第174界(階) 竜族の王
「ゲホッ...!ゴホ...!」
咳き込む竜族の子を慈しむ様な瞳で包むルテミスさん。
悲しみを拭う様に涙を神々しい布切れで拭き取り、伏せる竜族の子に笑顔を向けていた。
「竜種を滅ぼすなんて、神々の力はとんでもねぇな...」
粘性の身体で器用に使っていた箸を静かに止めるリヴァン。
身体が粘性だからなのだろうか、皿が積み上げられている光景からいつにも増して旺盛な食欲だ。
風船のように異様に膨らむ粘性の身体に突っ込みを入れたいが、この空気感だから今は放っておこうと思う。
そして僕は目配りした、竜族の子に。
眠ったまま度々咳き込む姿に、何故だか愛着の様なものが芽生えてきた。
「名付けて読んでみるか...」
僕がそう呟くと、アルテンがこっちへ寄って来た。
「是非とも願いたい」
小さな可能性にでもすがりたいのだろうか、その佇まいと大きな瞳が現す意思の強さに圧倒されていた。
「ドゲートはどう?」
名前自体に特に意味は無いのはいつものことだ。
だからこその特別であり、同じ名を持つ者など彼の世にも此の世にもいない。その事だけは確信を持てる。
「うむ、では竜族の子は今からドゲートだ」
全天が何やら嬉しそうだ、それなら良かったと心底思う。
「これで、魔王様の加護によりドゲートとして生きる事が出来る」
アルテンは深々と頭を下げる。
「...」
僕の実力が魔王に足らないのが口惜しいが、成れば良いだけの事。
この出来事は僕が魔法研究に没頭し、強さに対する貪欲さのきっかけの一つとなった。
魔王は単純に強い、それが世の道理だ。
そして世界の答えだからだ。