底はどこにあると思うの?」
「!!!」
「それと同じ様なこと、次元の狭間には大地がないのよ」
キキョウは驚いていた。
「地上の常識は非常識かもね」
「でも、進んでる」
私は無言で横に首を振った。
「?」
「弾かれてるの、私達を吸収しえなかったから。それに強い力と引き合っている、答えが分かるわ」
「翼の生えた青年、猫の様な子供、尻尾の生えた母親、鼻の長い男性...」
凄く凄く薄く薄く彼らは漂っていた。
「なんだか、雲の様にふわふわしているよぉ、ラズ...」
「だって、獣人達はみんなみんな喰われてしまったのだから」
「!!!?」
周囲を見渡したキキョウは気付いてしまった、彼らが生きていないことに。
「大丈夫よ」
私はそっとキキョウの髪を撫でていた。
「どうして、彼らは笑えているのでしょうか...」
「苦しませて抵抗を生むよりも、自然に吸収する方が持続があるの。ってこんなこと聞きたいんじゃないよね」
確かに彼らは微笑んでいた。
痛みも苦しみもなく、効率的な魔力源として彼らの精神体は活かされた。
「すべての記憶を失うことが幸せに繋がるとは考えられないわ、だからキキョウ!胸を張って!貴女は生きてる!」
私はキキョウの頭を自然と撫でていた。
「生きている貴女が笑顔でいれる様にしてあげたいと私は考えているわ」
「ラズ!!」




