第170界(階) 人類最強
僕等は土のステルラを手に入れた。
竜族の死を束ねた力が僕の手に這い蹲り皮膚を舐め尽くす様な感触を確かに感じた。
まるで僕の生命を羨むかの様に。
束ねられ紡がれ均一に配置された美しい生命の不文律という完全性が齎す狂想曲が無質量の重みと成ってそこには形成されていた。僕はそれを事細かに観察し感じていた。
「ほぉ、ステルラは確かに死に関連する物だと言ったが土のステルラは竜族の死に関連性が近いと?」
「あぁ、そう思う。ステルラが複数あるって事は種族か生態とか何か統一性があると思うんだ、その方が魔術的な素養も強い」
僕はアルテンの質問に答えていた。
「もっともステルラが既存の人間社会に
存在しないものだから神々は知らないのでは?」
それに神々を創ったのはあくまでも生きている人間だという仮説も立てられる。こちらには検証が必要だろうけど。
「なるほど...一理ある。神域外か、それなら納得がいく」
何処か満足げとも言わんばかりに飛翔スピードが上がる。時空を切り裂き更に加速していく。
「それにしても全天は生まれて日が浅くとも時空を超えられるのだな?」
横目で応える様にチラ見する全天。
「まぁ、お前が何を思うが勝手だが」
ふんっと満足げに鼻を鳴らす。
「時空程度操れなくてどうする?」
バチバチと火花が見える程に2人は睨み合っていた。
「時の魔法を持たせて貰える様に願ったのは“本当に守りたい者”に対して間に合う為さ。だからさアルテン、頭で考えるよりも遥かに簡単な事なんだよ。」
世界中の誰もが諦め投げ出す様な事を一瞬で解決してしまう様な奇跡を毎日起こす、そんな奴等と確かに生きていた。
「たとえ禁忌の大技でも神々しか使えない特別でも何でも無い、必要だから持たせ、願いを込めた。それにもう一つ、僕等は持つに相応しい、それだけは絶対だ。勿論アルテン、君もさ」
アルテンと全天は満足そうに微笑んだ。
僕等は超える、時空の彼方さえもその先に僕等が在る筈だから。
「冥のステルラはここにある筈だ」
僕はアルテンから降りて周囲を見渡した。
正直言わせて貰えばこの地には何も無い。けれどそれは目で見た時だけだ。
「...ステルラは一体何なのか?何の為に存在するのか」
聞いた事の無い声が響き、僕の心を一つの感覚が支配する。姿形は違えどこの感覚は...そう、いつも感じていたあの日々に似ていた。
目の前の突き出た岩に座っていた。その黒髪の青年は僕を見るなり目を見開いた。
「ほぉ?面白そうだ、まとめてかかって来い」
そう言って彼は長短の剣を引き抜く。
その瞬間 、時間を削り距離を縮めた全天の荒々しい一撃が彼を捉えたかに見えた。
「見えなかったが狙う場所は分かっていた、殺意が感じられた」
全天の攻撃を受け流しつつ短剣で受け止める男。
「名を名乗ろう、俺の名はルヴァイ」
「我が名は全天」
「...悪いがテメェには聞いてない」
そう言ってルヴァイは自身の身体を回転させて全天に攻撃を繰り出すが全天はなんの気なしに避ける。けれど時空系の技が行使できなかったらと考えると背筋が凍る思いだった。それ程に次元が違う。
「......」
アルテンは動かなかった。
「僕はミラースだ」
不敵に口元で微笑むルヴァイ。
「君は懐かしい、何故だか知らないが」
そう言ってルヴァイは二本の剣を同時に構える。僕はその間に念を2人に送った。アルテンにはステルラの場所の特定を、全天には僕の死を避けさせる事を。
そしてルヴァイは僕の喉元目掛けて剣先を滑らせてくる。
ーー光体変換
高速で迫るルヴァイの回転攻撃を、僕自身の身体を光に変換させて回避し反撃に出る。
ーー手刀幻金
オリハルコンをイメージした手刀でルヴァイに斬りかかかり、単純に硬さでルヴァイの長剣を叩いた。
ーー風体変換
ーー水体変換
そして自身を風や水に変化させ人体の構造上不可能な動きでなんとか避けられていた。
それは剣術が素人以下の僕がルヴァイと対等に渡り合っている意味でもあった。けれどルヴァイの身体能力や反射神経に判断能力は凄まじく圧倒されていた。また僕の攻撃を何手先も読んでいるかの如く寸前で避ける。
けれどこんな時でさえルヴァイ相手にこれだけの接戦を繰り広げられている感覚が僕自身の魂の更に奥の根幹の何かへ何とも言えない高揚感を湧き上がらせそして燃え上がる様に包まれていた。
それはまるで現実で地上から太陽を掴む様に無謀で愚かだと囁かれ何度も聞かされた、彼等に勝つという誰もが諦めたあの場所へ。ほんの些細だけど指先が触れた、そんな瞬間だった。
初めて出会ったあの日、何も考えずに一心不乱に彼等と共に楽しんでいた純粋さを思い出す様に。
劣勢なら御の字、それも自身の手の届く可能な範囲で自分の力が通用している確かな実感があったからだ。
全天の顔を一度だけチラ見したけど...驚いた表情をしていた。
けれど勝負は意外な形で決着が付いた。
全天は一瞬で僕を救い出していた。念で助けて欲しいと送っていたのだ。...そう疲れたのだ。
そしてルヴァイと戦って感じた事が一つあった。彼は最強に限りなく近い近接物理職だ。
なお中長距離ぐらいまでならその脚力で追い付く様だ。
けれど時空の彼方迄は追って来れまいと僕等は時空の海へ逃げ込んだ。
そしてそこには冥のステルラがあった。アルテンが探し出せたと念で連絡をくれていたのだ。最早間一髪だった。
あれ以上戦いが長引いていたら僕の腕は一本ぐらい無かったかもしれない。それぐらい危うい相手だった。全く、力を試すどころじゃない。