第193界(階) 無時
「アルテン!2人を連れて飛ぶんだ!」
「御意!!!」
アルテンの背の上でサクラハとモモハが不安そうな顔をしていた。
ーー時計針止
ある範囲の時の流れを止める。
「ミア、動くなよ」
「おい一体何を言っているんだ!?」
魔流胃袋が触れた魔の塊を引っ張り出すために僕はミアと全天と共に時が進まない空間の中にいた。
「ーーーーーー!!!!!!」
「おいおい!何かがボコボコいってるぞ!!」
無時の空間の中で不可思議にも透明なマグマがたぎるように動いていた。
「時の流れる空間から無理して時空を扱う魔力を注いだから暴れている」
「でも待てよ!この場所は時が止まっているんだぞ!?」
「なぜ分かった?」
正解は知っているけど。
「...いや、その...」
母親の大切にしているガラスのコップを割ってしまい、どうすることもできない子供の様な表情をしていた。
「簡単にいうと敵は時に触れられる、もっと簡単にいうなら時の魔法を使える」
「!!!そんなの最強だろ!?」
「ミア、君は最強かい?」
「...何を言ってるんだよ!?魔王様よぉ!!?」
「時は人が創った大きな影響力のある力の内の一つだっていうこと、それだけなんだよ。
ありとあらゆる効果を増減させるのが強力なのは知っての通りだと思う」
「...時を操る奴への対処法なんてあるわけないんだよ!!!」
ミアの周囲に微弱な魔力が渦巻き始める
「それ以上、魔法について知らない頭で考えなくていい。あとはそこでしっかり見ておいてくれよな」
それを、使わせたくはない。
「全天!ミアの側で支えて欲しい!」
「主よ!任されよ。ミアよ、震えなくていい。あのお方は神々を凌駕し魔王に成られるお方だ!」
僕達が動ける理由は実に単純。
時計針止よりも魔力密度が濃い次元に身を寄せられているからだ。
僕と全天の星魔法、そしてミアの秘めたる力。
「ーーーーーー!!!」
「だいぶ無理してるねー?とある場所からかなりの魔力が減ったよ」
ーー時止縫合
上位密度に位置する次元の時を止める。
「これできみの魔力の流れは止まる」
隠蔽の魔法が解かれ、透明な海月の触手のような何かが浮き出てくる。
「なんだよ!敵はクラゲの化け物かよ!?」
「魔力は自由の象徴そのものさ、それを縛り付けているのは神々が持つ全知全能のみ。だから僕...僕達はその領域をすでに超えている」
「ミアよ、あれは劣化版だ。なんとかこうにか魔力を吸い出す役割を保っているようだがな」
「...全天さん?」
「不思議な顔をするな、我は主の願いを叶える為に生まれてきた。そう言い切れる」
「あんたの...主は未来の魔王だけど俺を助けてくれた...そんだけの繋がりだけどよ、一応感謝はしている。それだけは忘れねぇ!未来の英雄として絶対にな!」
ーー魔流胃袋
「抵抗する為の時の魔法は使えないよ」
触手は魔力を吸われ徐々に密度を失っていき消えていった。
「主よ、まったく本体とは関係ない認識で間違いはないか?」
「合っている、魔力を扱う実験をしていたようだね。完成品は稚拙だったけれど」
「...やるせねぇ、それが本当なら人道に反してやがる...!人の生命をなんだと思っていやがる」
ミアが地面に拳を突き立てる。
「超刃は魔力を扱えるのかい?」
「いや、奴らは使えねぇはずだ」
「もう一つ、超刃達は心を持つのかい?」
「心なんて持ちや...おい、魔王!お前超刃の仕業だって言いたいのか!!」
「あまりにも魔力の扱い方が四角四面過ぎてね、人が扱うならもっとまぁるい感じなんだよね。神は卵型かなぁ。」
「それって魔法の扱いがクソへてぇってことなのか!?」
「ほぼ合っているよ。人の場合は発動しないっていう状況になる。例えば魔法の込められた杖は小さな子供でも使えるだろう?」
「あぁ、そうだな...」
納得いくはずもない、どちらにせよ。
ミアは向き合わなければならない。
今も世界の針は進んでいるのだから。
ミアを止めて。
その後、僕達3人はアルテン達と合流していた。
「ミラースよ、これから向かう場所はギルド本部で間違いはないな?」
「そうだね、もはやギルド本部としての機能は全て失われているだろうけど」
僕の横でミアは強く拳を握りしめていた。
「俺は...結局なにもできやしなかった」
「気にしないでいいさ、この件に関しては神々さえ容易には手が出せていない」
「!...神様さえか、少し気が楽になるよ」
そして僕はいつも通りにアルテンの背に乗っていた。