第177界(階) 加護
「“魔王の加護”持ちが2人もいる光景にも慣れたな」
「魔王の...加護...」
リヴァンのなにかを吐き出すように漏らした声にルテミスさんが、不安そうに言葉を漏らす。
「それは食えるのか?」
目の前の熊の様な骨付き肉にかぶりつく全天。
僕は全天のいつも通りの食欲に笑みがこぼれ落ちそうだった。
「いえ...“神々の加護”と対をなす能力補正です。
リヴァンさん、もしやあなたは本当に魔王なのですか?」
白い歯に星が舞う様に光らせ、ポーズを取る、リヴァン。
粘性魔物に歯はない、魔力で作った偽物だ。
魔法でその真っ白な歯を黒く塗り潰してやろうかという衝動にかられたが、一旦保留する事にした。
話がややこしくなるからだ。
「この俺!偉大なる超絶美形大魔王リヴァンを頂点に!その眷属があやかれる力の事だ!!!わーっはっはっは!!!」
それにリヴァンが2言、3言多いのはいつもの事だからだ。
今日も下賤さが響く。
「む!そしたら我は主の魔王の加護にあやかっているのか!!!道理で最強な訳だ!ガーッハッハッハッハッハ!!!」
「...出来れば神々の加護を有して欲しかったなぁ、私と同じ...」
そうか、ルテミス先生とは違うのか。
それは少し悲しいか...な。
「元々武力寄りの神々の加護と私は相性が良くない、魔王の加護の影響下の方がしっくりくる」
「アルテン、それはどういう意味だ?」
「私は遠距離からの魔法攻撃を主体とする、肉弾戦も出来なくは無いが、とても優れているとは言い辛い」
「気が合うな、僕も魔法寄りだ」
「我も魔法寄りだ!強化魔法を授けて下さった」
いや、すまん...全天、武力でカンストするイメージにしたからどうやっても武力寄りだ!
でも待てよ、これは魔法自体を皆が平等に使える様にする意味が出てくるのでは...
そう、最大限に活かすという意味で。
全く魔法が使えない種族でも魔法を戦闘で活かす事が出来れば戦術は広がる。
すでに現段階で、元々強者であるアルテンと全天に、魔法を操る強化回路の様な物を授ける事が出来た。
まだまだ組み込める余地はあるが。
この時点でおそらく僕は禁忌に足を踏み込んでいるが、まるで関係ないかな。
神が作ったとかいう、生まれや才能の様な与えられた何かを打ち破り強くなるには、抜本的な改革が必要だ。
さらにいうと僕には一つだけ確信を持てる事がある。
確かに運命という流れは存在し、その流れの強い部分が現実的に表面化し事を成しているということを。
それに僕は少ない人生で気付かされた事がある、僕自身は人として下位の身体能力しかない事実だ。
これは定められた定義であるともいえる絶対的な事柄だ。
けれどそれがあったからこそ、僕は身体を一時的に入れ替える魔法の構想を思いついたのだ。
思いついたというよりも...それは確かにあった。
けれど人間の特性である成長を捨ててまで得る物でないと人類の大きな流れが辿りつこうとした人々に囁いたはずだ。
「こっちへ来るな」と...だけど僕は違う。
人間を創った神々の遊戯という舞台の上で、悩み苦しみ傷付き、楽しみ、嬉しくなり、喜びを得て来たはずだ、あくまで今までは。
けれどその世界で僕は一切満足出来なかった。
強い力、それと同義の才覚との絶対的な差に悩まされ、羨望を抱いて僕は自分の存在意義を失った。
その役が気に入らないなら役者を辞めて、僕なら創る側にまわる、それだけだ。
僕は僕が主役の舞台を神々に与えられるのではなく、僕自身が主人公として神々が用意した、あの8人の英雄たる主人公達と同等以上であると示す必要がある、それが僕の答えだ。
他の誰でもないたった1人の個たる人間の本能よりも、もっと根幹の部分の気持ちだ。
...だから、僕が知り得、考えられるだけの強さを全て託すぞ......
全天!アルテン!君達と共に勝って僕と共に笑おう、旅の果てで!!!