第176界(階) VS最強の2人
「ん...?」
アルテンに奇妙な無感覚が走っているのが体内向けの魔力探知から読み取れている。
人の世界で例えるのであれば、体内の血流が分かる魔法だ。
僕の特別製の魔法のため、魔法学に分類されていないはずだ。
その影響に合わせてか“白銀の竜”はいつもの調子からは似合わない無表情になっていた。
「お...ぉ...お...?」
全天もまた同様の感覚を得て、こちらは驚いているようだ。
...とある日、僕はいつも魔法の研究をしていた空間に、全天とアルテンを呼び寄せていた。
「ミラースよ...なんともないぞ」
「主よ!なにが起こったのか、まったく分からないぞ!説明を求める」
2人の言葉に僕は心の底から大喜びしていた。
なぜなら、神体領域での密度変換をたった今、終えれたからだ。
それに伴い体内での流れが激しかった2人の魔力も落ち着いていた。
「2人は強くなった、今まで以上に。
そして僕が望む以上に。
だから、これからも己の生きる道を信じて歩いて欲しい。
さぁ、ものは試しだ!」
「戦おう!!」
僕の言葉に2人は戸惑いながら笑みを向けてくれた。
やる気満々の様子だ。
「私達2人相手とは...とても元気な事で」
自信に満ち溢れた言葉を放ちつつ、距離を取るアルテン。
「主の胸を借りるつもりで」
対称的に敬意を称し飛び出してくる全天。
それに合わせて僕の拳と全天の拳が鍔迫り合いを起こす。
衝撃が空間を激しく叩く。
力が凝縮された僕の拳にただ純粋に力任せな全天の拳が荒波の様に襲いかかる。
全異世界最高硬度は分かってはいたが、やはり硬い。
僕は魔力で同じ硬度を保ち続けている。
更に硬度を突き崩す魔法をまといながら拳を黄金の身体にぶつける。
しかし全天は比類無き戦闘センスで“僕が与えた新しい力”を使い、僕の突き崩すための魔法を弱体化させながら自身を再生していた。
全天は生物学の理論上最強の肉体を誇る様に創った。それは全異世界最高の魔金属オリハルコン、異世界人達が誇る金属系科学技術の最硬傑作と名高い魔合金アダマンタイトさえ容易く粉砕する強度だ。
「主よ」
「なんだ?」
僕等は拳を合わせながら話していた。
「もっと力を高められそうだ」
「まったく...お前ってやつは頼もしいな!それが僕がさっき与えた力だ」
より打撃を強力にする魔術的要素が全天に集まる、僕が与えた力を使用して。
結果、僕は押され始めた。
こればかりは仕方がない、元々の種族差がある。
完成された種族と人の、しかも最弱ランクでは。
そして、その差によって僕に隙が出来る。
僕は熱さをかき消す様に熱を帯びた空気を外に追い出していた。
なぜなら、その隙をついてアルテンの放った天を突き刺す様な炎が迫ってきていたからだ。
あまりにも輝く灼熱の炎に、使用者であるアルテン自身も驚いていた。
だけど僕はただ真っ直ぐとその炎を見つめていた。
いかに強力であろうとも牽制で放たれた一撃にやられる訳にはいかない。
灼熱の炎の表面だけをすくう様に僕の魔力の影響下に変化させ、強化要素を流し込んで2人に返した、いわゆる魔法の倍返しだ。
爆炎と激しい光が2人を包むが、まるで倒れる気配はなかった...まぁ、当然だ。
着弾までの僅かな時間でアルテンの放つであろう炎と同等の威力にしたからだ。
熱が周囲に霧散し、2人の表情がはっきりと見えてきた。
そして2人の足下の空間だけが削れずに丸く残っていた。
「...ちょっと待て...ミラースよ...」
アルテンが何か言いたげだったので、僕達はそのまま休戦する事にした。
「一体...この私の身に何が起こっている...」
「我もだ!!主よ、このみなぎる力!!実に素晴らしい!!!」
そこまで賞賛されると僕も創ったかいがあるというもの。
「アルテンには龍魔法を、全天には星魔法を授けた。
けれどまだ両方とも検証が必要な初期段階だけどな」
龍魔法と星魔法の未知の単語が生み出す力に2人は驚きの表情だ、だからこそ僕は続けた。
「龍魔法は最高の攻撃型魔法を目指し、星魔法は最高の補助型魔法を目指す。
もっとも魔法が常識化されているであろう元神を驚かせるとは思わなかったけれど」
「そうか、目の前の未来の大魔王は魔法を創ったのか...」
「未来の大魔王か、なんかこそばゆいな」
「それでは、未来の大魔王に1つ面白い話を聞かせてしんぜよう。
魔法を創るという事に関する話だ」
「面白そうだな!」
ではではと言わんばかりにアルテンは微笑む。
「魔法は神々が創造したと、古文書や遺跡の壁画にも記述があるが実はそうではない。
その秘密が竜族の地の奥深くには眠っていたのだ」
へぇ...体裁の為の隠蔽か、事実を隠す為に1種族を滅ぼすか。
消すための理由はいくらでも用意出来るからな。
人里を襲う計画を竜族が画策していたから、天罰を下したとでも。
「その謎を担うのが最古参の種族、エンシェントルーラエルフ。
人族に瓜二つの種族で通称は“エルエル”。
魔法を創った種族だと神界のトップシークレットとして囁かれている。
神界の奥地に封印された場所にある古い伝承では音と自然を同調させ魔法を自由自在に使いこなす、それには地球人の歌に似た適性が必要らしい、その名残が伝承だ。
そして過去のエルエル達が魔法の鍛練に血や汗を流した結果、受け継がれゆく魂に刻み込み、無詠唱魔法の利用者が世に存在する様になった......」
僕はそこまで聞いて空間魔法を解いた。
周囲に広がるのは、遥か彼方の最深部まで黄金の様に美しい緑が豊かに広がるとある森であった。
...僕はこの世界に詳しいであろう、アルテンに前々から聞きたい事があったのだ。
その理由が僕自身の星魔法で木に変化した僕と全天、そしてアルテンの目の前を通り過ぎる、目を奪われるような神々しい何かが大行列をなして。
森の秘宝でも想像させるかの様な美貌を持ち、大きくそして強く練り上げられた魔力を保有する種族がゆっくりゆっくり大地を踏み締めながら森の深淵へと歩を進めていた。
アルテンの微細な魔力の乱れから僕は察した。
神々以上の練り上げた魔を時として保有する個体が生まれる、この種族こそがエルエルことエンシェントルーラエルフだと。
通り過ぎた世の神秘達の後で、僕達は静寂と共に時を過ごした。
僕は答えを持っているであろうアルテンの言葉を静かに待ったのだ。
「...信じられぬ、神々の全知全能の英知を持ってしても探知出来なかった、かの種族をこの目で拝見出来るとは」
これではっきりとした。
神々よりもエルエルの方が魔力に長けている真実がある事を。
「...それは良かった、僕も嬉しいよ。
謎が1つ解けて」
成し遂げたい、届く為に。
奇跡の類い、いや...偉業の類いを。
...でないと、勝てない....彼等らには、一生誰も。
僕は未来の自分に願う様に呟いた。
共にある為に勝ちたい、ただそれだけだ。
同等でありたいと。
僕は掴み取りたい。
僕自身の価値を。