第173界(階) 最期の竜族
「......」
僕等は彼に出会った、今この瞬間に。
異質な力の正体を探り僕等はその場所に辿り着いていた。そしてその場にいたのは竜族の子供だ。夥しい量の毒に侵され、いかに竜族の強靭な生命力と身体能力を持ってしても死へ向かう量、致死量だ。
「ぐ.........」
アルテンは堪えきれずに声を漏らしていた。
竜族の子の生命の期限は竜族を滅ぼすまで。
その刻までは強力な聖域の魔法の影響の下にその子竜の生命を削り切れない様に仕組まれていた。
毒の成分もまた不可思議なものだった。
邪念、怨念、殺意、悪意等のまるでパンドラの箱の中身の様な強烈な負の魔術を元に作られていた。
生命の危険を顧みずとすれば威力は格段に上がる、の極致ともいえる魔術だ。
しかもこの魔術は竜族の地、全域に施されており幸か不幸かその大規模魔術の中心に選ばれてしまったのが目の前の竜族の子だった。
「...アルテン、一人で行くなよ...」
「...」
僕は彼を止める立場では無かった。
けれどもアルテン一人では神々には勝てないのは明白だった。
大規模魔術は集団の力が不可欠だ。
僕等は組織としてもっと大きくならねばならない。
そうそれこそ人類を脅かす魔王軍として。
全てを失った竜の子はただただ死を見詰めていた。そう、僕は感じた。
身体は魔法で戻せても心は戻せない。
僕に為す術は無かった。
--負流気化
それでも僕は毒を消し去った。
「死を拒絶しているのか...」
突如具現化したサートゥルヌスは確かにそう言って続けた。
「生物の本能か」
アルテンに静かに見つめられている竜族の子に優しく語りかけるサートゥルヌス。
「プルートー、私は眠ろう。そして竜の子と共に在ろう」
「心を生き返らせられるのか!!!?」
僕の叫びにサートゥルヌスはニヤッと笑う。
「竜族は我が身体に息づいている!生きたいと叫んでいる!何がと問われれば、熱き魂達が!!!!」
竜族が繁栄しそして多くの死を迎えればサートゥルヌスはまた蘇る、そんな未来が見えてしまった。
「人の子よ、私は賭けよう、竜族が生きる未来に」
「...また会おう、僕も生き続ける。その時には神々はいないが僕の統治する世界を見せてやるよ」
サートゥルヌスは不敵に笑う、僕とは対照的に。
「竜の子の瞳に見せてくれ!それで私も見た事になる。我が輪廻は不滅也!」
そして竜の子はあたたかな光に包まれた。
天に昇る巨大な龍の様な大きな光だった。
そして僕等に見え感じる場所にサートゥルヌスはいなかった。