第198階 時代の終焉
『BUHI !BUHI!!BHuUuuuuuuuuuu!!!』
『BHらしい...」
「す・ば・ら・し・い!!!!!!」
豚の肉が漆黒より削げ落ち空に吸われていった。
それは溢れんばかりの魔力を身に纏っていただけだと私は気付く。
削げた半分の豚頭から私を覗くそれは狂気の目そのものだった。
私は半歩距離を置き、漆黒を構え直した。
「オークの極み」
それはあくまで仮定の話だった。
元より種に与えられる力の絶対値は決まっている。
その保有の大きさを人の世界では才能や潜在能力と呼んでいる。けれど、オークが持ち得るオークと異なる部分を極限にまで鍛えた結果、逸脱したオークが存在する事になる。
亜種では足りなくて、神の介入からやっと体を成す。そんな程度の事。
「御名答!オークという魔王に至らない
無能種が人類最強を殺す!
この出来事こそが素晴らしき真理の改変!!
それすなわち!!!」
「凡才が七賢人を超越すること、かな?」
半面豚の男の表情が不自然に凍り付いている。
「ふふふふはははは!!!!お前は一体誰で何者だ!?魔女か!?それとも地に堕ちた天才なのか!?」
「私はラズベリー、この国の王女よ。
太陽人さん?」
目の前の男が纏う異質さは、かの七賢人と同種の太陽より飛来する人【太陽人】と呼ばれている人種特有のものだった。
その太陽人は発展と繁栄の未来を常に導き出し続けている唯一の人類でもある。
地上における歴史上の偉人さえも平伏し全ての人が畏怖を心に刻まれる、一度も転生を利用せず生き続けた。
かの【西の大帝国】を築いた人類と。
「忌々しい我が肉体に流れる血よ。
彼等以下と位置付けられた刻印が我が身へ烙印されている気分だ!!!その太陽人という呼称にはな...」
余程、嫌悪しているのか、滲み出る魔力が憎悪と殺意で彩られている。
「太陽人、何ゆえこの地に降り立った?」
私の素朴な疑問だった。
「腕試し」
「偉くカッコつけたわね、負け犬が時代の足を引っ張っている様にしか見えないわ」
「口を...慎め!!いや、開いたままでも構わん。私が顎を砕いてやろう」
刹那、黒く染まった刀が両手に握られていた。
ーー時断
動作、行動、距離の零距離を生み出す。
「!!!」
「とーっても、刀を抜くのが遅いわね」
構えたと同時に左手に握られていた刀に私は漆黒を叩きつけ、勢いで黒く染まった刀は跡形も無く散り散りとなって霧散していた。
「ぐぐわあぁぁぁ!!おのれぇ!!」
握っていた左手まで衝撃が貫通している模様。
「何故だあぁぁぁ!!!何故貴様の攻撃如きが...届...く...」
何を捉えたのか、男は眼を開いたまま不動となった。
「馬鳴、太極、夢幻、天眼...ああああああああ!!!何故貴様らは私の栄光の邪魔をする!?」
ーー薄鋭
対象の質と強度をそのまま以上に距離を劇的に伸ばす。
私は薄く引き伸ばした漆黒を男の首筋に触れる様に置いた。
「答えは単純、足らないからよ。才能が、いえなにもかもが」
男は歯を削る勢いで歯軋りをした。
と、同時に男を形作っている肉片が弾ける。
「ふはははは!!!魔女よ!私は世界を支配する者だ、我が命に従え!」
ーー柱合
生命の支柱を整えて生命を鼓舞する。
そして私は漆黒を世界に滲ませた。
「...ぐふっ、ぁあああああああ!!!」
口無き声が強く、大きく、響く。
世界と同化を試みていた御様子で。
だからこそ、世界に深々と漆黒を差し込む。もっともっと深くに。
柱合は発動と同時に相手の生命の支柱がより鮮明に浮かび上がる性質があった。
私はそれを利用しただけ。
それで相手の肉体的な力が少しばかり覚醒したところで漆黒の与える死からは逃れられない。
漆黒が宿す死の量はかの七賢人を持ってしても受け止められなかった、だからこそ私は今ここに立っている。
「どう...?敗北と苦渋を七賢人に呑ませられたあなた方側と完全に分け隔てられる私の持つ力は太陽人さん」
私を睨む男の眼差しは勝利を渇望し飢えた獣そのものだった。
「私は“怪奇日食”と謳われ畏れられ、かの七賢人と幾月を共に過ごしたラー・サマエルだ」
私は一切の躊躇なく漆黒を倒れ伏すラーの首筋に突き立て全神斬離で斬り伏せた。
「その私がこの様な小娘に...がふ!......」
【宝剣シンギュラリティ】さえも。