第178界(階) 全力
僕は知っていた、この世の全てを。
何故なら僕の生きた人生で、それらは脈動を地上に刻み、人々に奇跡を与え、僕の側で微笑んでいた。
だけど全てがついていけなかった、それが僕だ、1人だけ。
それでも唯一無二の親友達と、僕は今も変わらずに信じている。
僕を孤独にしてでも彼等と友人になりたい奴等はごまんといた。
同級生はおろか、子供も大人も、老若男女全てだ。
僕は今度こそ彼等を超えるイメージを、魔法で表現しようとしている。
彼等よりも早く鋭く、力強く、逞しく。
彼等の遥か先、空も宇宙も知も真理も全もそして自由さえ縛れない遥かなその先へ。
それは僕だけが知っている、それは確かにこの手に在る事を。
僕が創った空間で雷鳴が鳴り響き、赤く滾る炎が遥か上方を砕く勢いで迸る。
既存の魔法の中でも最低ランクの魔法と同様の魔力量で最高ランクの威力を出す要素の組み合わせを創り出そうとしている。
...結果だけいえば今の僕には出来る。
魔法を創る際に無意識に次元の違う別種の要素を引き寄せていたためなのか、明らかに恒常的な魔法を扱う者達の常識的な範囲を凌駕していた。
だけど、それではまだ足りない。
どこにでも漂う安全な魔力要素で僕は創らなければならない。
運良く全ての仲間達が魔法の扱いに秀でている現実など、あり得ないからだ。
むしろ魔法の才覚が無いからこそ魔法を授ける意味があると言い換えてもいい。
その時、仲間達の魔法は最大限の効力で虚を貫けるだろう。
才能が無いから、価値が無いから、魔法を使えないと平気でエラーを出す。
そんな神々のやり方と僕は決して相容れない。
だから、僕が変えると。世界を。
僕が生まれたあの世界でこの世の喜びの全てを8人の友人達に与え、何もありませんと神々は言い続けた現実。
あの寂しく暗く何も残らないあの光景をこれから共に歩む仲間達には見せたくはないと、地獄の底さえ滑稽に思えるほどの深さの心底さで思える。
それから、星の数ほどの魔法が空間に消えていった。
だけど僕は疲れていなかった、それは確かに得たものの1つだった。
けれど、それは当たり前で、ここからが始まりだ。
より小さな力で強力無比な魔法を創る。
それが出来てこそ、勝利が初めて霞んで見えてくるのだ。
今の苦しみなど相対した時の絶望に比べれば、甘い甘いハチミツの様に感じている。
僕はふと一つの事を思い立った。
今の僕が最大限の強化を加えた全力の魔法を放ったら、間違いなくこの空間は砕け散るだろう。
だけど、この時の僕はなぜか、やれるだけやってみようと思えた。
それから僕はありとあらゆる要素を詰め込んだ。
密度、魔力量、全てが今の僕の最高だ。
「逝け...!」
僕は僕の燃え盛りそうな負の気持ちにそう唱えた。
それこそが魔法を創りたい、本当の意味だとあらためて実感する。
するとどうだろうか。
すでに霧散した魔法の残骸が、星座の様に浮き出てきた。
先ほど放った魔法がその微かな残骸とぶつかり合い更に強くなろうと、周囲の残骸の影響を受けて進化の様に書き加え成長していっていた。
そう僕は一つ、当たり前の出来事に着目したのだ。
魔法を放ってから対象に届くまでの空間さえも詠唱中と表現しても過言ではない。
もっとも周囲の魔力を吸収しても成長しきれない未完の魔法だからだ。
それこそが完成された常識的な魔法との絶対的な違いだ。
僕はすでに全天という僕なりの最強生物を創る事に成功している。
ならば吸収能力を持つ攻撃魔法だって創る事は出来る。
まぁ、もっとも時空系魔法を本気で極めたらそんな時間も無になるだろうけど、おそらく。
ひとまず僕は吸収し成長する魔法を放った。
何も相手に当てて爆裂させるだけが魔法じゃない。
もうすでに活きている魔法の表面だけを僕の影響下における物質に変化させる事は全天達との戦いで容易に出来た。
この魔法は成長し続ける、僕の魔法研究と共に。
だから僕はその成長し続ける白い物質を、死んだ魔法の残骸さえ食らい続けるそれを右手に収めた。
人語やその他の世界でも理解出来ない魔法に“ゲイスダリゲード”と僕が名付けた。
この魔法の名に意味は無い、あるのは僕以外が創れず、全ての世界で意味を持たない言葉の羅列だ。
けれど絶対的な意味がある、僕にしか扱えず僕にしか効果がない、完全なる特別魔法だ。
簡潔にいえば高濃度に圧縮された魔法剣だろう。
神々が僕に与えてくれないなら”僕自神“が与えるまで。
僕が信じる魔神が持つ武具をイメージした。
この魔法は成長し続ける。
のちに成長力を高める要素を組み替え、付け加えれば更に短時間で強力に育つ。
生物型の攻撃魔法だ。
これで僕はまずあの男を斬る。