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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
大魔法神聖王国エテメンアンキ編
198/263

第197階 国家転生

「そしたらどうして王都プエルタ・デル・ソルは現存するの...」


 キキョウは明らかに困惑していた。

自分の信じていた日常が嘘の様な幻想だと私が突き付けたから。


「広い意味での転生は人の生命だけの特別な技と思っていないかしら」

 キキョウは驚く、冷たい手で首筋に触れられたように。

 そして彼女は小さくうなずいた。


「王国が丸ごと、生まれ変わった...っていうことなの!?」


「会社、国、世界。人の生命の営みは、第七世界の四字熟語でいうところの輪廻転生の対象になるのよ。それが異世界の本当の姿。死んだ人の願いや思いが異世界として生まれ変わる」


「それが私の知っている、王都プエルタ・デル・ソル...」


「一度たりとも死ななかった人の営み、言い換えれば人の世界は西の大帝国だけよ。私の国スルグレはまだまだ若いからね!」


「スルグレ...?」


「ちゃんと連れて行ってあげる。聖王の娘ラズベリーの物語をちゃんと終えたら」

 キキョウから涙が溢れている。


「そっか、そうだよね。ラズの話の通りならラズは一度死んでいる」

 私は黙ってうなずいた。


 約束の時間は近づいていた。

神脳を溶かして創った命針盤が指し示す、神々が定めたラズベリーの命日のこと。

けれど(アオナ)(ラズベリー)の宿命を超えられる。



ーー神々に嫌われし魔法使いは魔皇と鳴りて誉れは神域の果てを越えて響いた。

『最弱という恥を知った者は最強への道を夢見る。

最弱という恥を忘れた者は最強への道から外れる。

そして。覚めて諦める。起きられない夜が|最強≪あさ≫の景色を焼き付ける。』



 一つの意思とも捉えられる眩しい光が私の心の奥底に在った暗黒を今この時、焼いた。



 恥ずかしそうな顔でキキョウは大きな瞳で包み込む様に私を覗き込む。

大きな瞳に長いまつ毛、美少女さんに見つめられて私は。

良いもんだなぁ♪と内心思ったりしてみていた。


「何か、ついてますか?顔に」

 無言で見返していた私にキキョウが口にする恥じらい。


「なーんにも♪」


ーー時空飛行

頬をお正月のお餅の様に膨らませてふてくされるキキョウを尻目に私は彼女の手を引いて時を飛んだ。


 そして流れる時空の中で私は自身の持つ力の事を考えていた。魔界の天皇の遺産であった純白と深淵、それと同質の白亜と漆黒は今も確かな成長を続けている。

 変質した成長する神域の魔法を超越した集然達は発動という目覚めを待つ今も確かに息づき自身を包む鞘から引き抜かれるのを静かに待っていた。


 緩やかに流れる時に圧縮された時空を裂いて私達は私達の巡り逢った王都プエルタ・デル・ソルの地を再び踏んだ。


 ひり付く様な緊張感を感じる張り詰めた空気の質から王都全域を包んでいる凶々しさを理解するのに僅かな時間で十分だった。


「キキョウ、私は城へ戻る」

 呼応する様にキキョウは黙って手を離し、強く頷く。


 世界を覆う空からは色は変わらずとも全く光りが感じられず、宮殿ソルからも異質な感じが溢れて纏わり付いてくる。


ーー時空連結

私は玉座前の門と繋げ、場内に漂う異様さとは正反対に異質な玉座への扉の前に立った。


「ラズベリー来てしまったのね、振り返らずに逃げなさい。奴等が気付く前に」

 母である王妃ブルーベリーの魔法による一方的な音声伝達だった。


「サン家は貴女が背負うの。誇りなんて掲げなくていい、ただ民の為に」


『BUHUUUUUU!』


「聞こえたでしょう...」


「私はこの先を知っている」

 だけど私は私の魔法で捻じ曲げる、目の前の現実をアオナの信じた魔法で。

 ラズベリーはこの先の時間軸で死んだのだから。


 逃げられずに。


 この世界で一番高価で頑丈な材質で作られた玉座への最後の扉を私は斬り裂いた。


 漆黒で。

チーズを割くように。


『BUHI BUHI』


「ラズ、母さんの逃げて欲しいという想いを無駄にしないでくれ」

 ハバネロは壁に大きな力で叩きつけられたのか頭から血を流していた。

けれどよれよれと立ち上がる。


「俺が逃がす、最期ぐらい兄らしくカッコつけたいんだ」

 ジョロキアも骨の動きが正常とは異なっていた、それは折れている事実を意味していた。


「......」

 王妃ブルーベリー・サンは力なく座り込んでいた。


 スコヴィルの胴体から上はなかった。

そして王の強さの象徴であった【宝剣シンギュラリティ】は別の何かが握っていた。


「今日、今から起こる現実はサン家の秘匿にすること」

 私はゆっくり、はっきりと生きている3人にそう告げた。


 あの日あの時の今、ネイクリアス・ネブラ・ネクサスに撃たれて死んだラズベリー。


 あの時は。


 私の命を奪おうとして斬り伏せられた【宝剣シンギュラリティ】を白亜で衝撃を殺して受け止めていた。


「なにを...」

 言いかけたジョロキアは口を強く閉じた。


 私は目の前の敵の命を見据えていた。

私を殺せたと確信し、食らったスコヴィルの血を涎の様に垂らすオークの化け物の鼓動に耳を傾けながら。


ーー時空断絶

私の握った漆黒がオークの化け物の左目を繰り抜いた。


 それはオークの化け物との時間的距離を潰し一瞬で距離を縮めた事を意味していた。


 刹那、【宝剣シンギュラリティ】が空を舞い天井に突き刺さる。

 理由はとても簡単。

【宝剣シンギュラリティ】を切り上げただけ。

振り下ろす力が込められる直前に下方から白亜で。


 私は怒りを感じていたけれどなぜか完璧なまでに支配していた。

 それは人類の未来の象徴であったラズベリーの命が奪われる事に対してあの七賢人達だったら同様に感じ、同じ様な行動を取っただろうと心の奥から静観しながら。

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