第186界(階) 鴉の嘴
次元の口を抜けた瞬間だった。
アルテンに襲い掛かった何かによる黒い雷の様な衝撃は全天が受け止め、受け流していた。
それが僕の目でなんとか確認できた唯一の情報だった。
けれど僕が感じ続けているもう一つの感覚は違った。
殺意が全く感じられない無機質が動いている。
空気への圧力、異質な風の移動、刹那的な音、規則的な軌道。
そのどれもが通常ならば殺意を有していて当然の行動だった。
ーー熱水縮
僕はその規則的な軌道に合わせ、空間に一つの薄い物質を置いた。鉄を溶かす高熱を纏った圧縮された水。
その直後、自由に浮遊していた無機質な物体は地に落ちて動きを止めていた。
「鴉の嘴が真っ二つに裂けている......」
アルテンが裂けた黒い刃を見ながら驚きの声を漏らしていた。
「なんだそのカラスのクチバシってのは」
周囲を警戒しながら全天が大地を踏み締めていた。
僕等はなんとか強襲を切り抜け新しい世界に辿り着いていた。
「超刃だ」
アルテンからの言葉を受けてもなお、僕は黒い物質をつぶさに観察していた。
形状、臭い、魔力反応、そして僕が裂いた箇所は入念に。
「まだ動くやもしれん、砕くぞ全天よ」
「主よ、後処理は任せて欲しい」
「アルテンに全天、気にしなくていい。もう動けなくしたから」
「!!!?」
「フッハッハッハ!さすがは主よ!!」
「...そう言われてみれば何故動かないのか、粉々に砕くまで修復を繰り返す無尽蔵の殺意が」
「アルテン、超刃の原動力はなんだと思う?」
僕は感触を確かめる為に手で刀身に触れていた。
「!!!、お待ち...」
僕は手で刃の先端に焼き菓子を割る様に亀裂を入れて見せた。
そしてアルテンに笑いかけた。
「...魔力ですかな......」
「半分正解。ところでさ、この超刃達を創造したのは誰だい?神域、いや全知全能を超えていると思う」
「製作者は不明...七大神王間では神々を襲わない為に放置が決め込まれた」
「それって...」
サクラハは哀しそうな表情で口を開いていた。
「実質七大神王並びに神族はありとあらゆる生けとし者へ関与しない事に決めた...」
「神々がどうあれ、あと超刃が100本は欲しいかなぁ。それとさ、命ある者を狙う事は分かっているんだよね?」
「...神々は対象外だった筈だ」
「そこは気にしなくていい、彼等は震えていただけだから」
僕は鴉の嘴と呼ばれた黒い刀剣を粉々にして魔法で作った小瓶に入れた。